111.水着 今度はプールで
ポラーベ以外の誘拐団は、全て人間だった。拘束し、ツバーシャの瞬間移動で街の自警団署へ引き渡す。
続いて、捕まっていた吸血魔たちは貴族街へ瞬間移動させた。ブリューツは彼らを自身の館の別館で休ませたいと言った。
今回の親玉であるソルンの居場所はわからなかったものの、絞め上げた誘拐団の一人が、ソルンが水晶通信で何者かと話しているのを聞いたという。話の中で『ナデシッコ公国』という名前があったそうだ。
「ナデシッコ公国。たしか王国の隣国だったな」
その国に行けばソルンがいるのかもしれない。それに吸血魔の王が言っていた。公国と手を組めば、吸血魔の国の暴走を止められるかもしれないと。
「行くとするか。ナデシッコ公国」
「そうね。悪者は地の果てまで追いかけましょう」
深沙央さんは頷いた。そこへブリューツが話しかけてくる。
「お前たち、ナデシッコ公国に行くつもりなのか」
「そう思っているけど。でも俺たち王国以外に行ったことがないんだ。国境って越えられるのか?」
ブリューツは少し思案にふけると
「今日は休んでいけ。明日にでも秘宝のあるところに案内する」
「秘宝のありかを知っているのか」
「もちろんだ。死んだ曾祖父様がおっしゃっていたそうだ。それにオレ様はろくな礼もせずに、お前たちを見逃がす男ではないぞ。我が家の迎賓館に泊まっていけ」
ツバーシャを見ると、うつらうつらと、今にも眠気で倒れそうだった。俺と手をつないでいたから幼児退行こそしていないものの、今日だけで大勢の吸血魔と誘拐団を瞬間移動させたんだもんな。
ついにツバーシャは俺の背中にもたれかかって、そのままズルズルと落下して眠ってしまった。これでは王都に帰れない。
「じゃあ、お言葉に甘えて、泊めてもらうよ」
「ああ。歓迎してやる。執事たちよ、宴の準備だ」
俺たちは豪華な食事と部屋でもてなされた。
翌朝。朝食のあとでブリューツに案内された場所は
「プールだと!」
この世界にもプールがあったのか。プール自体はレンガで作られて、プールサイドの床は木材で出来ているものの、基本的なデザインは変わらない。どこの世界でも考えることは一緒なのだろうか。
「どうしてプールが?」
「プール? ここは我が鉱山や工場で働く者に向けて作られた保養施設なのだ」
へぇ。よく見れば滑り台がある。滑り落ちればプールに入れるように位置取りされていた。ウォータースライダーほどではないものの、十分楽しめそうだ。
プールサイドの奥には喫茶スペースもある。
「康史、午前中は遊んで行け。瞬間移動が出来るのであれば、急いで帰る必要もあるまい」
そうだな。今朝、ツバーシャは朝食を取らずに二度寝してしまった。あの様子じゃ昼過ぎまで寝ていそうだ。
「康史君……」
呼びかけられて、振り向けば。
「おおおうっ」
プールサイドには水着になった深沙央さんたちがいた。
「どうかな? こういうの好き?」
深沙央さんは淡いピンクのビキニを纏っていた。ボトムはミニスカート風。可愛らしくもあり、しかしその身体は色気あふれるオトナボディ。良い所どりを顕現させている。
素晴らしすぎMAX。そんな彼女の彼氏は俺。生きていて良かった。
「そんなに見られると照れるんだけどなぁ」
照れているのに逃げようともせず、俺の言葉と反応を待っている深沙央さん。よく見れば海で着ていた水着に比べると、胸を隠している布の上下幅が1~2センチほど短くなっている。これは俺との距離感が縮まった証なのか。
さらに胸を見惚れているというのに、逃げない。怒らない。大好きが詰まった彼女の顔を見つめてみる。微笑み返される。俺は今、幸せで出来ている!
さて、今回も水着の解説を、と思ったら、我が目がお隣のお姉さんに吸いついた。
「康史さん……」
メグさんだ。メグさんのビキニは夏らしく南国の花柄。腰にはパレオを巻いていて、お姉さんらしさを演出している。
問題はトップだ。海に行ったとき以上に、トップが胸に食い込んでいる。まるで胸が荒縄で縛りあげられているようで、イケナイ妄想が脳内に飛来した。メグさん、もしかして胸が成長していませんか。
「一番大きなサイズがこれしかなかったんです。なんだか自分が恥ずかしい」
いいんです。それで。社会的に必要だと思います。耳を澄ませば大きな胸元から声が聞こえてくるような気がした。苦しい、助けて、と。
よしよし。俺がビキニから解放してあげよう。救出作戦開始だ。そのときだった。
「お姉さま、さっそく水に浸かりましょう」
深沙央さんの手を取ったのはポコリナだった。黒のタンキニ。背中には聖剣。
「こんな時でも武装してるのかよ」
「当然です。これはお姉さまから託された愛の証ですから」
「ふぅん」
「それにしても少年。明らかにお姉さまたちを見る時と、私を見る時では、瞳の輝度に大差がありますね。どういう事ですか」
「俺、タンキニって嫌いなんだ。露出したくないのなら水着を着るなよ」
「なんですか、それ! 何を着ようと私の勝手です。ご自分の趣味趣向で私の水着に介入しないでくださいよ」
さてと、次は誰かな。あ、シーカだ。
シーカは紺のフリルビキニだ。ヒラヒラが胸元で揺らめいている。猫ってさ、ヒラヒラしている物に手を伸ばすよね。俺も手を伸ばしていいかな。
「康史様、その、そんな目で見ないでください」
わぁ、怒られたぁ。でも言葉とは裏腹に、羞恥の混じった消え入りそうな声で言われたものだから、こちらとしてはアブナイ感情が沸点を超える。しかし、俺は紳士だ。優しくしてあげるよ。
そのときだった。俺の第六感が良いモノの存在を知らせたのは。
「マーヤさん! その姿は!」
今回も、やってきました。旧スクール水着。しかも白!
ああ。水に入ると透けそうだ。希望の未来をもたらしてくれる希望の水着だ。
マーヤは顔を赤らめると胸元を隠した。おやおや、隠すのは胸元だけでいいのかい? なんなら俺の手で隠すのを手伝ってあげても良いんだよ。
「康史様。イヤラシイ顔になってます。いい加減にして下さい」
シーカがマーヤの前に立ちふさがる。
「説教してくれるのか。水着で。顔が赤いままで。本当は俺の前に立つのが恥ずかしいんだろう。仲間を助けるために頑張りおって。だけどな、俺にとってはシーカも目の保養の対象なんだよ。生まれてきてくれてありがとう」
「え、あ、ひゃうううう」
羞恥の限界だったのかシーカが走って行ってしまった。マーヤも追う様にして俺の前から去っていく。二人とも必死だ。追いかけたくなっちゃうなぁ。
するとポコリナが無言で近づいてきて、俺を担ぎあげた。
え? どこへ連れていく気なの? まさか。
「やめろ。俺はまだ水着に着替えていないぞ!」
ポコリナはなんの罪もない少年をプールに投げいれたのだった。




