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45.彼女 魔法士学生に漫画を教える

主人公は女体化して女学院へ潜入中。

神山康司の偽名→ココア・コーヤマン

巫蔵深沙央の偽名→ミサ・ミクライアン

 学院の寮の俺の部屋に深沙央さんが来た。寮の東側は騎士クラス、西側は魔法クラスの生徒に振り分けられている。行き来は自由だけど、西側の廊下では騎士クラスの生徒には会わなかった。


 今日一日学院で過ごしたけれど、吸血魔の情報はこれといって聞くことはなかった。帰り道も警戒していたけれど、襲撃されることもなく、生徒が襲われたっていうこともなかった。


「何か情報が欲しいわね。せっかく潜入したからには解決したいし」


 窓の外を見れば寮の入口には兵士が立っている。吸血魔は生徒を襲うのを諦めてくれたのかな。そもそも、どうして学院の生徒を襲ったんだろう。


「恨みでもあるのかな」

「そうかもしれないわね。もしかしたら学院の中に吸血魔がいるのかも」


 中尉の話では学院の生徒、教職員は身元が割れている。だとすれば吸血魔は学院に出入りしている業者なのか。たとえば昼に出会った厨房勤めの人たち。


「そうとは限らないわ。学院に恨みがある人間が手引きしているのかも。吸血魔に遠隔操作されている場合や、仮に変身魔法があるとすれば本物と入れ替わっている事もありうるわ。中尉が潜入捜査を依頼してきたのには、そういう可能性があるからだと思うの」


「それじゃあ今のところ容疑者は全員ってこと?」

「だからこそ、中尉や学院長が知らない裏の情報が欲しいところね……ん?」


 深沙央さんは人差し指を口の前に立てた。静かに、という合図だ。そっと扉に近づく。そして思いっきり開けた。


「わぁっ!」


 一人の女子が廊下に転がった。


「聞き耳たてていたわね」

「君は、マリッパ?」


 放課後に騎士クラスの集団を引き連れて下校していた生徒だ。


「あわわわわ」


 マリッパはパニックになった猫のように、四つん這いで隣の部屋に逃げ込んだ。深沙央さんは躊躇いもなく部屋に突入していく。


「待ちなさい!」

「ふぎゃあ!」


 深沙央さんはマリッパを担ぎあげて部屋から出てきた。




「どうか御慈悲を。謎の転校生のことが気になって仕方なかったのです。はい」


 隣はマリッパの部屋だった。部屋の主は半泣きで座り込み、深沙央さんに怯えている。


「どうやら本当のことみたいね」

「本当のことです。ココアちゃんはケガ人を一瞬で治すし、ミサちゃんは意地悪教師を一瞬で倒したっていうから、噂好きのマリッパは好奇心を押さえられなかったのです」


 気持ちはわかる。俺だって学校にやってきたばかりの留学生が早々に活躍したら、気になって仕方ないからな。


「この子は吸血魔とは関係なさそうね」

「そうみたいだな」

「マリッパって言ったわね。噂話が好きなの?」

「ひぃっ」


 深沙央さんに過度に怯えるマリッパ。


「大丈夫だよ。深沙央さん、じゃなくてミサさんは怖くないよ」

「でも騎士クラスの人だから怖いのです。怖いから恐いのです」

「怖いって言っても騎士クラスの友達がたくさんいるじゃないか。下校するときに騎士クラスのヤツらと一緒だったよね」

「ぎくっ」


 マリッパが、しまったという顔をしている。


「気になっていたのよね。私にはアナタが魔法クラスの人に囲まれているように見えた。でも康史君、ではなくてココアには騎士クラスに見えた。もしかして、魔法?」

「ぎくぎくっ」


 マリッパは歯をガタガタ鳴らせている。


「落ちついて。ミサさんは怖くないから」

「怖いのです。強張るほどに恐いのです」


 うーん、どうしようか。部屋を見回すと本がたくさんあった。マリッパを落ちつかせるため本の話題に変えようと思う。本を数冊めくってみたけど、この世界の文字は読めないんだった。


「これは?」


 この世界の本は手作り感があるんだけど、その中でも手作り感溢れる本があった。めくってみると右は文章、左は絵になってる。


「ライトノベルより絵が多いな」

「もしかして興味おありですか」


 マリッパが生気を取り戻したように立ち上がった。


「それはマリッパと仲間たちが作った本なのです」

「へえ」


「絵を描いたのはマリッパなのです。マリッパはもっと絵を描きたいのですが、絵をたくさん書いた分、読者にお話をお伝えできなくなるので困りモノなのですよ。絵描きのジレンマなのです」


「そうか。これ以上絵が多くなると漫画になるもんな」

「漫画とは何なのです?」


 この世界には漫画がないのか。マリッパは目を輝かせながら回答を待っていた。


「漫画というのは絵があって、コマがあって、吹き出しがあって」

「独楽と噴出しというのは何なのです?」

「あ、えーと、そうだな……」


 どうやって説明すればいいんだ。すると深沙央さんは筆を持つと、机の上の紙にコマ割りをして絵を描いて吹き出しを描いて言葉を入れた。


「深沙央さん、漫画をかけるの?」

「私ではなくてデュラハンの才能なのよ」


 デュラハン。深沙央さんと同化している死神で、時代劇が好きな騎士だったな。


「デュラハンは上流階級の人だから絵画の才があるの。そのうえ元の世界だと時代物の劇画を読むのが好きだったわ。自分でも描きたいって言いだしたから、暇なときは身体を貸して描かせてあげたのよ。そのときのクセが私にもついてしまったの」


 なるほど。たしかに女子高生が描くようなキャラではなく、劇画調の侍が描かれている。それでも漫画が描けるなんてすごいと思った。


「あわわわわ。絵が描かれているのにお話があるのです。これなら絵本や紙芝居よりも話の展開が早いのです。ミサちゃんは凄いのです!」


 深沙央さんはマリッパを懐かせてしまった。


「ああ、この感動を仲間に伝えたいのです。でも外出は禁止されているのです」


「もし私たちが吸血魔を倒すことが出来たら、外出禁止は解かれるわ。そのためには学院の情報が必要なの。マリッパは噂が好きなのよね。学院を平和にするためにも、知ってる噂を聞かせてくれないかしら」


「教えるのですよ。ミサちゃんも漫画のことをもっと教えてください」


「もちろんよ」


 こうして学院の情報源を獲得したのだった。


「ところでマリッパ。帰るときに一緒にいたのは魔法クラスの人なのか? それとも騎士クラスの人?」


「あれは全てマリッパの魔法なのですよ。一人でいると恐いし、周りから変な子だと思われるので、マリッパは幻覚魔法を覚えて、人に囲まれているよう見せているのですよ。誰にも言わないでほしいのです」


「あれだけの人間が全て幻覚だっていうのか」


「なのです。騎士クラスの子には魔法クラスに、魔法クラスの子には騎士クラスに見えるようにすれば、どこの誰とか追及されないのですよ。でも魔法士と騎士なのに仲が良いお二人には情報の不一致で見破られてしまったのです」


「すごいわ。アラクネでもそこまでの幻術は作れないもの」


「幻覚魔法は学院の評価の対象外だから、マリッパは残念なのです」


 なんだかスゴイ子が隣の部屋にいたものだと思った。


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