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34.彼女 ケンカを売られる

 夕方、屋敷にシーカが戻ってきた。


「深沙央様のおかげでモデラーテ様と奥方様、それに執事は人間として意識を取り戻しました。王国の首脳陣は感謝とともに深沙央様のお力に大変驚いていました」


 昼間の騒動から半日。王都は騒然としている。モデラーテの娘が吸血魔に囚われて、吸血魔は王国軍の戦場撤退を求めているんだ。でも、要求を飲んだりしたら吸血魔の軍勢が一気に国内に攻め入る事になる。


「大変なことになったわね」

「はい。かといって無視すれば、お嬢さまは殺されてしまいます。お嬢さまは侯爵様のお孫さま。そして国王陛下の弟君のお孫さまでもあるんです」


 シーカの言葉に深沙央さんやメグさんは難しい顔になる。


「国王陛下は勇者様たちに大変期待を寄せています。そこで人質救出作戦にお二人も参加してもらうことになりました」

「どんな作戦なの」

「明朝、吸血魔のいる廃要塞の前に軍を配置します。攻撃せず説得を行います」

「応じるとは思えないけど」

「はい。説得の隙に少数精鋭部隊で廃要塞に潜入して人質を救出するんです。お二人は少数精鋭部隊として動いてもらいます」


 なるほど。精鋭部隊は俺たちだけでいいのかな。シーカに聞いてみた。


「いえ。軍の特殊部隊も精鋭部隊として潜入します」

「特殊部隊なんてあるんだ」

「はい。騒動の場にいたパティア・ゴルドサード大佐率いる部隊です」


 パティアって大佐だったのか。俺が驚いていると深沙央さんが口を開けた。


「シーカ、あの子の時間を止める力。あれは魔法なの?」

「魔法ではありません。異能の力です」

「異能?」

「はい。この世界では稀に超能力を持って生まれてくる者がいます。軍はそのような者を軍属にして軍事力強化に活かそうとします。けれど、多くの者が軍に馴染めません」


 超能力者までいるのか。それはそうとパティアと共同戦線。昼間はケンカ別れっぽくなってしまったし、うまくいくのかな。




 廃要塞の前には王国軍と騎士団が配置された。廃要塞の周囲には無数の使い魔・ネズミ兵が守りを固めている。


「あの建物の中に主犯の吸血魔と人質がいるんだな」


 人質は北西侯爵の孫娘。まだ五歳だという。

 俺たちは少し離れたところにある焼却炉の前にいた。


「ここに秘密の通路があるのね」

「はい。廃要塞は数年前まで軍司令部の別館として使われていました。この抜け道の存在は吸血魔には知られていないはずです。ここから内部に侵入し、吸血魔を倒して人質を取り戻しましょう」


 シーカが焼却炉の鉄扉を開けると、地下へ続く階段が現れた。

 出撃メンバーは俺と深沙央さん、シーカ、アラクネ、メグさん。それと


「パティアたちだけで十分なんだぞ」

「そんなこと言ったらダメだよ。上からの命令なんだから」

「それにしても異世界の勇者かよ。驚いたぜ」

「…………」


 パティアたち。軍の特殊部隊の四人娘だ。なんだか歓迎されてないな。


 階段を下りて地下道を進み、また階段を上ると鉄扉が現れた。


「この鉄扉は蹴り破っていいそうです」

「じゃあ私が」


 深沙央さんが蹴りとばすと大きな部屋になっていた。部屋に出て振り向けば、鉄扉とともに壁紙がはがれ落ちていた。扉が壁紙で隠されていたのでは誰も気付かないだろうな。

 屋内のネズミ兵が俺たちに気付いて襲ってきた。


「結局こうなるのよね。セミテュラー! 潜入の鎧よ、顕現せよ!」


 深沙央さんは聖式魔鎧装ソードダンサーを纏い、太陽の剣を振るう。


「へぇ、マジで勇者かよ。こっちも負けてらんねぇぜ」


 短髪の少女兵、たしか名前はガルナだったな。


 ガルナはネズミ兵の群れに飛び込んだ。飛び蹴りをネズミ兵にぶつける。すると蹴られたネズミ兵はもちろん、周囲の敵までも切り刻まれていった。まるで八方から剣で幾回も斬られたような切り傷を負い、ネズミ兵は消失した。


「さっきの飛び蹴りだったよな。どうやって斬ったんだ」

「きっとあれが、あの人の異能力なんです」


 驚く俺とシーカにガルナは振り向いた。


「俺には剣なんていらないんだよ」


 そんなこと言ってる間にもネズミ兵が次々と押し寄せる。


「敵が一直線に並んだ! 行くからね!」


 三つ編み少女のブロンダは槍を構える。そして一気に加速した。速い。直線状にいたネズミ兵は槍の餌食になり、周囲のネズミ兵も衝撃波で吹っ飛んだ。


「すごい。私の500倍速よりも速いかもしれないわ」


 驚く深沙央さん。さすが特殊部隊だ。

 眼鏡の無口少女は細剣を頭上に掲げた。たしか名前はルドリカだ。


「敵を認識。攻撃準備。あとは振り下ろすだけ。以上」


 ルドリカが剣を振り下ろすと、稲妻が蛇のようにうねりながらネズミ兵を襲った。


「あの女、アタシと同じ電撃使いかよ」


 アラクネは苦笑い。

 シーカ、メグさんも果敢に挑んでいった。

 深沙央さんは迫りくるネズミ兵を切り刻んでいく。


「埒が明かないわ。吸血魔を探さないと。こういう状況だと、最上階にいるのが定石なんだけど……っ!」


 そのとき、ブロンダの加速攻撃が深沙央さんを巻き込んだ。


「深沙央さん!」

「大丈夫よ。800倍速で避けきった……」


 ブロンダの攻撃を受けて、霧散していくネズミ兵の中から深沙央さんが現れた。


「避けきった……はずだったのに」


 鎧の左肩から肘にかけて、大きな亀裂が入っていた。ブロンダといえば、感心した様子で深沙央さんを眺めている。


「私の攻撃の直撃をかわすなんて、スゴイよね」

「コラァ! テメぇ、わざとだろ!」


 怒ったアラクネがブロンダに近づいていく。


「誤解。反論。このような乱戦状態においては攻撃に巻き込まれる事は仕方ない。以上」

 ルドリカが剣に電撃を纏わせながら、アラクネの前に立った。


「オイ、コラ、テメぇ。魔王にケンカ売ってんのか。眼鏡カチ割るぞ」


 アラクネも魔鉄槌に電撃を走らせる。何これ。ケンカ?


「俺たちの攻撃に合わせられないオマエらが悪いんだぜ。っつーか、邪魔?」


 ガルナが空気悪くなる発言をする。


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。俺たちの任務は人質奪還だ!」

「そんなことより男勇者、立派な剣を持ってるじゃねーか。俺の蹴りと勝負しないか?」


 魔剣のことか。俺にネズミ兵が迫って来た。

 さらにガルナが俺に向かって飛び蹴りを放ってきた。魔剣で受け止めるか。無理だ。あの蹴りを喰らったら八方から切り刻まれてしまう。


「康史君!」


 寸前で深沙央さんに抱えられて窮地を脱した。俺が立っていた場所にガルナは着地。周囲のネズミ兵は切断されて、床は抉れていった。


「オマエ、康史君を狙ったわね」

「違う違う。俺の標的は最初からネズミ兵だったぜ」


 ガルナはニヤリとする。


「オマエ!」


 深沙央さんは怒っている。これはマズイ事になった。


「ふんっ。くだらないんだぞ」


 これまで立っていただけのパティアは駆け出した。


「パティアはボスを倒しに行くんだぞっ」

「ダメだよ。みんなで行かないと」

「またアイツ、一人で」


 パティアは部屋を出ていってしまった。


「この建物の見取り図だと、あの子の行った先に階段があるわ。追いかけるわよ!」


 そんなとき巨大なネズミ兵が壁を突き破って現れた。


「ここはアタシたちが引き受ける。深沙央と康史は吸血魔を殺ってきな」

「まかせたぞアラクネ」

「おい、オマエらだけで行かせないぜ。くそっ」


 巨大ネズミ兵が振り下ろした拳をガルナはなんとか避けていた。

 俺と深沙央さんは最上階を目指した。


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