38.俺 魔力の出し方を教わりに行く
「それにしても吸血魔の武将を倒して、王妃候補まで仲間にしちまうなんてな」
ガルナが、こんなヤツがねぇ、という眼差しを送ってくる。
屋敷にはパティア、ガルナ、ブロンダ、ルドリカが遊びに来ている。
俺はガルナに釘を刺した。
「マーヤのこと、黙っておいてくれよ」
「もちろんだ。国のお偉いさんに拘束されるのが目に見えてるからな」
深沙央さんとパティアは庭で女の子たちと遊びだした。庭の一部を砂場に改造してビーチバレーが出来るようにしたそうだ。この前、海に行った時に深沙央さんがみんなに教えたのがきっかけでブームが到来したらしい。
「なぁ康史、元気か?」
唐突にガルナがおかしなことを聞いてきた。めちゃくちゃ元気ですが。ビーチバレーは水着でやっているのかなと思って興奮していたくらいだ。
ガルナはなんだか言いにくそうに口を開いた。
「この前さ、俺の技で康史を傷だらけにしちまっただろ。ケンカまでふっかけちまって。それで何かお詫びが出来ないかと考えていたんだ」
傷だらけになることは、俺からお願いしたことだ。俺の場合は傷口があったほうが大量に魔力が出せる。不便な身体だけど、あのときは、そうするしかなかった。
「傷はメグさんが治してくれたよ。ケンカのことは気にしてないし」
「そういうワケにはいかない」
それでもガルナは謝罪の姿勢を崩さなかった。
「それでだ。提案なんだけど俺たちの師匠を紹介させてくれないか。もう爺さんなんだけど、気の流れに詳しくて魔力の出し方も爺さんから教わったんだ。康史の力になれるかもしれない」
上手な魔力の放出方法を教えてくれるって言うのか。魔力放出が必要になるたびにケガをしていたんじゃ、足手まといになるだけだと思っていたところだ。
「ありがとう。嬉しいよ。是非紹介してくれ」
「そうか。嬉しいか。よし、紹介してやる」
それを見ていたブロンダが、ニヤリとする。
「よかったねガルナ。ちゃんと言えて。昨日からずっと練習してたんだよ」
「う、うるさい」
「練習してたのか。俺も深沙央さんへの愛の告白も何度も練習したな。あははは」
そう言うとガルナの顔がカァっと赤くなった。そしてブロンダではなく俺を小突いてきた。なぜだ。
馬車に乗って数時間。俺はガルナたち三人に連れられて王都の外の山のほうまでやってきた。この辺に三人の師匠であるモシマルという人物が住んでいるという。
深沙央さんたちはみんなと買物する約束をしたと言って王都に残った。
「俺たちは最初から異能を使いこなせたワケじゃないんだ。軍隊に入る前に、上官から爺さんのことを紹介されて弟子になって修行をしてたんだぜ」
「気の流れを理解すると異能の力も使いこなせるようになれたんだよ。モシマル爺さんは『気』や『魔力の流れ』を熟知しているんだ。だいぶ変わった人だったけどね」
馬車が止まって下りてみると、日本庭園のさきに和風の家が建っていた。
「これは……」
「変わった造りだろ。爺さんは東の国から来たんだ」
ガルナは家に向かって叫んだ。
「爺さーん! モシマル爺さーん! 生きてるかー! 死んでるかー! どっちでもいいから返事しろー!」
本当に相手は師匠なのか?
すると家の扉が素早く開いて、一人の老人が全速力で駆けてきた。
「おおっ、ガルナちゃんとブロンダちゃんとルドリカちゃんではないかっ。やっと会いに来おったか。このバカ弟子めっ」
あの人がモシマル爺さんなのか。モシマル爺さんは、子供が母親に抱きつくような感じで三人に飛び込んだ。
ガルナ、避ける。ブロンダ、避ける。ルドリカ、避ける。爺さん、地面に激突。
「大丈夫なのか?」
「いつものことだぜ」
爺さんは起きあがると、俺を見つけて怪訝そうな顔をした。
「誰じゃ、その娘は。男にしか見えんぞ」
男ですが。ガルナは無視して説明を始めた。
「コイツは康史。異世界から来たんだ。これから一緒に戦っていく仲間なんだけど魔力の出し方が下手でとても実戦には向いてない。魔力の扱い方を教えてやってくれないか」
爺さんはつまらなそうに、迷惑そうに、興味なさそうに俺を眺めたおした。
「なんじゃい。師匠の顔を見に来たのかと思えば、男なんぞ連れてきおって。戦場で死なない程度に鍛えてやったというのに、軍人になったとたん挨拶にも来ない。再会できたと思えば、おかしな男に魔力の使い方を教えろと。ワシはそんなに安くはないぞ!」
「わかった。帰ろうぜ」
三人は揃って背中を見せた。
「ま、まて。せっかく来たんだからゆっくりして行け。この男を鍛えればいいのか。よし、わかった。師匠に任せろ」
三人は揃って爺さんに向きなおった。爺さん、満面の笑み。なんなんだ、この人は。
俺たちは縁側に通された。爺さんがお茶とお菓子を持ってくる。
「ここの茶は相変わらず緑色だな」
「お菓子も硬いし塩っぽいよね。お菓子なのに」
「…………」
おおっ。久しぶりの緑茶とせんべいだ。手を伸ばそうとすると爺さんに叩かれた。
「何するんだ」
「オヌシは修行しに来たのだろう」
たしかに。俺と爺さんは縁側から少し離れると向かいあった。
「康史と言ったか。風の噂で異界から来訪者が現れたという話は聞いておる。なぜオヌシは魔力を上手く扱いたい? そもそも何故に強くなりたいんじゃ?」
「俺は人間と吸血魔の争いを終わらせたいんだ。そのためにも吸血魔の偉い連中を倒さなくちゃいけない。でも俺は弱い。それでも満足に魔力を出せるようになれば、少しは戦えると思うんだ。だからアンタの力が必要なんだ」
「ふむ、敵の頭を叩くためにか。頭が変われば現状は好転するかもしれないのう」
「吸血魔の中には平和主義者だっている。悪いヤツらを倒せば平和に近づけると思うんだ」
マーヤは言っていた。国の上層部が好戦派で固められているから、国民の平和への想いだけで体制を変えるのは難しいって。
「それに」
「それに?」
「この世界での使命を果たせば、元の世界に帰れるはずだって深沙央さんが言ってた。使命っていうのは争いのない世界をつくることだと思う。この世界には良い人がたくさんいるけど、俺は深沙央さんを元の世界に帰してやりたいんだ」
「強くなりたいのは他者のためだけではなく、自分のためでもあるか。そういう男のほうが必死に動くものじゃ。その常識外れの魔力を上手く使いこなせれば、争いのない世界とやらも現実味が帯びてくるかもしれん。よし、気の流れを教えてやろう」
「本当か?」
一目で俺の魔力に気付いてくれた。これは信用できそうなお爺さんだ。
「ワシの弟子が連れてきた男じゃ。おかしな者でないことはわかっておる」
それはとってもありがたい。気の流れを制すれば魔力の放出もうまく出来そうだ。もしかしたら深沙央さんと肩を並べることが出来るかもしれない。
「お爺さん、いや師匠。俺はまず何をすればいい」
「そう慌てるな。秘孔をつく。それだけじゃ」
「それだけ?」
「うむ。ただし、ろくに魔力のない者や異能を持たない者の秘孔をついたりすると爆死する恐れがあるんで要注意じゃ。ゆえに修行して魔力を高める必要がある」
怖いよ。
俺は思わず縁側にいるガルナを見た。昼寝していやがる。ルドリカを見た。読書していやがる。ブロンダを見た。奥から将棋の台を持ってきて将棋崩しをしていやがる。将棋、この世界にもあるとは驚きだ。
「心配するでない。オヌシほどの魔力の持ち主ならば、修行なしでも死ぬことはなかろう。では、行くぞ」




