22.彼女 水着 夏の海
間にあいませんでした。
「どうしてメグさんが康史君の上着を、どうしてアラクネが康史君のズボンを、どうして康史君はパジャマを裏返しで着ているのかしら」
なぜか外で正座させられている俺。
「急いで着替えていたら間違えてしまったんです」
「深沙央が急かすからだぞ。それに夜明け前で眠かったんだ」
メグさんとアラクネは弁明した。
俺は今日着る服を窓側のカーテンの下に置いていた。それはメグさんも同じだった。昨日の服は壁側のカーテンの下に置いておいた。アラクネは寝ぼけていて自分の今日の服だと勘違いした。よくある話だ。多分。
事情を知った深沙央さんは溜息をついた。
「紛らわしいわね。おかしな仲かと思ったわ。それじゃあ早く着替えて準備に取り掛かりましょう。メグさんは道中のお昼の準備を。アラクネは馬の世話をしてきて。私と康史君は、ひとっ飛びして隣村へ馬車を借りにいくわ」
さて、今日は楽しい海の日だ。俺はさっそく立ち上がった。その拍子にパジャマの懐から何かが落ちた。これは……
「やったブラジャーだ。この大きさはメグさんの物だ」
なぜ俺のパジャマからブラジャーが出土するんだ。
お、思い出した。ドタバタしながら着替えていたから、紛れ込んだんだ。全ての謎が繋がった。朝から冴えてるな。
「え? え? あれ?」
メグさんは珍しく慌てていた。可愛いのう。手で胸元を叩き、胸を押さえはじめた。
「あ、私、ノーブラだ。あの、康史さん。ブラジャー、返していただけますでしょうか」
「ああ。もちろんだとも」
メグさんは顔を真っ赤にし、身体をくの字に曲げて、なぜか俺から顔をそむけ、蚊の生命が消えゆくような、か細い声で手を伸ばしてきた。可愛いお姉さんだ。
なにか優しい言葉を送りたくなった俺は言った。
「メグさんが着ている俺の上着、洗濯しないで返して下さい」
メグさん。ブラを掴み取ると走って部屋に戻っていった。涙目だった。お腹が痛かったのかな。そういやハダカの時間が長かったし、冷えちゃったのかな。
さて、俺は準備を始めるか。
「セミテュラー! 罰として鎧よ、顕現せよ!」
鎧を召喚した深沙央さんは俺の腕をつかんだ。なんだ? 俺は何をしたというんだ。
「250倍速!」
そんな速さで走るものだから、俺は振り回されて身体は浮きっぱなしだった。なんだか意図的に乱暴に扱われている気がする。
隣の村についたときの気分は最悪だった。盛大に吐いた。馬はとても驚いていた。
空が明るくなりはじめた頃に出発した。二台の馬車に分乗。休憩の度に乗り換えをして楽しいおしゃべりをしていた。まるで女だらけの修学旅行だ。これで俺を話の輪に入れてくれれば最高なんだけどね。
そして夕方になる前に海に辿り着くことが出来た。
「わぁ! 本当にみんなで来てくれたんだね。歓迎するよ」
「シプリさん、お久しぶりです。急に押しかけてゴメンなさい」
「いいって。シーカさんは相変わらず真面目だね。さぁ、みんな。入って」
海の家のシプリちゃんは俺たちを歓迎してくれた。彼女の両親は俺と深沙央さんが勇者だと知ると、娘の命の恩人だと感謝してくれた。
「それにしても早く着いたわね」
「そうだな」
俺と深沙央さんは馬車の馬をチラリと見た。今朝、アラクネは馬に元気になる催眠術をかけたのだ。さらにアラクネに頼まれたメグさんによって、加速の補助魔法をかけられていた。
たしかに馬車は早かった。おかげで今日から海で遊べる。でも馬はヘトヘトだ。
「深沙央様。水着が借りられるそうですよ」
向こうでシーカが手を振っている。
「そ、それじゃあ康史君。私、着替えてくるからね」
「深沙央さん、ひょっとして照れてる? 恥ずかしい?」
「ばかっ。別に恥ずかしくないもん」
深沙央さんはちょっと恥ずかしがりながら、そして嬉しそうに駆けていった。
ありがとう夏。頑張れ神山康史。あとは任せろヘトヘトの馬。
青い空。照りつける太陽。耳に響く潮騒。足の裏を焦がす白い砂浜。
異世界の夏もいいね。元いた世界と季節が連動していて良かった。
さて、今年の夏の主役は太陽でも湿度でも水分補給でもない。主役は彼女。さぁ、水着を纏って顕現せよ!
「あの……康史君」
振り向く。そこにはビキニ姿の深沙央さんがいた。
そうか。服の下は可愛くて綺麗で色っぽくて悩ましくて柔らかそうでキレイな肌だったんだな。深沙央さんのボディについて語りだすと日が暮れてしまうので、ここからは水着だけに言及しておこう。まずトップの部分。
ちょうど良い大きさの布面積だ。面積は大きすぎると落胆し、小さすぎると下品になってしまう。だが、そこは深沙央さんのチョイス。俺のために製造されたのかと思ってしまうほどに、程よく胸の丸みを隠している。ボトムも同様に想像を掻き立てる。見えないからこそ良い。だが御褒美程度には魅せてくれる。
普通の三角ビキニだけど、普通、それが良い。色が白なことも、透けそうな近い将来を期待させてくれる。実にすばらしい。
「どう? 似合う、かな?」
似合う。似合うさ。似合うとも。俺は極めて冷静に、それでいて興味があるように、かつイヤらしくないように、ボイスだけでもイケメンに「似合う。かわいいよ」と言ってやった。俺は今、青春の真ん中に立っている。
「あの、康史さん」
次に現れたのはメグさんだ。こちらもビキニだが麦わら帽子とパレオでお姉さんな雰囲気を放出している。
さて、問題はトップだ。大きな胸のおかげでトップがはち切れそうになっている。布が胸肉に喰い込んでいるのだ。
「一番大きなサイズがこれしかなかったんです」
海の家よ、お前は悪くない。何事も想定外はあるさ。俺はメグさんのビキニトップに、こう言ってやりたい。「無理しなくてもいいんだよ」と。
限界だと思ったら、いつでも弾け飛んでしまえば良いのさ。新しい布の人生を始めてごらんよ。
「お、康史も着替えたか。早いな」
アラクネだ。胸が大きく開いたレオタードを着ている。次は誰かな。
「オイ康史。どうしてアタシから目を逸らすんだ」
「オマエはハダカ率が多くて水着にレア度がない。それに、オマエのハダカに関わったあとは必ず不幸になっている気がする」
「人を疫病神のように言うな。魔王の水着姿なんだぞ。敬え!」
え~と、続いて現れたのはシーカとシーラの姉妹コンビだ。紺色の標準的なレオタード? いや違う。あれは旧型のスクール水着だ。マンガやアニメでしか御目通りできなかった旧スク水が異世界では生きていたのだ。しかも貴重な姉妹水着。
シーラは恥ずかしいのか、浮き輪を持つシーカのうしろでモジモジと俺の様子をうかがっている。眼福です。
「康史様、目が血走っています。シーラとマーヤが怯えています。目を海水ですすいで来てください」
「目が染みちゃうだろ。あれ? マーヤは?」
マーヤはちょっと離れたところにいた。水着の上に上着を着ている。
「どうしたんだろう」
「それが、胸の宝石のことでね」
深沙央さんの言う宝石とは、マーヤの胸にくっついて離れない不思議な宝石のことだ。俺が触れると赤色から青色に変わって、マーヤの自我が復活した。
宝石はマジックアイテムだと思うんだけど……
「マーヤの事情を忘れていたわ。あれじゃ人目が気になって楽しめないものね。海を選んだのは迂闊だったわ」
「宝石のことは、ほかの女の子には伏せていましたもんね」
深沙央さんとシーカが渋そうな顔をしているとアラクネが俺を見た。
「康史が触ればいいんじゃないか。魔力の使い方も分かってきたみたいだし、今度こそ取れたりしてな」
もし上手くいくことでマーヤが楽しく過ごせるのなら、やってみる価値はありそうだ。




