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42.俺 彼女と女学院に潜入する

 俺はいま、女体化して彼女とともに女学院の前に立っている。


「バレやしないだろうな」


 着慣れないスカートの裾をつまみあげる。股間がスースーして落ち着かない。


「大丈夫よ。どこからどう見ても康史君は女の子ですもの」


 深沙央さんが励ましてくれた。


「被害者の目撃談によれば吸血魔はカメレオン人間なんですって。さぁ、見つけ出すわよ」



 

「みなさんに新しいお友達を紹介します。外国からやってきた魔法士志望のココア・コーヤマンさんです」


 朝の教室で担任のドトーナ先生が俺をみんなに紹介した。王立騎士・魔法士養成女学院は騎士クラスと魔法士クラスに分かれている。深沙央さんは騎士クラスに、俺は魔法士クラスに編入された。


 さっき会った学院長いわく、吸血魔の被害者の共通点ははっきりしないらしい。どこのクラスの子が狙われるか分からないので、俺たちは別々のクラスに振り分けられてしまった。なんだか心細い。


 ドトーナ先生をチラリと見る。二十代後半の人の良さそうな女の人だ。


この人は俺が軍からの依頼で潜入していることは知らない。知っているのは学院長だけ。俺と深沙央さんは季節外れの留学生ということになっている。


 それにしても先生、巨乳だな。メグさんも大したモノだったけど、この先生の胸の可能性は、さらに上をいくモノがある。


 乳を凝視していたら、いつのまにかドトーナ先生も俺のことを見ていた。


「ココアさん、どうしました?」

「俺? いえ、私ですか。緊張していました」


 ココアというのは俺の偽名だ。本名だと異世界人だとばれてしまって潜入捜査に支障が出る。


それにしても先生の胸を見ていたのが男のときだったら、明らかに怒られていたハズだ。。女体化ってスゴイな。


「心配しないでココアさん。このクラスは優しい子たちでいっぱいですから。みなさん、ココアさんはこの国に来たばかりで文字が読めません。困ったときは助けてあげて下さい」


「はーい」

「ではココアさん、席について下さい。どこの席についても良いんですが」


 教室の中は、以前ドラマで見たことがある大学の教室にあるような二人掛けの長机が並んでいた。


 俺はとりあえず空いている席に着こうとすると


「あ、ココアさん。せっかくだから委員長の隣にすわったら如何ですか」


 近くの席の子が言いだした。


「委員長って優秀だから何でも教えてくれますよ」

「私もそのほうが良いと思うよ」


 委員長? みんなが一人の女子に視線を向ける。視線を追うと、集団から少し離れた席に『孤高』なオーラを放つ女子がいた。その女子は俺に向かって頷いてくれるが、顔は全く笑っていない。


 みんなに促されるまま、教室の空気を読んだ俺は委員長の隣に座った。


「神山……じゃなかった。ココア・コーヤマンです。よろしくお願いします」

「委員長のトーワ・サルバトロンよ」

「…………ふつつか者ですがよろしくお願いします」

「ええ」


 会話が終わった。どうしよう。エッチな話で盛り上げようか?

 ドトーナ先生が教卓についた。


「ではみなさん。今日も仲良く魔法のお勉強をしましょう。目指せ、最強の魔法士!」


 授業が始まった。ああ、不安でたまらない。

 委員長を見る。こちらに気付いてくれたけど、すぐに目を逸らされた。大丈夫か俺。




 座学は全く持って意味不明だった。俺は外国で魔法を学んでいたという設定で学院に潜入しているけど、実際の俺は魔法の魔の字も知らない。


「ああ、不安だ。ああ、心細い」


 まったく知らない学問を知らない学校で教え込まされるのって、とっても怖い。


 今の俺はそよ風に吹かれただけで倒れそうだ。誰か抱きしめてくれ。


「ココアさん」

「え、あ、はい。トーワさん?」

「午前の後半は実技よ。移動しましょう」


 俺はトーワに連れられて学院の校庭へ出た。既にクラスメートは集まっている。


「みなさん、今日は治癒魔法を行使して頂きます」


 ドトーナ先生がみんなの前に立つ。


「以前からお伝えしていたとおり、怪我人に来ていただき、みなさんに治癒魔法をかけていただきます。治癒された具合で魔法の習得具合を評価しますので頑張ってください。もちろん評価は成績に影響しますよ」


 学院はもうすぐ夏休みだから、期末試験の一つみたいなものかな。

 周りの子たちは緊張している。トーワは、無表情だ。自信があるのかな。


「ではケガ人の方々に登場してもらいましょう。冒険者ギルドから来ていただいた、お医者様にかかるお金もなく、魔法使いの御仲間もいない、可哀相な重症冒険者さんたちです」


 やってきたのは足をケガして杖をついた者、包帯だらけの者たちだった。みんな痛々しそうだ。そして、最後にボロボロの姿で這いずってきたのは


「くそっ。あの女に負けてからというもの仲間は去っていくし吸血魔討伐の依頼は来ないしよぉ。俺の勇者人生はどうなっちまったんだ」

「げっ、アイツは」


 ナヴァゴだった。自称勇者でありながら吸血魔ともども深沙央さんを殺そうとしたゲス野郎。俺のことは殴るは蹴るわ。怒った深沙央さんにボコボコにされてから、どうなっていたか知らないし、すっかり忘れていたけど、冒険者を続けていたんだな。


「よぅ、オマエらが俺を治すガキどもか。ちゃんと治せよ。なぜなら俺は勇者になるべき男。いや、既に勇者と言っても過言ではない男だからだ。覚えておけ、オレはナヴァゴ・アソシエイト。いずれ吸血魔を全滅させて世界にその名をとどろかせる!」


「ケガ人の方は自己紹介しなくていいので椅子に座っていてください」

「早く治せよ。オレは暇じゃねーからよ」


 相変わらず感じの悪いヤツだな。


「なにが吸血魔の全滅よ。いい子だっているのに」


 そんな言葉をつぶやいたのはトーワだった。同意できる。

目があったので俺は頷くと、トーワは決まりが悪そうにそっぽを向いた。


「ではみなさん。日頃の魔法の鍛練を活かして、ケガ人を治してあげて下さい。どうぞ」


 ドトーナ先生は生徒に治癒魔法を促す。


「治癒魔法かぁ。私できるかなぁ」

「切り傷くらいなら、う~ん、どうだろう」

「攻撃魔法だったら自信があるんだけど」


 みんなケガ人に近づこうともしない。


 それにしても治癒魔法か。俺が意図して放つ魔力には回復効果がある。波津壌気を習得したことで任意に放つことが出来るようになった。


 座学ではついていけなくても、ここでケガ人を治しておけば『外国で魔法を学んでいた設定』が疑われることもないだろう。


 俺はケガ人の前に出た。五人のケガ人が椅子に座っている。みんな辛そうだ。


「オイ、オレを先に治せ。ほかのヤツらは所詮ザコだ。オレがケガして動けないなんて世界の損失だからよ。優先しろ」


 ナヴァゴは口だけは元気そうだな。


 そういえば俺はまだ、魔力で大ケガした人を治したことがない。魔力の注ぎかた次第では廃要塞の吸血魔みたいに爆発することもありえる。


 ちょっと悩んだ俺はナヴァゴに選んだ。コイツなら何があっても可哀相だと思わないし。


「ナヴァゴ、じゃなくてナヴァゴさん。その怪我はどうしたんだ、ですか。全身ボロボロじゃないか。絵にかいたような重症患者だぞ、ですね」


「これか? どこのパーティも仲間に入れてくれなくて、ソロだと何故か依頼が来ないから、仕方なく人気のない猛獣退治を引き受けたんだ。そしたら熊に殴られてイノシシに当て逃げされてサルに装備を持ってかれて、このザマだ! 俺は勇者だぞ。おかしいだろ」


 勇者になれないから、そうなったと思うんだけどな。


「仲間が去って金もなくなって医者にもかかれない。女魔法使いも寄って来ないから怪我も治してもらえない。ありえねーよ。どうしてこうなった」

「うるさい黙れ」


 俺はナヴァゴに手をかざした。集中する。

 攻撃ではなく、治癒の力。助けたいと思う願い。


 俺の波津壌気は広範囲に及ぶから、目の前の人間限定で、閉じたイメージで。

 あと魔法士クラスだから魔法を使ったと思わせなくちゃいけないんだよな。

魔力を放ちながら、メグさんから教わった治癒魔法の詠唱をする。


「光の恩恵よ、大気の精霊よ、かの者を癒したまえ。ヒーリングケア!」


 そして早口で


「波津壌気!」


 すると……


「痛くない。立てる。おおっ。治った。このオレ様を治しやがったぜ!」


 ナヴァゴは椅子から跳び上がった。成功したみたいだ。

ほかのケガ人はケガしたままだから、対象範囲のコントロールも上手くいったな。


 ドトーナ先生が駆け寄ってきた。


「まさか、全快させてしまったんですか」

「え? いけませんでしたか」

「相手は重症患者ですよ。ココアさんはまだ学生。一瞬で全回復なんて王国の魔法士でも一級クラスにしかできない所業です!」


 先生やケガ人はもちろん、魔法クラスの子たちが俺に目を輝かせていた。


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