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4.まえは魔王で今は猫

「彼女の名前はアラクネ。中学二年生の夏休みに行った異世界の元魔王よ」


 深沙央さんは猫のことを紹介してくれた。


「その元魔王が、どうして深沙央さんのお腹から出てくんの?」

「えっとね、同化してあげてたのよ。部下に裏切られたあげく死にかけて魂が消滅する寸前だったの。可哀相に思った私が助けてあげたのよ。でも不完全にせよ復活するなんて予想外だったわ」


 エリットに体を拭かれている元魔王を見る。こんな猫が魔王かよ。


「異世界に来たから、復活したのか?」

「昨年も異世界転移したけれど、そのときは心の中で喋っていただけだった。魂だけの存在が、どうして肉体を得ているのよ」


 アラクネは言った。


「この世界の魔素は良いものだ。それに昨晩から深沙央の魔力が妙に活性化してる。こりゃ強い魔力を秘めたマジックアイテム、もしくは強大な魔力を持つ者が近くにいた事が原因だろうね。その魔力に影響されて、こうしてアタシは魂から実体化できたのさ」


 それで吐き出される形で復活したのか。人騒がせな奴め。アラクネは俺をジッと見た。


「へぇ、原因はオマエか。以前から深沙央の中で魔力を感じていたよ。ずいぶん良いモノを持っているね」

「私の彼氏の康史君。一緒に異世界に来てもらったの」


 するとアラクネは驚いた様子で深沙央さんを見た。


「コイツを自分の男にしやがったのか。ガキだと思っていたけど、やることやってるじゃないか!」

「えへへ」


 照れる深沙央さん。可愛いな。

 深沙央さんに見取れていると、アラクネが俺の傍まで来ていた。


「康史って言ったか。深沙央みたいなケツの青いガキなんてほっといて、アタシに乗り換えないか。今は仮の姿だけど、本当の私はセクシーなお姉さんなんだぞ」


 なんだとっ。『深沙央』みたいな『ケツ』の青いガキ。と言ったか。

 俺の脳内には昨晩、深沙央さんが聖式魔鎧装に変身したときに、一瞬だけ全裸になったときの映像が鮮明に再生された。


 後ろ姿だったがオシリはくっきりと見えた。そのオシリの持ち主が目の前にいる。寝起きで。さらにここは仮にも深沙央さんの部屋だ。興奮してきた。


 そこへアラクネが紫色の毛皮を俺の足にこすりつけてきたものだから、思わず変な声が出てしまいそうになる。


「と、とりあえず深沙央さんが妊娠していなくて良かったよ。エリット、みんなに妊娠ではないことを伝えてくれるかな。俺と深沙央さんは清い仲なんだ」

「そうだったんですか。なら私にもチャンスがあるってことですね」


 エリットは嬉しそうにジャンプしながら一回転。可愛い。いや、なんのチャンスだ。


「ところでエリット。悪いほうの知らせって何?」


 するとエリットは、そんなことも言いましたねって顔をしながら


「変なお客さんがやってきたんです」




 エリットに案内されて俺と深沙央さんは応接室へ行ってみた。


「だからっ。魔王の蜘蛛男爵は既に勇者様に倒されたんですっ!」 


 大声を張り上げるのはシーカだ。


「俺以外に魔王を倒せる奴なんているワケないだろ。この勇者候補、ナヴァゴ・アソシエイトを差し置いて!」


 そう言うのはシーカとテーブルを挟んで椅子に座っている男だった。その男は豪奢な鎧を身につけてはいるが、全身から湧きたつオーラはチャラ男の雰囲気がする。生理的に嫌なやつだ。

 その両脇には背中に大ぶりの剣を装備している大男と、魔法使い風の巨乳のお姉さんが立っていた。


「シーカ、その人たちは?」


 俺がシーカに質問すると、何故かチャラ男が答えた。


「オレを知らないのか田舎者。オレはナヴァゴ・アソシエイト。のちに勇者になる男。いや、すでに勇者といっても過言ではない!」


 俺は人生で初めて言葉を失った。コイツが勇者なのか。ふ~ん。頑張れよ。

 シーカは「コホン」と咳払いしてから口を開いた。


「この方はナヴァゴさん。冒険者ギルドの最強の吸血魔ハンターです。脇にいる御二人は仲間の方」


 態度が大きい男と、体がデカいオッサンと、胸が大きいお姉さんの三人組か。分かりやすいチームだな。

 お姉さんは俺と目が合うと会釈してくれた。大男は深沙央さんやシーカのことをチラチラと見ていて、俺と目を合わせやしない。イヤらしい奴め。俺はナヴァゴに聞いてみた。


「YOUは何しに駐在所へ?」

「アルマノリッヒっていう貴族に娘の奪還を頼まれたんだよ。この辺りに潜伏する吸血魔の魔王に娘を誘拐されたんだってよ。ここに情報でもあれば聞いてやろうと思って、わざわざ来てみたわけ」


 ナヴァゴは面倒そうに俺に返した。なるほど。だいたい察することはできた。ナヴァゴは足を組んで椅子にふんぞり返ると、頼んでもないのに話を続けた。


「まぁ、オレって正直強いし、貴族が頼りたくなることも分かるけどな。実力からして、そろそろ勇者って言われても良い頃かなって思ってた頃だし、ここで魔王とか倒して、国から要職もらって冒険者なんて卒業しようと考えてたところなんだよ」


 ここでシーカがテーブルをバンっと叩いた。


「だからっ! その魔王は既にいないんです。異世界から召喚した勇者様がやっつけてくれましたから!」


 さらに魔王はニセ魔王だったしな。今度はナヴァゴがテーブルにドンっと足を乗っけた。


「魔王がいなきゃ勇者になれないだろうが! 何が召喚だ。テメぇ、オレの人生設計ダメにする気か。だいたい本当に勇者なんているんなら、連れて来いよ!」

「勇者ならここにいるわ」


 深沙央さんが歩み出た。ナヴァゴがポカンとしている。数秒後、笑いだした。


「お前が勇者? たしかに見慣れない服装だからド田舎から来た田舎者なんだろうけど、それと異世界の勇者を一緒にするんじゃねーよ。だいたい勇者召喚の儀式なんて一種の『おまじない』。ガキが暇な時にやる一人遊びじゃねーか。召喚なんて出来るはずねーよ」

「それでも本当に召喚できたんです! 深沙央様や康史様は本物です」

「ハハハハハ。笑わせてくれるぜ。そいつらが勇者なら、オレは既に神レベルだ」


 ここでエリットが手を上げた。エリットさん、どうぞ。


「いっそのこと、生き証人を呼んでくればよろしいのでは?」


 一分経過。


「はじめまして。リエッカ・アルマノリッヒと申します。昨晩、そちらにいる深沙央様と康史様に助け出されました」


 助け出した女の子の中にアルマノリッヒ家の御令嬢がいたので来てもらった。


「なんだと! ど……どうせ偽者だろうよ」

「いいえ。アルマノリッヒの当主から聞いた娘の特徴と合致しているわ。彼女のペンダントにはアルマノリッヒ家の紋章が刻まれている。本物のリエッカ様よ」


 お姉さんに否定された自称・神レベルな勇者ナヴァゴ氏は苦悶の表情を浮かべた。シーカも安堵の表情を浮かべている。

 これで厄介な客は帰ってくれるだろう。俺としては、さらわれた最後の女の子の救出手段を考えたいと思っていたところだった。


 そのとき、いきなり男が扉を開けて入ってきた。


「大変だ。シーカ」

「巡回兵さん。どうしたんですか」


 巡回兵という男は息を切らし、一呼吸すると言った。


「例の廃城に、また吸血魔が現れた!」


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