43.騎士と魔法士の事情
主人公(康史)は彼女とともに女学院に潜入中。
女体化してます。偽名はココア・コーヤマン。
魔法クラスの治癒魔法の実技授業。俺はケガ人の一人を波津壌気で全快させた。
ドトーナ先生は誉めてくれた。
「相手は重症患者ですよ。ココアさんはまだ学生。一瞬で全回復なんて王国の魔法士でも一級クラスにしかできない所業です!」
そうなのか。重症ではないにせよ、メグさんは怪我した俺を何度も治してくれた。もしかしてメグさんってスゴイのかな。
「先生!」
トーワだった。
「その人は本当に重症患者だったんでしょうか」
トーワ、もしかして俺の力を疑ってるのか。
そりゃそうか。治癒魔法をかけたのではなく、俺から溢れた魔力そのものによってケガ人を治したんだからな。
もしかしてバレたのか。
「ナヴァゴさんがケガ人であることは事前に確認しています。ココアさんは本当にケガ人を治したんですよ」
先生がトーワに答えた。トーワはそれ以上の追求はしなかった。
「さあ、みなさんもケガ人を治してあげて下さい。日頃から治癒魔法の練習をしていれば出来るはずですよ」
みんながケガ人に治癒魔法をかけはじめた。残りのケガ人はたったの四人。生徒の数に対して足りない気もしたけど心配なかった。
みんなの治癒魔法は傷を半分ほど塞いだり、骨折の治りを早めたりする程度で、とても一人ではケガ人を全回復させることはできなかった。
それでもみんな汗だくになり、魔法をかけたあとはとても疲れていた。
ドトーナ先生はみんなに励ましや労いの言葉をかけていた。
「そうか。まだみんな学生だもんな」
「ココアって言ったか」
ナヴァゴが声をかけてきた。まだいたのか。
「学院を卒業したら王国に就職しないで冒険者になれよ。そして俺の仲間になれ。勇者パーティの魔法使いになれるんだ。このオレ、ナヴァゴ・アソシエイトを助けることが出来るんだぞ」
「用が終わったら帰れ」
みんなの中でもトーワは頑張っていた。一人で、一人のケガ人の上半身を全快させていた。
「トーワさん、よく出来ました」
先生に褒められたというのに、トーワは俺を睨む。やめて、怖い。
結局、全快になったのはナヴァゴだけだった。
「では治癒魔法の実技はこれで終わります。ケガ人の方は医務室にお越しください。当学院の教員魔法士が責任を持ってアナタがたを全快にして差し上げます」
ドトーナ先生はそう言うものの、ケガ人は黙って俺のほうを見た。クラスのみんなも俺を見る。治せというのか。
潜入捜査なんだから目立ちたくないんだけどな。
「どうしたの? まるで迷子になった子供みたいな顔をしているわよ」
「深沙央さん!」
昼休み。ようやく深沙央さんと再会できた。
「そんなに魔法クラスは大変だったの?」
「大変だった! 騎士クラスは?」
「うん。剣術の授業があったわ。そこで担任を叩きのめしたら人気者になっちゃった。担任は嫌われていたみたい。康史君は友達できた?」
「う……」
治癒魔法の授業のあと、クラスメイトが押し寄せてきた。一緒に昼ごはんを食べようと誘われたけど、遠くからトーワがタダならぬ視線を送って来ていたので、ここは調子に乗らずに断わっておいた。
それに深沙央さんに会いたかったし。
「お昼だし食堂に行きましょう」
「うん。緊張していたらお腹すいたよ」
「なんだか嬉しそうね」
「彼女がいる学校生活って初めてだからな」
「うん。私も初めて」
ポッと顔を赤くする深沙央さん。これを見られただけでも女体化した甲斐がある。
食堂に行ってみると大混雑していた。ほかの学年の生徒もこの場所で食事しているから当然か。
生徒の声が聞こえてくる。
「あの二人を見て。騎士クラスと魔法士クラスが一緒にいるわよ」
「どういうこと? 栄誉ある騎士になろう者が、魔法士風情と食事をする気?」
「あの子は何が悲しくて剣を振り回す人種と一緒にいるんだろう。騎士クラスのヤツなんて精神論だけで実力が伴わない旧人類でしょう。これからの国防の要は魔法よ」
「頭でっかちの読書家の分際で吸血魔を倒せるのかしら。前線で兵を率いて戦っているのは騎士だっていうのに」
「前線には魔法士だっているっつーの。戦場では騎士が邪魔で攻撃魔法がろくに撃てないって聞いたわ。そんなに剣が好きなら戦わずにジャガイモでも剥いてればいいのに」
なんだ? 面と向かって言いあいになっているワケではないけど、互いに聞こえる声量で罵りあってる。
騎士クラスと魔法士クラスの制服は微妙にデザインが違う。
よく見れば、両クラスの生徒が綺麗に分かれて席についていた。まるで食堂の真ん中に見えない境界線があるみたいだ。
「そういえば中尉が言っていたわね。騎士クラスと魔法士クラスの生徒は仲が悪いって」
思い出した。騎士と魔法士は仲が悪いって言ってたな。騎士は魔法士の悪口を、魔法士は騎士の欠点を口にする。それを子供の前でもする者だから、世代を越えて仲が悪くなる。
ここにいる生徒たちの多くが騎士や魔法士の子供たちだ。
「ここは空気が悪いわね。ましてや一緒に食事なんて出来ないわ。外に出ましょう」
学院の中庭へやってきた。ここまで来ると人気がない。
「ようやく二人きりになれたけど、食事はどうするんだ?」
「心配いらないわ。簡単なランチなら持ってきたの」
「へ? どこに」
深沙央さんは袋を取り出した。これは中尉が用意してくれたアイテムバッグというマジックアイテムだ。
肩からかけるポシェットのような小さな外見だけど、中にいろんなモノを納めることが出来る。王国の魔法士が知恵を絞って開発した試作品だ。
俺たちは吸血魔に遭遇するかもしれない。でも今の俺は魔法士クラスのため魔剣を持ち歩くことはできない。そこで中尉が特別に用意してくれたのだ。
もちろん深沙央さんにも渡されたんだけど、昼めしを入れるという発想はなかった。
「座れるところはないかしら。あれ? 誰かいるわ」
見てみればトーワと騎士クラスの生徒が何人かいる。なんだか言いあいになっているみたいだ。
不穏な空気を感じた俺は、さり気なく近づいてみた。
「あの? トーワさん」
トーワと騎士クラスの生徒が一斉にこちらを向いた。雰囲気からして相当マズイご様子。どうしよう。




