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49.彼女 騎士クラスに絡まれたけど

女学院潜入編、二日目の夜。

主人公は女体化中。

康史の偽名→ココア・コーヤマン

深沙央の偽名→ミサ・ミクライアン

「とにかく玄関へ急ごう」


 玄関を出るとトーワがいた。委員長が夜の寮の外にいるなんて意外だ。


「どうかしたの?」


 トーワはとても驚いた様子で俺たちを見た。


「驚かしてゴメン。急いでいて。その、吸血魔を見なかったか?」


 するとトーワは顔色を変えた。


「いるわけないでしょう!」


 玄関から門までは歩いて10秒ほど。門には軍から派遣された兵士が昨晩と同じように立っている。吸血魔が襲ってきたのなら、兵士が真っ先に戦うはずだ。

 俺はトーワが持っている紙袋が気になった。


「それは何?」

「これはパンよ。パン屋の子が持ってきたの。パン屋が繁盛していて昼間に持って来ることが出来ないから、明日の分ですって。それが何か」

「いえ、なんでもないです」


 パン屋の子っていうのは昨日会ったクエナのことだな。


「康史君、玄関で感知した人数は三人だったのよね」

「うん。トーワにパン屋のクエナ、門の兵士。合わせて三人か。俺の感知能力が不完全なのかもしれない」

「吸血魔がいないなら、それに越したことはないわ」

「あなたたち、一体なにを言っているの?」


 トーワが怪訝そうな表情を作る。


「ココアさん、康史って妙な名前で呼ばれているのね」

「え、うん。そうなんだ。自分のことを俺って呼んでたら男扱いされちゃって」

「私たち、就寝前に吸血魔が外にいないか確かめないと眠れないの。騒がせてしまってゴメンナサイ」


 俺たちの嘘を聞いたトーワは、何も言わずに寮の階段を上っていった。


「危ないところだったわね。私たちも戻りましょう」

 



 部屋に戻る途中、トーワのことを考えていた。マリッパの話ではトーワは自他ともに厳しい委員長だ。

そんなトーワがパン屋の子がつくる不出来なパンを買っている。クエナとよっぽど仲が良いのかな。


「康史君」


 深沙央さんが足を止めた。ここは寮内の廊下。魔法クラスと騎士クラスの部屋は東西に分かれている。

境界線の先に騎士クラスの人たちが待ち構えていた。


「ミサ・ミクライオン。部屋にいないと思ったら、そちら側にいたのか」

「よっぽど魔法好きなのね」

「魔法クラスのヤツの恋愛を成就させるなんて、よほど気前が良いみたい」


 リヨネの噂はもう広まっているのか。

 騎士クラスの面々は只ならぬ視線を向けてくる。そんなに深沙央さんが俺やマリッパと仲良くしていることが気に入らないのかよ。


 深沙央さんは毅然として前に出た。


「同じクラスの人もいれば、先輩方もいますね。何か御用ですか」

「おう。ちょっとツラ貸してくれ」


 うわぁ。面倒なことになりやがった。ここにアラクネやガルナがいてくれたら、どんなに心強いか。

いや、他人を頼るな。たとえ俺は女体でも俺の彼女は俺が守る。


「先輩、ここでは都合の悪いことでもあるんですか?」


 深沙央さん、強気な態度を崩さない。それが気に入らなかったのか、騎士クラスは声を荒げた。


「この場所で実行しろっていうのか」

「もし魔法士クラスのヤツらに見られたら」

「力づくでも場所を変えたほうが」


 集団からリーダー格の生徒が出てきた。騎士の卵というよりもレディースや女子プロレスラーっぽいな。


「魔法クラスのヤツらは部屋から出てきてないわ。速攻で片をつければ何とかなる。今ならミクライオンの連れもいるし、ここでやった方が良いかもしれない」


 リーダー格はうしろにいる仲間たちに振り返った。騎士クラスの顔つきが変わる。


「よし、ここで決めるわよ」


 来るのか! アイテムバッグに手を入れる。魔剣を握りしめる。

 向き直ったリーダー格は眉間にしわを寄せて……

 ……頭を下げた。


「頼むミクライアン。私たちにも男を紹介してください!」


 なんだこれは? うしろの面々も頭を下げる。


「私たちは今年で卒業よ。王国と吸血魔の戦いが今のまま続けば、新人でも現場に出ることになるわ。そうなる前に、せめて夏季休暇中だけでも彼氏を作りたいの」

「噂は聞いたわ。私も彼氏が欲しい」


 リヨネの場合、男を紹介したんじゃなくて、アラクネが勝手に告白の後押しをしただけなんだけどな。

呆れていると、リーダー格は俺にも頼みこんできた。


「兵士養成所の男子と仲が良いんでしょ。貴女でもいいわ。紹介して。この先仕事に追われて恋が出来なくなるのなら、今のうちにしておきたいの!」

「学生時代の最後の夏なのよ。楽しい思い出を作りたい」

「ずっと騎士道に明け暮れてきたんだもの。御褒美が欲しいの!」


 俺は深沙央さんと顔を見合わせた。


「どこの世界でも、考えていることは同じなのかもしれないわね」




 潜入捜査三日目。この日の授業は午前で終了となった。

 いつものように隠れながら女子が帰宅する様を見守り、寮へ戻る。


 部屋の窓から外を見てみると、私服のトーワが寮の敷地の外を歩いていくのが見えた。

学院から極力外出しないよう言われているにもかかわらず、委員長自らどこへ向かう気なのだろう。


 気になった俺は廊下へ出た。トーワが吸血魔に襲われでもしたら大変だ。


「きゃうんっ」


 急いで廊下に出たものだから人にぶつかってしまった。


「痛いのです。痛いのは嫌なのです。ああ、漫画を落としてしまったのです」


 マリッパだった。漫画が描かれた紙が廊下に散乱してしまう。それを拾いあげながら俺は聞いた。


「ゴメン。急いでいて。漫画を持ってどこに行く気だったんだ?」


「はい。貸本屋さんで本づくりの同志たちとの会合があるのです。同士のみなさんに漫画というものを紹介しに行くところなのですよ」


「そんなのか。ん? 外出禁止令はどうなったんだ?」


「授業が午前で終わる日と休日だけは寮の管理人が不在になる時があるのですよ。今がちょうど、そのときなのです。マリッパは僅かなチャンスも見逃さないのですよ」


「なるほど。でも門には兵がいるだろ」


「この寮には秘密の抜け穴があるのです。外にだって行けるのです」


 それを使ってトーワは外に出たってワケか。でも、どうして真面目な委員長が外に。


「マリッパ。トーワが出かける目的に心当りはあるか?」

「トーワちゃんがいないのですか? まさか、決戦の地に赴いたのでは」

「どういうことだよ」


「トーワちゃんは騎士クラスの人から目を付けられているのです。噂では、いつか決闘をするだとか、呼び出して痛い目に遭わせるとか、騎士クラスで言っていたみたいなのです。まさか今日だったとは」


 それってマズイじゃないか。そう言えば中庭で騎士クラスに絡まれていたこともあったな。

そのときトーワは騎士クラスから、逃げるなよ、って言われていたことを思い出した。


「トーワが危ない。マリッパ、決闘の場所を知っているか」

「もちろんなのです。噂が大好きなマリッパは知っているのですよ!」


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