50.彼女 復讐をぶち壊す
女体化して女学院へ潜入せよ!
そんな感じで三日目の昼。
康史の偽名→ココア・コーヤマン
深沙央の偽名→ミサ・ミクライアン
康史の言葉づかい、女体化したけどいつも通り
「噂ではですね、騎士クラスの人が先輩を引き連れてトーワちゃんをやっつけようとしているとか、してないとか。トーワちゃんは大勢の人間を敵に回してしまったようなのです」
「大勢って……トーワは一人なんだろ。袋叩きじゃないか」
俺とマリッパは決闘場所に急いだ。焦りすぎていて深沙央さんを連れてくるのを忘れてしまっていた。
街はずれの雑木林を越えると開けた場所になっていた。トーワの姿がある。騎士クラスのヤツもいる。まだ二人しか来ていないけど、このままではトーワが危ない。
「マリッパ、幻覚魔法で人間を出せるか? いつもの魔法のお友達でいいから」
「威嚇するのですね。わかったのです」
マリッパは魔法で学院のニセ生徒を十人ほど出現させた。
「トーワ!」
「ココアさんにマリッパさん。それになんで騎士クラスの人たちまで?」
トーワは振り向くと驚いていた。マリッパが魔法でつくった生徒は、魔法クラスには騎士クラスの者に、騎士クラスには魔法クラスの者に見えてしまうのだから。
「ココアさん、どういうこと?」
「うしろの騎士クラスのことは気にするな。それより、どうして決闘なんてするんだよ」
「こういう流れになってしまったのよ。それに、アナタには関係ないでしょ」
「どんな事情があろうと、クラスのヤツがボコられるのを見てられるか」
騎士クラスの二人の内、一人がトーワに話しかけてきた。
「へえ。オマエ友達がいたのね。まぁ何人集まってきても、こっちは先輩が加勢に来てくれるから。私はオマエが騎士クラスを侮辱してきたことを許さない。二度と口が聞けなくなるように礼儀ってモンを叩きこんでやるわ。その身体にね」
たしかコイツはサッチャーとかいう生徒だ。相当恨み神髄だな。
マリッパの魔法生徒を見て退いてくれたら、なんて考えていたけれど甘かったみたいだ。
そこへ騎士クラスの生徒が一人、駆けこんできた。
「大変だサッチャー。先輩たち、来てくれないって」
「ええ? どうして!」
「急に兵士養成所の男子と食事をする予定になったんだって。そのあと一緒に遊びに行くって言ってた。それを聞いたウチのクラスの子たちも参加したいって言い出して、先輩たちについていっちゃったわ」
「なんでそんな事に」
「ああ、たぶんそれ、私のせいだと思う」
最初からいた騎士クラスの生徒の一人が手を上げた。あ……深沙央さんだった。
「先輩たちから男を紹介してほしいって頼まれて、合コンをセッティングしてあげたのよ。今ごろ街の格安食堂で仲良くゴハンを食べているんじゃないかしら」
そういや昨日の夜、先輩たちに懇願されたな。もう出会いの場を用意したのか。
「深沙央さんは仕事が早いね」
「中尉に緊急事態だと伝えて、養成所の男子を集めてもらったのよ。男子には将来の職場仲間との交流会だと言っておいたわ」
そうか。先輩たちに素敵な出会いがあるといいな。
「そんな……決闘はどうなるの?」
サッチャーは顔を真っ赤にして、駆けてきた仲間に怒った。
「トーワにバカにされてきた日々を忘れたの!」
「そんなこと、どうでもいいじゃん。私も早く戻って合コンって言うモノに行きたい。カッコいい男子がいるかもしれないよ」
「決闘は?」
「学院を卒業すれば悪者と好きなだけ戦えるって。それより今を楽しまなきゃ。私、行ってくるね」
サッチャーの仲間は走り去ってしまった。
「そんな、なんだよ合コンって。どういう意味よ!」
この世界にはまだ合コンという言葉はないみたいだ。
「あの、サッチャー?」
トーワは泣き崩れそうなサッチャーに声をかけた。ところが
「うるさいっ。トーワ、すべてはオマエが悪いんだ。オマエさえいなければ、私の学院生活は平穏だったのよ。よくも掻き乱してくれたわね」
「学生といえども騎士らしく振る舞わないアナタ達が悪いのよ。常に強さを追い求めない者が騎士になったところで、悪い吸血魔を倒せるとは思わないわ」
「オマエのそういうところが嫌いなのよ!」
サッチャーは剣を抜いた。
「魔法クラスが何人来ようと私はオマエを許さないから。それにここには最強のミサ・ミクライアンがいる。絶対に負けない」
頭数に数えられている深沙央さん。ああ、話がややこしくなってしまった。
ここはトーワに一言謝ってもらって、サッチャーに退いてもらおう。
そのときだった。
「きゃああああ!」
合コンへ駆けだした子の悲鳴だった。
駆けつけてみると、そこには吸血魔がいた。テントウムシ人間のような風態だ。
足元には先程の子が倒れている。
「助け……て」
首からは少量ながら出血している。血を吸われたのか。
「深沙央さん! この吸血魔って」
「情報にあった吸血魔とは違うわ!」
中尉の話ではカメレオン人間が犯人だったハズ。
吸血魔は標的を俺たちに変えて襲いかかってきた。
「汚れなき清水よ。ときに魔を打ち穿つ鏑矢となれ! アクアニードル!」
水の弾丸が吸血魔の行く手を遮った。
「ドトーナ先生?」
水の魔法を放ったのは先生だった。
「どうして先生がここにいるのですよ?」
先生はサッチャーの手にした剣に視線を移した。
「リヨネさんたちから噂話を聞いて止めに来ました。決闘なんていけません」
「こ、これは吸血魔を倒そうと考えて抜刀したものです」
そう言うとサッチャーは剣を振り上げて吸血魔に向かっていった。
吸血魔は背中の装甲を開いて羽根を展開させると、高速でサッチャーに迫った。予想外のスピードにサッチャーは対応しきれていない。
「光よ。魔を阻む壁となり、かの者を守りたまえ。ブライトウォール!」
サッチャーの前に光の壁が出現して吸血魔の肉迫を跳ね返した。
「この魔法は、トーワ。オマエか」
「早く体勢を整えて」
驚くサッチャー。トーワの魔法の壁は吸血魔の進行を遮っただけで、ダメージは与えられていなかった。
「みなさんは早く逃げて下さい。ここは私が……きゃあっ」
空中を縦横ナナメに自在に飛ぶ吸血魔は、先生の魔法攻撃をかわすと、先生を蹴りあげた。
先生は茂みに突っ込んでしまう。
「あの空中機動は厄介ね。鎧を召喚するわ」
「でも深沙央さん。トーワとサッチャーが見てるぞ」
ここで深沙央さんの変身を見られたら、噂を立てられて、今後の潜入捜査に支障をきたすかもしれない。
「だからと言って、みんなの命には代えられないわね」
「ゲアアアアア!」
先生が突っ込んだ茂みから、何者かが飛び出して吸血魔を押さえこんだ。最初は先生かと思ったけれど
「今度はカエル人間の吸血魔か!」
どうして吸血魔同士が戦っているんだろう。
「ミサちゃん。今のうちなのですよ!」
マリッパは幻覚魔法で作った生徒を使って、深沙央さんの前に整列させた。これでトーワたちに変身を見られずに済む。
「ありがとう。セミテュラー! 応戦の鎧よ、顕現せよ!」
深沙央さんが鎧を纏う。マリッパの魔法生徒たちが一斉に道を開けた。
カエル型はテントウムシ型を抱えると大きくジャンプ、テントウムシ型の背中を下に向けて共に地面に落下した。
テントウムシ型の羽根はひしゃげていた。これでは飛べないだろう。だけどカエル型も深手を負っていた。テントウムシ型の爪で身体を裂かれてしまったのだ。
テントウムシ型の攻撃を喰らったカエル型は、木立の奥まで大きく吹っ飛んでいった。
「次は私と戦ってもらうわ」
鎧の深沙央さんがテントウムシ型に挑む。
「555倍速×全力飛び蹴り=翔脚制裁撃!」
深沙央さんが放つ高速キックがテントウムシ型に直撃。テントウムシ型は消滅した。




