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29.俺と彼女 王城に招かれる

 俺の目の前には大きくて立派で荘厳な城がそびえ立っている。


「康史君、もしかして緊張しているの?」

「だって、お城って王様やお姫様が住んでいて兵隊やメイドさんがいっぱいいるところだよ。俺、場違いじゃないのか?」

「お城だしね。私は別の世界で何度かお城に行ったことがあるけど、怖がるようなところじゃないわ」

「自信を持ってください康史様。お二人はニセ魔王を倒しただけでも表彰ものなのに、敵の手に落ちた要塞まで奪還したんですから」


 城門の前で緊張して息荒く、門番の迷惑そうな視線を受けとめながら、変な汗を振りまきながら挙動不審であろう俺にシーカは言った。


「特に吸血魔の武将ライオラを倒した功績は大きいです。ライオラは敵軍の統率者。倒したことで敵軍は混乱しています。いくつかの戦地では敵軍が撤退しているとか。これも康史様と深沙央様のおかげです。男爵位が授与されることは当然の結果なのです」


 頭では納得できても心が追いつきません。


「あ、あの……」


 俺は震える手を深沙央さんに差し出した。


「遊園地のアトラクションだと思えばいいのよ。ふふ、デートみたいね」


 深沙央さんは俺の手を握ってくれた。

 



 爵位を与えたいから、お城へ来い

 そんな召喚状をもらった翌朝から二泊三日。馬車の馬にメグさんの加速魔法をかけてもらって、さらにアラクネの催眠術で元気になってもらって、ようやく到着したのがエリンシュタイン王国の首都、王都だ。

 到着したときには正午をまわっていて、俺と深沙央さん、アラクネは宿に、シーカは上司にこれまでの経緯を報告しに行った。メグさんたちは駐在所でお留守番している。


 一晩明けて、本日。アラクネは王都見物に行き、俺たちは接客係に案内されて城内の爵位授与式の部屋に行くことになった。その前に着替えとか段取りの説明で、深沙央さんやシーカとは違う部屋に通された。

 貸してもらった服は貴族が着そうな上等なものだ。


「これ、絶対似合ってない。服が勝ってるよな」


 鏡を見ながら思う。弱い自覚はあったけど、まさか服にまで負けるなんてな。あ、接客係め、いま笑ったな。

 トイレに行きたくなったので、場所を聞いて用を済ます。さっきの部屋に戻ろうとしたものの、城の中は広くて迷ってしまった。壁には案内のような文字が書かれているものの、この世界の文字なんて読めない。


「深沙央さんたちと合流してからトイレに行けばよかった」


 迷って歩いていると、さらに迷う。来る途中には渡り廊下なんてなかったし、あきらかに別の雰囲気の建物の中にいるし、すれ違う人たちも可愛いメイドさんからイカツイ軍人に変わり始めた。


「一度外に出て、入口から入りなおすか」


 建物の外に出ると、隣にはお城があった。渡り廊下を通ったのが迷子のもとだったんだ。

 お城と建物のあいだには庭園があった。手入れが行き届いていて鮮やかな草花で彩られている。こんなところ、深沙央さんと一緒にデートしたいな。


「おい、そこの変なヤツ。ナニモノだっ」


 声がしたほうへ視線を向ければ、一人の子供が立っていた。ピンクと黄色のフリフリなワンピースを着ている女の子だ。腰に手を当てて、口元はヘの字。もしかして警戒しているのか。ずいぶん可愛らしい警戒ぶりだ。


「俺は迷子だよ。怪しいもんじゃない」

「本当か? パティアを騙そうとしてないか。オマエは服が全然似合ってない。チグハグだ。忍び込んできた泥棒なんじゃないのかっ」


 ハグアァっ。気にしていたことを。


「俺はここに招かれて、服を貸してもらったんだ」

「本当か? チグハグといえば、オマエの存在もチグハグだ。この世界にいるのに、この世界の者じゃない気がする。弱そうなクセに、そのメチャクチャな魔力はなんだっ」


 この子……パティアと言ったな。俺の正体を見破ったっていうのか。俺が驚いているとパティアは警戒を解いた。


「まぁいいか。悪い奴じゃないみたいだな。なぁオマエ。私と遊べっ」

「俺は急いでいるんだ。それにオマエってやめてくれないか。俺は康史っていうんだ」

「じゃあ康史。すぐに終わる遊びをしろっ」


 えー。少し考えて、思いつく。


「庭園の端から端までかけっこをしよう」


 庭園はそこまで大きくない。ざっと100メートル四方。ちょうど真ん中は一直線の歩道になっていて、ほかには人もいない。運動神経は良い方でもないけれど、子供相手に短距離走で負ける気はない。


「パティア、俺が勝ったら城の更衣室の場所を教えてくれるか。俺はそこから来たんだ」

「つまり康史は女子更衣室で悪さをして逃げてきたのかっ」

「違うわい。男子更衣室から出たあとで迷子になったんだよ」

「本当か? パティアが勝ったら何してくれる。ずっと遊んでくれるのか?」

「それはちょっと」


 するとパティアは悲しそうな表情を浮かべた。まずい。ここで児童に泣かれては困る。


「そうだ。これをやるよ」


 ポケットから細長いケースに入ったキャンディーを取り出した。いつでも深沙央さんとキス出来るように、口臭対策としてガムや清涼剤やキャンディーをたくさん持って来ていたのだ。

 もっともファーストキスのときには、口に入れる暇もなかったけど。ファーストキス……あのときは大変だったけど、深沙央さんの唇の感触は今でも残っている。


「柔らかかったな」

「康史、とっても気持ち悪い顔をしているぞ」

「目の錯覚だ。じゃあ勝負といこうか」


 二人して庭園の端に移動して。俺は叫ぶ。


「よーいスタート!」


 スタートのタイミングを自分で決められるのは勝負に大きな差をつけた。

 走りながら振り返ればパティアはゆっくりと走ってくる。高校一年生に勝とうなんて十年早いんだよ。


「ん?」


 気がつけばパティアが隣を走っていた。いつの間に追いつかれたんだ? こうしちゃいられない。全速力で引き離す。少しずつ差が開いていく。

 あと少しでゴールだ。そう思った矢先、パティアが前を走っていた。

 一体なにが起きたんだ。油断? まばたきした隙に割り込んできたのか? そんなはずは……俺が混乱しているのを余所に


「とうちゃーく! パティアの勝ちなんだぞっ」

「ど、どうしてこんな事に?」

「ははは。こういう勝負でパティアに勝とうなんて百年早いんだぞ」


 胸を張って勝ち誇るパティア。


「じゃあ約束どおりにキャンディーをやるよ」


 俺はケースからオレンジ味のキャンディーを一個出してパティアに渡した。

 パティアはキャンディーを珍しそうに眺めて、口に放り込んだ。あっという間に目は輝きだし、美味しそうに両手を頬に当てた。


「うまい。果実と同じ味がする。康史は良い物を持っているなっ」


 パティアはとっても御満悦だ。


「こんなに美味しいとは思わなかった。そうだ。お礼にパティアの軍団に加えてやろう。康史も一緒に世界を平和にするのだ。メチャクチャな魔力の康史がいれば心強いぞ」


 魔法少女ごっこかな。俺の彼女は正真正銘の魔法少女だから紹介したら喜ぶだろうな。


「ゴメン。俺は本当に世界を平和にしなくちゃいけないんだ」

「パティアだって本気なんだぞ」

「あ~、うん。それに俺って魔力が強いみたいだけど、上手く使えないというか、外に出せないんだよな」


 今のところ、傷を負った拍子に魔力が放出されるみたいだけど。戦いの最中にケガしていたら深沙央さんの足手まといになってしまう。どうすればいいんだろう。


「おかしな話だな。魔力放出なんて簡単なんだぞ。イメージだ。パティアは心臓から手に向かって川が流れて、手から滝が出るような想像をするんだぞ。魔力は簡単に外に出るぞ」


 妄想しろっていうのか。言われた通りに想像して手を天にかざす。はい、何も起こりませんね。


「ダメなヤツだな。修行が足りなんだぞ」


 魔剣みたいに握れるものなら、魔力を込めることは出来るんだけど。

 パティアは俺をじっと見ていた。もしかしてキャンディーが欲しいのか?


「そんなに気に入ったんなら全部やるよ」


 ポケットから出した途端、強烈な違和感があった。ほんの一瞬だったけど、何かが止まった感じがした。なにが止まったのかまでは分からないけど……そういえば走っている最中にも似たような感覚があった事を思い出した。


「あ、そうだ。キャンディーだ。よかったら全部やるよ」

「もらってるぞっ」


 俺の手にあったはずのキャンディーがケースごとパティアの手にあった。


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