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36.彼女 軍属少女と友達になる

「俺は傷が増えるほど魔力を外に出せる。魔力を建物の空気に混ぜ込んで人質を探したいんだ!」

「どうなっても知らねえぜ!」


 ガルナの蹴りが入ったとたん、全身が切り刻まれた。痛い。身体中が血生臭くなる。

 パティアが教えてくれた魔力放出のイメージ。俺の身体は水源だ。身体の外に水が溢れる妄想を抱くんだ。


「これは、コイツの魔力なのか」

「すごい。部屋の外にまで広がっていくよ」

「驚嘆。発言。例えるなら領地。何者かの体内にいる感じ……」


 成功した。次に集中だ。目をつぶっても周囲に人がいることは分かる。でも部屋の外までは無理か。


「康史君、無茶しすぎよ」

「こうなりゃ深沙央、変身して水をばらまいてくれ。探すだけ探してみるんだ」


 ダメだアラクネ。それでは運任せになってしまう。爆音。またどこかで火の手が上がってるんだ。


 魔剣を手にする。さっきはライラスの拳に魔剣を突き刺して魔力を注ぎこんだ。今度は床に剣を突き刺して、建物自体に俺の魔力を注ぐ。

 それが出来れば、空気同様に建物は俺のものになる。空気が俺の目や耳になれたのなら、建物だって。

 さっきはライラスの拳に魔力を注ぐと弾けとんでいた。今回は慎重にやるんだ。


「康史君?」


 俺から水が溢れるイメージ。ここの空気は俺。建物は身体の一部。人質はどこにいる。そう思いながら意識を研ぎすませて。


「見つけた!」




 翌日、俺と深沙央さんは軍の病院へ行った。入口でガルナたちと会った。


「オマエら。パティアの見舞いに来てくれたのか」

「もちろん。あれから気になってたんだ」

「偉い人に聞いてみたら、ここにいるって教えてもらったのよ」


 連れだって廊下を歩く。


「あのさ、昨日は悪かったよ。お前らがいなかったら人質は助けられなかったと思うぜ」

「気にしてないよ」

「うん。どうせいきなり現れた勇者が鼻について、つい意地悪したくなっちゃったんでしょ。私、そういうの慣れてるから」

「うっ」

「向こうのほうが精神的に大人みたいだね」


 ブロンダは敵わないという表情を浮かべる。


「ところでパティアは?」

「安心しな。今日中に退院できるぜ」

「それは良かった。ところでパティアはどうして倒れたんだ?」


 倒れるような傷は負っていなかったはずだ。

黙りこむガルナの顔を、ブロンダは覗きこんだ。


「ガルナ、今後のこともあるし、はなしといたほうが良いんじゃないかな」

「今後?」

「そうだな。パティアは子供の頃に親を亡くしてんだ。火災というか、村ごと焼けちまったんだよ。吸血魔の襲撃に遭ってな」

「両親は大火傷を負って虫の息だったんだよね。当然パティアは親に死んでほしくなかった。そのとき能力が覚醒したんだよ」


 それが時間を止める力だったのか。


「本人から聞いたんだけど、三日間くらい時間を止めていたみたいだよ。でもね、時間を止めても両親の火傷は治るワケじゃない。死にゆく両親の顔を見ながら、ついにパティアは力尽きて、保護されたときには親の死をつきつけられていたんだよ」


「だからパティアは火とかケガ人を見るとパニックを起こすようになっちまった。軍人向きじゃないけど、あの力のおかげで作戦に組み込まれることが多かった。王国軍はちゃんと評価してくれる組織だから、あいつは大佐にまで成り上がったんだけどな」


 そういうことだったのか。

 病室の扉を開けるとパティアがベッドに座っていた。床につかない足をブラブラさせている。


「ガルナ、ブロンダ、ルドリカ、遅いんだぞ。あ、康史と深沙央だ……」


 俺たちを見たとたん、気まずそうな顔をしてしまった。


「昨日はすまないことをしてしまったな。ごめんなさい。あと三人もごめんなさい」


 パティアは頭を下げた。


「気にしなくていいよ。超能力がどんなものなのか、よくわかったし」

「ええ。人質も無事助け出せたもの」

「俺たちも久しぶりの戦闘で楽しかったぜ」


 久しぶりだったのか。特殊部隊なのに。ガルナに聞いてみた。


「俺たちはお荷物だからよ。パティアがもう少し時間を止める能力を使ってくれれば、上層部も仕事をまわしてくれる気がするんだけどな」


 するとパティアは俯いてしまった。悲しそうに視線を落とす。


「本当はあの力は嫌いなんだぞ。だってみんなが死んだみたいに止まってしまうんだ。ガルナもブロンダもルドリカも死んだみたいだ。そんなの見たくない。ずっと動かなくなったら困るんだ」

「オマエそんなこと気にしてたのかよ」

「時間を止めたらパティアはいつも一人ぼっちになってしまう」


 パティアはとても寂しそうだ。そんなパティアの手を取ったのは深沙央さんだった。


「でも、もう一人じゃないわ。私と康史君は止まった時間の中でも動ける。一人ぼっちになんてさせない」

「深沙央……」


 俺もパティアに強く頷いた。


「康史、あのな。さっき夢の中に父様と母様が出てきたんだ。火傷してた。死ぬときの光景だった。でも父様と母様は言ったんだ。パティアは一人じゃない。パティアには仲間がいるって。あのときも同じことを言ってたんだ。どうして忘れてたんだろう」


 パティアは俺と深沙央さんの手を握った。


「康史と深沙央は父様や母様と同じことを言う。お願いがあるんだ。パティアの友達になってくれないか。そうしたらパティアは嬉しい」

「ええ、友達よ」

「うん。もうとっくに友達だ」


 パティアは満面の笑みを浮かべた。ほかの三人も嬉しそうだ。


「よかったよ。じゃあ良い機会だから二人に伝えておくね」


 ブロンダが背筋を伸ばした。


「これは未承認事項なんだけど、軍は吸血魔の本拠地を攻める際に、大部隊とは別に不意打ちを可能とした高機動小隊を編成しようとしてるんだ。その部隊の構成員が私たちになる予定なんだけど、四人じゃ少なすぎるし、補充要員を探しているんだよ」


「募集要項。発表。軍人民間問わず募る。私たちは二人の参加を期待している。以上」


「つまり吸血魔の王を倒せるチャンスを得られるってわけね。もちろん参加するわ。その時が来たら声をかけてね」


 深沙央さんは笑顔で応えた。

 こうして俺と深沙央さんは軍属少女と友達になれた。吸血魔の王の打倒に一歩近づけたんだ。


「ところでガルナたちは何がきっかけで能力に目覚めたんだ?」

「俺は子供の頃、男子五人を相手にケンカしてたら目覚めたぜ」

「私は近所の狼犬に挑戦したら返り討ちにあって、逃げてるときに覚醒したよ」

「秘話。告白。家中の壁を殴り壊し、食器を全部叩き割り、家具を壊してまわり、止めに入った両親をも殴り、もう殴るモノがないと気づいたときに覚醒。以上」


 めんどうくさい女どもだな!


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