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12.要塞奪還作戦!

 要塞が見えてきたのは真夜中だった。俺たちと深沙央さんの分身たちは二台の馬車に分乗して要塞へやってきた。

 要塞の左右は垂直といっていいほどの岩肌に挟まれていて、前後は高い壁で覆われている。


 アラクネが催眠術で操っているシープンに馬車の御者をさせているおかげで、門番のネズミ兵は俺たちの馬車を中に招き入れた。


「すごいな。アラクネの作戦」

「これでも魔王経験者だ。こういう要塞には斥候がいるもんだけど、シープンがいるから騒がれなかったな」


 要塞の内側は広い。要塞本部の建物の前には校庭の二倍くらいの空き地がある。

 馬車は空き地の真ん中で止まった。チラリと外を見ると、体格のいいネズミ兵がシープンに話しかけていた。


「チュチュチュ。シープン殿、ドウシテ、ソンナニ、ケガしてる」

「メメメぇ~、オイラの名前はシープンだメェ。女をたくさん連れてきたメェ~」


 催眠状態のシープンが返答した。ネズミ兵は不審がる。


「変ナ、シャベリかたシテル。それに馬車、二台。ナンデ、ナンデ」

「それは女が大漁だったからだメェ。オイラはヒツジの皮を被った有能な吸血魔メェ~」

「中ヲ、検めさせて、モラウ。チュチュチュ」


 ネズミ兵が馬車のうしろにまわって来て、中を覗き込んだ。


「あああ、オんナノ子イッパイ。ライオラ様ヨロコブ。デモ、アレレ。ミンナ、オナジ顔」

「今よ! 部隊展開!」


 深沙央さんの号令で分身たちが動き出した。覗きこんでいたネズミ兵は、分身の一人が放った矢に射抜かれて霧散する。


「甲部隊は建物の反対側にまわって火矢を放って。乙部隊は私たちとともに敵兵を倒しつつ甲部隊を誘導。その後は建物から敵をおびき出しつつ、突入路を確保!」


 深沙央さんの指示がとぶ。分身体『1/100』を隊長、『1/144』9名を人員とした部隊が整列。もう一台の馬車から飛び出した10人の分身たちも同様に整列した。


「一気に行くわよ」


 俺たちを筆頭に乙部隊が建物前のネズミ兵を倒しながら、甲部隊の道を作った。


「深沙央さん、こういうの慣れてる?」


 既に聖式魔鎧装に変身し、二刀流でネズミ兵を切り捨てている深沙央さんは頷いた。


「小学六年生の頃に行った異世界では小隊を任されていたの」

「なぜ小六の女子に小隊を!」

「小学六年生って最高学年でしょ。最高学年で委員長をしているって言ったら、異世界の人に高級士官だと勘違いされて、小隊長に任命されたの」

「勘違いも甚だしいな!」


 建物と高い壁のあいだには小道があった。建物の反対側に抜ける道だ。甲部隊はここから反対側にまわった。建物の両側から攻撃する作戦を取るためだ。


 残った俺たちと乙部隊は建物から出てきたネズミ兵を相手にした。

深沙央さんやシーカはもちろん、分身たちも大活躍だ。弓、剣、槍術、格闘技。隊長役の『1/100』分身ちゃんは馬車から離した馬にまたがり、戦場を駆け、ネズミ兵の部隊をかきまぜている。分身とはいえ十分強い。


「うりゃああ!」


 強いと言えばアラクネだ。ハンマーを振り回してネズミ兵を叩きのめし、その衝撃は地面に穴を空けるほどだった。この要塞は壊すのではなく取り返すものなんだから少しは加減してほしい。


「アラクネ! やりすぎだって」


 そもそも、そのハンマーってどこで手に入れたんだ。アラクネがこちらに跳んできたので聞いてみた。


「これか。魔杖が変形したんだ。この魔鉄槌が本当の姿みたいだな」

「どういう構造だよ」

「私の魔力に反応して真の姿を現したんだ。この状態になると魔力が吸われる」


 見ればハンマーがビリビリと電気を帯びている。


「大丈夫なのか、それ」

「試しに魔力を注いでみるか。せーのっ!」


 次の瞬間、ハンマーから電撃が発射されてネズミ兵の群れを一掃。建物の外壁に穴を開けた。


「すっげー。アハハ」

「絶対危ないだろ! それ!」




「今が頃合いね」


 深沙央さんは聖式魔鎧装を変身させた。


「フォームチェンジ! マリンダンサー!」


 この姿になると深沙央さんは水を発生させ、水の玉で攻撃ができる。深沙央さんは掌に空気中の水分を集めた。


「くらえ! 水撃翔龍滅壊道!」


 手から放たれたのは一筋の水。その勢いは天に駆けあがる龍のよう。たどり着く先は建物に併設された塔だ。

 敗残兵や催眠をかけたシープンの情報によると、周囲を監視するために使われていた塔だったとか。この塔の入口は吸血魔の侵攻時に火事で焼かれ、使いものにならなくなっているという。


 この塔が深沙央さんの必殺技、水撃なんとか道によって根元から破壊され、折れ曲がり、壁を越えて、要塞を挟むようにそびえる断崖絶壁に、ナナメの状態で頂上をぶつけた。

 深沙央さんはさらに、もう一発放った。今度は断崖絶壁に面した要塞本部の壁に穴を開けた。高さは四階くらいか。


「今よ、メグさん!」

「承知しました」


 メグさんが光の魔法、フラッシュアローを天高く放った。これを信号弾、つまり合図にして、作戦は次の段階に移行した。


「それ行け! 突撃だ!」


 絶壁の上から深沙央さんの分身『1/100』ちゃんが叫んだ。分身軍団の残りの10名からなる丙部隊が絶壁から駆け降りてきたのだ。


「うお~」


 『1/144』ちゃんたちが雄叫びを上げながら、絶壁に頂上をぶつけている塔に着地。斜めになった塔を滑るように下りながら、要塞本部に開けた穴に跳びうつって内部に突入した。


 馬車の中で深沙央さんが言っていた。


「要塞正面に乗り込んできた部隊が全軍だと考える敵将はいないわ。相手の切り札を警戒する。そういうときはニセの切り札を見せてあげればいいの。ニセの切り札役は反対側で攻撃する甲部隊。これで相手は油断する。思ったとおりだって」

「なるほど」

「でも智将は警戒を続けるわ。そこで第二のニセ切り札である丙部隊が奇襲を仕掛ける。これで智将も油断する。この段階で真の切り札である私やアラクネが素早く敵の本陣に突入。敵は私の予想外の行動と素早さに驚いて対応ができないわ」


 正面で戦うときは、あえて、ゆっくりと攻める。このあと速攻を仕掛けたときに、相手を驚かすためだ。今のところ順調だ。


「ううっ」


 ところが、うめき声。深沙央さんの聖式魔鎧装は解除され、膝をついていた。


「大丈夫か!」


 これまでの戦いにおいて深沙央さんは圧勝、というか楽勝してきた。でも今は疲労困憊といった様子だ。勝手に変身が解けるなんてことはなかった。


「ちょっと疲れただけよ」

「今のオメぇは分身しているんだ。そんな状態で変身しても力は激減してる。しかも必殺技なんて連発したら疲れるだろうよ」


 叱咤するアラクネに深沙央さんは反論する。


「これくらい平気よ。もう一度変身して要塞本部に乗り込むわ」

「まだ早い。少し休んでろ」


 それでも深沙央さんは鎧を召喚装着すると要塞本部の入口に向かった。


「深沙央、焦るな! 待つんだ!」

「アラクネは黙ってて! 康史君」


 深沙央さんは走りながら振り向いた。


「さっさと吸血魔を倒して、元の世界に帰ろうね」


 そうか。深沙央さんは夏休みを満喫したくて焦っているんだ。彼氏の俺が深沙央さんばかりに負担をかけるから。


「ボケっとするな康史。シーカ、深沙央についてやってくれ。まだ中堅クラスが出てきてない。アタシは突入しないほうが良い」

「分かりました!」


 シーカは深沙央さんのあとを追いかけた。

 深沙央さんは建物の扉を蹴り破って進入していった。


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