112.俺 秘宝館への旅立ち
俺は水着に着替え、彼女たちを眺めていた。
深沙央さんとポコリナ、メグさんはプールの中でボール遊びをしている。シーカとマーヤは滑り台が気に入ったのか、なんども滑っては、あどけない身体をプールへと着水させていた。
「よい……実によい……」
マーヤは白い旧スク水から紺色の旧スク水に着替えてしまった。だが、それも良い。二度楽しめるというヤツだ。
他に客はいない。どうやらブリューツが気を利かせて貸しきりにしてくれたみたいだ。
「気に入ったか、康史」
「ブリューツ。この度は大変感謝する」
「ふふん。無邪気になって遊ぶ女は隙が生じる。日頃の疲れで苦しむ女たちに、解放感を与えるのも貴族の務めだ」
「まさか、一瞬の隙を突くために、この施設を!」
ブリューツはフッ、と笑みを浮かべ髪をかき上げた。
こいつ、只ならぬ逸材だったか。
「お前ってヤツは。心に決めた人がいるっていうのに」
「そういう康史こそ、深沙央という女がいるのに、さっきから視線が定まっていないぞ」
「フフフフ」
「フハハハハ」
ああ、楽しい。ツバーシャの水着も見てみたかったな。
「ときに康史、満足したか」
「満足したかといえば、満足だ。だけど、水着に着替えるところも見たかったとか、良い身体してるんだから、そもそも水着は必要なのかとか。考え出したらきりがない」
「ふんっ。考えている事は同じだな。実はな、康史を連れていきたいところがあるのだ」
まさか女子更衣室。もしくは水着工場でモデルさんの試着補助だろうか。
「期待していいんだな」
「ああ。秘宝があるところだ」
「ああ、そっちか」
「なんだと思ったのだ」
「気にしないでくれ。俺の才能が一手先を読んでいたにすぎない。秘宝を取りに行くのなら、深沙央さんたちも。お~い」
「早まるな!」
ブリューツがいつになく真剣な顔で制止してきた。
「オレ様たちで行く。女たちは遊ばせておこう」
「何故だ」
「秘宝は、秘宝館にあるのだ」
秘宝館! 俺の脳内エロデータが、その言葉を受信して検索を始める。
たしか日本の温泉地などでは秘宝館というモノが存在し、エロい等身大人形や絵画、写真を展示していたという。昭和の終焉とともに失われたと聞いているけれど、異世界にはまだ存在していたんだな。
「曾祖父様が、その手の収集家でな。ずいぶん昔に閉鎖したのだが、森の奥に残っているというのだ。オレ様も見たことがないが場所なら聞き及んでいる。魔王の秘宝も、そこにあると聞いた」
それで男だけで行こうというのか。こりゃ秘宝だけでなく、別のお宝も見つかりそうだ。
そうと決まれば今すぐ行こう。深沙央さんたちにはバレないように。
深沙央さんたちは集合して、なにやら話し込んでいる。そしてプールの外へ出ていった。
今がチャンスだ。
俺はさっそく服に着替え、ブリューツの案内で秘宝館へ向かうことにした。世界の平和のためだ!
――☆☆☆――
小腹が減った深沙央たちはプールの外にあるパン屋でサンドイッチを購入していた。
プールの喫茶スペースでは飲みモノが振る舞われていたものの、食べ物までは用意されていなかったのだ。
パン屋の前でハムサンドを食べていた深沙央の目に、プールの施設から出てきた康史とブリューツの姿が飛びこんできた。
「康史君たち、あんなに急いでどこへ行くのかしら」
一緒にプールで遊んでいたはずなのに、なにも言わずに着替え、どこかへと向かおうとする彼氏たち。
「お姉さま。腹も満たされた事ですし、少年なんて放っといて、水遊びの続きをしましょうよ」
「う~ん。気になるのよね」
ポコリナに手を引っ張られる深沙央は、乗り気でない。
「もしかしたら秘宝を取りに向かったのかもしれませんね」
メグの言葉に、深沙央はハッとする。
「それよ。康史君ったら私たちを気遣って二人だけで回収に向かったんだわ。みずくさいな。私たちも行きましょう」
「え~。せっかく楽しい水浴び場があるんですから遊んでいきましょうよ」
「そうはいかないわポコリナ。康史君だけ遊べないなんて不公平ですもの。みんなで追いかけましょう。あれ? シーカはどこ?」
「シーカさんならツバーシャさんの様子を見に行くと言って、朝ごはんを持って迎賓館に戻りましたよ」
マーヤの説明に深沙央は頷いた。シーカなら安心だ。
「じゃあ私たちだけで追いかけましょう。あ、もう姿が見えない。今すぐ追いましょう」
マーヤは驚き、深沙央に問う。
「追うって。水着のままで、ですか?」
「そうよ。このままじゃ置いてかれてしまうもの!」
マーヤとメグは顔を見合わせる。水着で海や水浴び場以外へ向かうのは、どうも気が引けるのだ。それでも深沙央は歩きだしてしまった。
「では私たちも行きましょうか」
ポコリナも歩きだしたので、二人は慌てて同調した。
こうして深沙央、ポコリナ、メグ、マーヤの四人は秘宝館のある森へ向かうのだった。
――☆☆☆――
いざ、秘宝館へ。ブリューツに連れられて森まで来てみたものの、道なんて整備されてなく歩くのも一苦労だ。こりゃ秘宝館を訪れる人間なんて何十年もいなかったんだろうな。
「おいブリューツ。本当にこの先に秘宝館があるんだろうな」
横を見れば、消えていた。マジかと思って振り向いたら50メートルくらいうしろをヨタヨタと歩いてくる。
「ひぃひぃ、ぜぇぜぇ。歩くのが早いぞ康史。少しは、ひぃ、減速しろ」
こいつ、文明の乏しい異世界でどうやって暮らしてきたんだ?
しばらく待ちながら、周囲を見渡す。森だ。森以外になにもない。
360度、緑色。と、思ったら木々の奥に赤いモノが見えた。
目をこらすと、それは屋敷だと分かった。赤いのは屋根だ。ずいぶんボロイな。
よく見れば玄関の上部にアーチ状の看板が付けられていて、この世界の文字が書かれていた。俺だって少しくらいは異世界の文字は読める。
えっと、海の月って書いてあるな。屋号かな。
「ひぃひぃ……ひぃーっ」
やっと追いついてきたブリューツ。大丈夫か。
「心配するな。ふぅ。なにかを見ていたようだが」
「ああ。秘宝館って、もしかしてアレか?」
指を差したものの? さっきまであった屋敷は忽然と姿を消していた。
「康史、その方向に秘宝館はない。もっと先だ」
「そうなのか。でも建物があったんだ。入口に海の月って書いてあった」
「う、海の月だと!」
驚いたブリューツは俺が指し示した方向を凝視する。
「なにもないではないか」
「さっきまであったんだって。それで海の月ってナニ?」
ブリューツは神妙な顔つきになった。
「親父がお祖父様から聞いたという話なんだが。別名、触手の館と言われている」
「なんだそりゃ」
「その館に迷い込んだ女は、屋敷の隅々から襲いかかってくる触手に絡み取られ、抵抗むなしく血を吸われてしまうのだ。助け出されたときには全身粘液だらけだったという」
俺は息を飲む。なんて恐ろしい話だ。
「保護された女は、血を吸ってほしいと呟きながら、夜な夜な出歩き、さらに人目をはばからず、脱衣癖までついてしまったというのだ。これは曾祖父様の時代に実際にあった話だ。被害にあった女は数知れないという」
俺は溜息を吐く。なんてエロい話だ。俺はさらなるエロ話を期待してブリューツに輝く視線を送るが。
「まぁ、しょせん昔話の屋敷だ。そんな屋敷を見てしまうなんて、康史は欲求不満なのか?」
ああ、欲求不満さ。でも、その話を知る前に、俺は触手の館を目撃したんだよな。あれ?
疑問で頭がいっぱいだけど、ブリューツに促されて先を急いだ。
そして、ついに夢の塊、希望の結晶、愛の具現化、煌めく終着点……我らが秘宝館へ辿り着いたのだった。




