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46.俺と彼女のお悩み相談室

女体化して女学院に潜入中。二日目の朝です。

康史(偽名)→ココア・コーヤマン

深沙央(偽名)→ミサ・ミクライアン

 翌朝。俺と深沙央さんは通学路にある建物の陰で生徒を見守ることにした。


「生徒の全員が寮生活しているから、通学路は一種類だけね。助かるわ」

「うん。王国の兵士も立ってるから安心だな」


 目の前を多くの生徒が通過していった。吸血魔を警戒してか、友達同士で登校している。

 昨夜、マリッパはたくさんの情報を教えてくれた。その中でも気になったのがトーワのことだ。


「委員長ちゃんは自他ともに厳しい人なのです。さらに騎士クラスの人には辛く当たります。騎士たるもの常に己を律せよ。とか、遊んでいる暇があったら剣術を磨けとか。ここ数カ月は酷くなったのです。体調不良で医務室にいた騎士の子に向かって文句を言ったこともあるのです」


「それはもう、挑発じゃないか」


「委員長ちゃんは何というか、先生以上に厳しいのです。だから皆に嫌われてしまうのです。魔法クラスと騎士クラスは仲が悪いのです。騎士の子にも絡まれます。この前も、お前たちの技量で悪い吸血魔と戦えるものかーって、騎士の子に絡み返していたのです」


 以上、昨夜のマリッパの情報。

 吸血魔とは直接関係ないけど、なんだか気になるヤツだな。


「あ、トーワさんよ」


 やはりトーワは一人で登校していた。

 登校する生徒たちがまばらになって、そろそろ俺たちも学院に行こうか、そう話し合っていたときだった。


「お前たち、何をしている」


 深沙央さんのクラスの担任、キャリバン先生が音もなく背後に立っていた。


「いつの間に!」

「キャリバン先生、おはようございます」

「ミサ・ミクライアンか。どうしてこんな所で立ち止まっている。吸血魔がいつ襲ってくるとも分からんのだぞ」


「ごめんなさい。私たち外国から来たばかりで、この街の景観が珍しくて眺め込んでしまいました。朝の陽ざしを纏う王都ってなんだか素敵。こんな素晴らしい王都を守ろうと邁進する騎士の卵さんと一緒に勉強ができるなんて、なんて留学生冥利に尽きるのかしら」


「ゴホンっ。いいから学院に急ぎたまえ」

「は~い」


 俺と深沙央さんは歩きだした。昨晩のマリッパの話の続きを思い出す。


「怪しい人物といえばキャリバン先生なのですよ。新学期から赴任してきた先生なのですが、こちらも何かと生徒に厳しくて不人気なのです。ドトーナ先生とは真逆です。特に騎士クラスでの実技ではケガ人を出してしまったこともあるのです」


 やりすぎ教師だな。俺たちの世界なら事件沙汰だ。


「でも、それのどこが怪しいんだ」


「最初の吸血魔の襲撃事件から様子が変なのです。先生方の噂話では遅刻してきたり連絡が取れないことも。下校時につきまとわれた生徒もいるみたいなのです。しかも、その生徒は翌日に吸血魔に襲われたのです。キャリバン先生は妖しいったら怪しいのです」


 たしかに怪しい。振り返るとキャリバン先生はジッとこちらを見ていた。


「あの先生、足音がしなかったな」

「吸血魔に操られているのか、変身した吸血魔が入れ替わっているのか。警戒が必要ね」




 廊下ですれ違う生徒の様子がおかしい。俺たちを見てひそひそと話しこむ生徒たちや、珍獣を見るような目で眺めてくる生徒がいる。


「昨日目立ちすぎたかな」

「それだけじゃないみたいよ」


 深沙央さんが一枚の紙を手にしていた。


「何それ?」

「生徒の一人が落としていったの」


 その紙には学院裏新聞と書かれてあった。新聞と書かれてあるけど一枚の紙だ。


 内容は『今だに捕まらない吸血魔、その目的は!?』『学院食堂の野菜スープ。オリジナルアレンジ方法』『寮を抜けだすならこの時間! 管理人不在時間表独占入手!』とある。


 思わず目が止まったのは紙面左下にあるコーナーだ。『学院相談室。恋愛・訴訟・探しもの……相談するならこの二人!』として俺と深沙央さん、正確にはココアとミサが紹介されていた。


「朝から感じていた視線の正体は、これか! 一体だれが書いたんだ!」

「この四コマ漫画を見て」


 たしかに紙面の片隅には四コマ漫画がある。まだ漫画を描き始めたばかりという雰囲気が溢れ出てる。


「…………読んでみたけど面白くも何ともないな。四コマなだけだ。しかも吹き出しが絵の邪魔をしてる」

「この絵のタッチ。どこかで見たことない?」


 ハッとした。この絵は昨晩見たぞ。そもそも、この世界に漫画なんて存在しないじゃないか。この世界の住人で漫画を知っているのは……


「マリッパ! どこにいる!」


 教室にはまだマリッパの姿がない。一体どこに。


 廊下でどこを探そうかと考えていると、生徒の姿が見えなくなった。そろそろ始業時間だ。深沙央さんも自分のクラスに行ってしまった。


 そのとき、教室の隣にある掃除用具室から物音が聞こえた。出てきたのはマリッパだった。


「あ、ココアちゃん。おはようなのです」

「何故そんなところから」

「一人でいると変に思われるので、始業直前までここに隠れているのですよ。あれ?」


 マリッパは俺が持ってる学院裏新聞に気付いた。


「読んでくれたのですね。マリッパは嬉しいのです。朝早く登校して、知る人ぞ知る秘密の場所に学院裏新聞を毎週何十枚も置いているのですよ。漫画は今回から始めたのですよ」


 どうりで通学路を見張っていてもマリッパの姿がなかったわけだ。


「ところで、新聞の学院相談室とはなんなんだ!」

「早速お悩み事ですね。だったら二人に相談するといいのですよ」

「その二人のうちの一人が俺だ。マリッパ、どうして俺が生徒の悩みを引き受けなくちゃいけないんだ」

「昨日ココアちゃんたちは学院の情報が欲しいって言っていたのですよ。みんなの相談を聞いていれば、自然と情報が集まってくるとマリッパは思ったのですよ」


 頭いいでしょ。誉めて。そんな顔でマリッパは俺を見つめてきた。この先どうなるんだ。




「あはは。面白そうなことになってるじゃないか」

「何が面白いんだ」


 学院の中庭。深沙央さんとランチをしていると猫の姿をしたアラクネがやってきた。


深沙央さんに裏新聞とマリッパのことを説明すると、隣で聞いてたアラクネが笑ったのだ。


「ところでアラクネ。どうして猫の姿なんだ」

「学校は関係者じゃないと入れないんだろう。だから猫に化けてきたんだ」

「人間の姿に戻るなよ。裸の女が学院に現れたら騒ぎになる」

「そこは心配しなさんな。このリュックが目に入らないか」


 猫のアラクネは小さなリュックを器用に背負っていた。


「なんだそれ」

「シーラとマーヤが作ってくれたんだ。猫になったときの外出用のカバン。中に服が入ってる。これで元の姿に戻っても全裸ではないぞ」


 なんて物を作らせるんだ。


「あのぉ、ココアさん。それにミサさんですよね」


 見れば同じクラスの子が立っていた。


「私、リヨネ・バンブナーです。実は……」


 手には学院裏新聞が握りしめられている。ああ、来ちゃたよ。お悩み相談室が。


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