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37.四人娘 遊びに来る

 王国から与えられた屋敷では駐在所から引っ越して来たばかりの女の子たちが慌ただしく動いていた。昨日は各自の部屋割りで大はしゃぎして、家事の分担を決めて、引っ越しパーティをして……中には王都が初めての子もいて、みんなとても楽しそうだった。


 それはそうと、部屋割りのときに俺は最後に残った部屋でいいと言ったけど、どうして今回も物置部屋に住むことになってしまったんだろう。

 そんなことを庭で深沙央さんと洗濯ものを干しながら考える。


「お疲れ様です深沙央様、康史様」


 メイド姿の女子がすれ違い、窓を拭きは決めた。この屋敷は長いこと使われていなかったらしくて埃がたまっている。修繕箇所もいくつかある。しばらくは大掃除や修復作業が続きそうだ。


 それにしても、良いよねメイド服。メイド服も王国が用意してくれたみたいで、屋敷に沢山あった。意外にも女の子たちはノリ気でメイド服を着てくれていた。


「おーい、康史、深沙央っ」


 見ればパティア、ガルナ、ブロンダ、ルドリカの四人組が庭に入ってきた。


「康史、遊びに来てやったぞっ」

「ここが男爵様の屋敷か」


 パティアが走り寄ってきた。ガルナは珍しそうに屋敷の外観を眺めている。


「いらっしゃい。四人とも朝早いな。今日は休暇なのか」

「仕事中だけど暇なんだ。遊びに出ても怒られないぜ」

「本当はダメなんだけどね」


 ブロンダは肩を落とした。


「みんな来てくれたのね」

「深沙央~」


 パティアは深沙央さんに抱きついた。ずいぶん慕われているみたいだ。

 パティアは時間を止められる。止まった時間の中で動けるのは俺と深沙央さんだけ。もしかしたら特別視してくれているのかもしれない。


「さぁ四人とも、中に入って」


 深沙央さんはパティアたちを中に迎え入れた。扉を開けるときに俺の手が深沙央さんの手とぶつかった。


「あ、ゴメン」


 すると深沙央さんはニンマリとして俺の手を握ってきた。


「ひゅ~、やっぱりそういう関係かよ」

「ガルナ、冷やかしちゃダメなんだよ」

「ずるい。パティアも仲良くするんだぞっ」


 パティアはあいだに入ると、俺と深沙央さんの手をつないだ。三人仲良く屋敷に入った。

 廊下にはメイド姿のマーヤとシーラ、スワロッテがいた。マーヤはこちらを見たとたん……倒れた!


「大丈夫かマーヤ!」


 思わずパティアの手を離して駆け寄ろうとすると


「ひどいッスよ、お兄さん」


 スワロッテはマーヤを起こしながら俺を咎めてきた。


「俺が何かしたのか?」

「そんな小さな女の子を自分と深沙央様のあいだに挟んで見せつけてくるなんて。まるで親子っス。深沙央様との仲の深さを見せびらかしているようなものっスですよ。マーヤ様の気持ちも考えてくだスい」

「えっ?」


 マーヤはシーラに引き起こされた。


「大丈夫よシーラ、スワロッテ。もう康史様は振り向いてくれないのかな、とか……子供のいる二人の未来を想像したら、ちょっと目まいがしただけだから」

「可愛そうなマーヤ。私がずっと側にいてあげるからね」


 シーラがマーヤを抱き寄せた。マーヤはどうして重症なんだ。

俺がポカンとしているとパティアは腰に手を当てて睨んできた。


「康史、鈍感なんだな。お姉さん怒っちゃうんだぞ」

「だれがお姉さんだ」

「パティアはこう見えても17歳なんだぞ」


 マジか! 驚く俺の肩にガルナは手をかけた。


「アイツの時間は子供の頃から止まってんだ。康史と深沙央がアイツの時間を動かしてくれたら俺は嬉しいよ」

「そうか……ちなみにガルナまで年上じゃないだろうな」

「俺はまだ14だぜ」


 そうかそうか……俺は二歳年下の女子と同じ身長だったのか。ぎゃふん。



 リビングには小洒落たテーブルを挟んで大きなソファがある。俺たちはここでお茶をすすっている。

 パティアはお茶菓子をモグモグと嬉しそうに頬張っていた。まるで小リスみたいに口を膨らませていて可愛い。


「おい、さっき茶を持ってきた金ぴかのオッサンはなんだ。この前も見た気がするけど、なんで屋敷にいるんだ?」

「外見で判断しちゃダメだけど、魔物みたいだったね」

「…………」


 パティアとは対照的にガルナたち3人は怪訝そうな顔をしている。


 金ぴかのオッサンとはマミイラのことだ。以前、吸血魔が異世界から悪人を召喚した。そのうちの一人。もう悪いことはしないと謝っていたので、とりあえず屋敷に置いている。

 包帯が巻かれた黄金の鎧の上に、無理やり執事の服を着ながら屋敷の仕事をしてもらっているのだ。


「マミイラは小学三年生の時に行った異世界のラスボスだったけど、悪の道に走った理由は復讐だったの。基本的には良い人なのよ。良い血筋の人だから礼儀もわきまえているし、淹れてくれるお茶も美味しいわ」


 深沙央さんの言うとおり、たしかにお茶は美味しい。


「それにしてもメイドさんがたくさんいるよね。みんな若いし」


 ブロンダが訝しげな目で俺を睨む。


「変な想像するなよ。ここにいる女の子は吸血魔から助けた子で、みんな自分の意思でここに来たんだ」

「ふぅん」


 それでもなお、ジトッとした視線を送ってくる。


「丁度いい機会だから、これからのことを話しあいましょう」


 深沙央さんの提案でマーヤも交えて、俺たちがやるべきことを考えることになった。


「異世界から来た私たちはこの世界を平和にすることで元の世界に帰れるはずよ。平和な世界にするには人間と吸血魔の争いを終わらせる。そして吸血魔が人間を襲うことをやめさせなくちゃいけない」


 それを受けてガルナは頷いた。


「そうだな。そのためには吸血魔の王や軍幹部をブっ倒すのが近道だぜ。でも王国軍は辺境で吸血魔軍を追い返すので手いっぱいだ。具体的に敵国に攻め込む策は出来上がってないんだ」

「もしかしたら策はあっても私たちのところまで知らされてないのかもね」


 ガルナとブロンダが溜息をつくと、マーヤが神妙な顔つきになる。


「吸血魔の王は変わり者で国の政治、軍事、戦争の全てを部下に任せています。吸血魔の国は参謀のマンティスが取り仕切っていると言っても過言ではありません。先に討ち倒すべきは幹部陣だと思います」

「すると王は傀儡なの?」


 深沙央さんの問にマーヤは首を振った。


「そうではありません。王は血筋ゆえ強大な魔力を秘めています。幹部陣といえども、彼の言葉を無視することはできません。しかし侵略を是として世界を混乱に導いているのは幹部陣の采配が大きいと思われます」


 とにかく今は効率よく幹部をやっつける方法があればいいんだな。思いつかないけど。

 ガルナはソファに背中を預けて天井を見上げた。


「強力な魔法があれば吸血魔の国にぶち込んで、一気に解決できるんだろうけどな」

「それはいけません。吸血魔でも平和を望んでいる者は多くいます。吸血行為を拒む者もいるんです。彼らの活動は幹部陣に潰されて日の目は出ませんが、吸血魔の全てが死んでいいものではありません」

「そ、そうだな。悪かったよ」


 泣き出しそうな剣幕のマーヤに、ガルナは頭を下げた。


「ねぇ、戦場をいくつか紹介してくれないかしら。敵軍を全滅させてまわれば王国軍は敵国に攻め込むことが出来るし、幹部陣も引っ張りだせると思うの」

「わかったよ。上に打診してみるよ」


 深沙央さんの意見にブロンダは快諾してくれた。

 ガルナはブロンダへ向けてニヤっとした。


「なんだか勇者との打ち合わせになったな。今日は立派に仕事をしたぜ」

「ガルナ、詭弁って言葉を知ってる?」


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