51.それが吸血魔純血党のやり口です
女学院潜入編は三日目の昼になりました。
主人公は女体化中。
康史の偽名→ココア・コーヤマン
深沙央の偽名→ミサ・ミクライアン
「かの者を癒したまえ。ヒーリングケア!」
トーワが吸血魔に襲われた子に治癒魔法をかけた。
吸血魔は上級ではなかったようで、襲われた子は人間のままだった。噛まれた跡も治っていく。
「トーワ、オマエ」
「いいのよ」
サッチャーは先ほどまでケンカしていたトーワの行動を、何とも言えない表情で見ていた。
俺と深沙央さんはカエル型の吸血魔を探すため、木立の中に分け入った。
「あそこにいるのは……」
「ええ。やっぱり先生だったんですね」
カエル型と同様のケガを負ったドトーナ先生が倒れていた。
俺の波津壌気でドトーナ先生を治して、トーワたちには決闘をしない約束をして帰ってもらった。
ドトーナ先生には事情を聞くために俺たちの屋敷に来てもらった。
「お二人とも、軍が遣わせた捜査員だったのですね」
応接室に招き入れた先生は、素性を明かした俺たちを驚愕の眼差しで見つめた。
「教えて先生。学院の教職員の身元はしっかりしたモノだと聞いているわ。でも先生は吸血魔だった。もしかして本物のドトーナ先生と入れ替わっていたりするの?」
深沙央さんの詰問に先生は首を振った。
「いいえ。私は私として学院の教師になりました。最初から本物のドトーナ・フロッゲンであり、吸血魔です」
「どういうこと?」
「この国には正体を隠して平穏に暮らしている吸血魔が大勢います。私もそのうちの一人です。信じて下さい。私は今回の襲撃事件とは無関係です」
「信じるわ。だって先生は私たちを守るために悪い吸血魔と戦ってくれたんだもの」
「うん。それに俺たちは人間と仲のいい吸血魔を知ってるんだ」
扉がノックされてマーヤが入ってきた。
「ドトーナさんですね。私はマーヤ・パルシェイル。吸血魔三大伯爵の一人です」
「パルシェイル! すると貴女が吸血王の婚約者……」
先生の本音を聞くために、同じ吸血魔のマーヤに来てもらった。
「俺たちはマーヤと暮らしているんだ。全ての吸血魔と敵対しようとは思っていないよ」
「そうだったんですね」
ドトーナ先生は緊張が解けたらしく、やっと笑顔を作ってくれた。
「ところで先生。学院の生徒を襲っている吸血魔に心当りは無いかな。さっき倒した吸血魔は、生徒を襲ったっていう吸血魔とは特徴が違うんだ」
襲撃犯はカメレオン人間だったと中尉から聞いていた。今回襲ってきたのはテントウムシ人間だった。
「そのことなんですが。私の父が吸血魔でありながら王国軍の将官をしています。父に頼んで軍の捜査員を動かしてもらっているのですが、その正体は掴めません。ですが」
先生はマーヤと視線を結ばせた。
「もしかすると」
「先生?」
「滅多なことは言えませんが、もしも吸血行為が目的でないのだとしたら」
先生の言葉を受けてマーヤは頷いた。
「特定の者に対しての嫌がらせだと思います」
「嫌がらせにしたって度が過ぎるだろ」
「それが吸血魔純血党のやり口です」
なんだよそれ。マーヤは続けた。
「吸血魔純血党とは、吸血魔の血統を守るための過激派です。吸血魔と人間が交わろうとすれば、あらゆる手段で二人の仲を引き裂こうとします。恋人たちの周囲の者から襲うことで、交際しづらい状況に追い込むことは常套手段です」
「生徒が襲われたのも、誰かと誰かを別れさせようとしているのかもしれません。そう考えると、やりきれません」
ドトーナ先生は表情を硬くした。
人間と吸血魔。せっかく仲良くなっても邪魔するヤツらがいるのか。
「嫌がらせのために生徒が襲われたとなると、先生みたいに正体を隠している子がいて、さらに人間と付き合っているってことになるわ」
「深沙央さん。生徒の誰かが吸血魔と付き合っているってこともあるよ。それに生徒の数は多い」
ほかの先生が吸血魔って可能性もある。一体誰から当たればいいのやら。
「思い出して康史君。感知系の波津壌気を使ったとき、先生と同じ感覚が寮の玄関のほうからしたのよね」
「あのときの三人か」
そうだ。あのとき玄関にいたのはトーワ、パン屋のクエナ、門の兵士。あのときは自分の感知能力を疑っていたけれど、先生が吸血魔である説は正しかった。
だったら三人のいずれかが吸血魔であって、人間と付き合っている可能性は高くなる。
「早く保護しないと最悪の場合、殺されてしまうこともあります。私だけでは誰が吸血魔なのかまでは分かりませんでした。教師としてお願いします。吸血魔を捕まえて下さい」
頭を下げるドトーナ先生に俺たちは強く頷いた。
ドトーナ先生が帰宅したあと、俺は三日ぶりの自宅だということで男の姿に戻った。寮に帰ったらトーワが吸血魔かどうか波津壌気で確かめよう。その前に風呂に入って汗を流そうか。
リビングに行くとエリットたちが布でなにか作っていた。
「エリット、服を作っているのか?」
「違いますよ康史様。布と綿が安く手に入ったので、みんなでヌイグルミを作っているのです」
「なんで?」
「先日、マーヤさんとシーラさんがアラクネさん用のカバンを作っていたんですよ。それは見事な腕前でした。アラクネさんのヌイグルミまで作ったんですよ。それで私たちは触発されて、屋敷では御裁縫が流行しているんです」
テーブルの上には猫のアラクネそっくりのヌイグルミが置かれてあった。見事な出来栄えだ。
「猫のときだってアタシはもっと美人だよ」
人の姿をしたアラクネは酒を飲みながらヌイグルミに文句を言った。
「それでみんなは何を作っているのかしら」
深沙央さんがみんなの手元を覗きこむ。
「今はちっちゃいアラクネを作ってるんだぞ」
「パティアも来ていたのね」
パティアは、手のひらサイズの猫のアラクネを作っている最中だった。それにしても不細工だな。形状も猫とは言い難い。塊から四足と尻尾が伸びたナニカだ。
エリットや他の子が作る猫は、なかなかの出来栄えだ。赤や黄色や白。いろんな色の小さなアラクネがいるんだな。
「へぇ。可愛いわね。アイテムバッグにつけてみたいから、捜査が落ちついたら私も作ろうかな」
女子ってカバンにヌイグルミとかキーホルダーとか付けたがるよね。
女の子の一人が立ち上がった。
「深沙央様、もうすぐ完成します。私の物で良かったら貰ってほしいんです」
「え? 悪いわよ」
「深沙央様は命の恩人です。差し上げられるものといえば今はこれくらいしかありません。受けとっていただければ、私はとっても嬉しいです」
「じゃあ、遠慮なく頂くわ」
それを聞いた他の女子たちの裁縫速度が上がった。
「私の猫も差し上げます。もらってください」
「この猫を私だと思って、御側において下さいね」
「深沙央様、私のが一番可愛いですから。是非手にとって撫でまわして下さい」
深沙央さん、モテモテだな。
俺のもとにはパティアが自信満々という感じで近づいてきた。
「康史にはパティアのものをあげるんだぞっ」
うわ。来たよ。塊から四足と尻尾が伸びたナニカが。




