110.想いは凍てつかず、炎のように
一階の敵は全滅。地下一階に向かうとホッキョクグマの吸血魔がいた。
「ソルン様の不在時に乗り込んでくるとは。何者ぞ!」
コイツがここのボスか。どうやら純血党の党首はいないようだ。
深沙央さんが敢然と仁王立ちして、名乗りを上げる。
「私は勇者。ここに捕まっている善良な吸血魔を取り返しに来たわ」
「なにが善良ぞ。ここで幽閉している者どもは、吸血魔でありながら人間の国で生き、ましてや人間と交わろうとしている邪悪な心の持ち主。我ら純血党が性根を矯正してやろうとしているのだぞ」
「大きなお世話。どこで生きようが、誰と結ばれようが、その幸せは本人が決めることよ」
「しょせん人間程度では理解できないぞ。純血党副党首、ポラーベ、参るぞ!」
辺りに冷気が立ち込める。ポラーベが両手に氷の太刀を纏わせた。
深沙央さんはアイテムバッグから太陽の剣を引き抜く。氷には灼熱ってわけか。
「私も行きますよ」
ポコリナと深沙央さんによる息の合った師弟剣撃。これをポラーベは両手の氷剣で捌いていく。
「やるぞなっ。しかも我が氷剣でも凍てつかぬ刀剣とは。恐れいったり」
「言いなさい。ソルンはどこにいるの?」
「知っているのは偉大なるソルン様のみぞ」
「偉そうなのに知らないんですか。だったら、さっさと倒されて、誘拐した吸血魔を返して下さいよ!」
ポラーベは深沙央さんの一撃を喰らい、うしろに仰け反った。
「隙あり僥倖隙だらけ! 一瞬の勝機を見逃さない私が、今、葬ります!」
ポコリナは追撃を仕掛ける。だが、バランスを崩した。
いつのまにか床全体に霜が降りていて、ポコリナは足を滑らせたのだ。ポラーベの氷剣がもたらした冷気が原因だ。
「わざと隙を見せた事に気付かなかったぞ? 斬り裂いてくれる!」
凍気を放つ氷剣がポコリナに迫る。
「危ない!」
深沙央さんがポコリナの前に立ち、その身で氷剣の楯となった。
聖式魔鎧装に大きな傷が入り、そこから氷が広がって行く。
「深沙央さん!」
「お姉さま!」
氷は増殖を続けている。
「聖式魔鎧装は冷気を通さないわ。でも、こうなってしまうと身動きが取れないわね」
鎧を蝕む氷は、ついに氷柱になり、深沙央さんを飲み込んでしまった。
「さて、一気に仕留めてやろうぞ! 氷雪よ。生を凍て殺す冷刃となって死の域を作りあげよ! ソウルエンドブリザード!」
ポラーベを中心に白い竜巻が発生。部屋の気温がみるみる下がり、俺たちは猛吹雪に呑み込まれた。
寒い。さらに雪と氷を含んだ強風が俺たちの体温を奪っていく。みんな、思うように動けない。
「こ、氷には炎だ。ブリューツの魔法で何とかならないか」
ブリューツの火炎魔法なら。でも返事がない。
見れば猫みたいに丸まって動かなくなっていた。
「こんなところで寝るな! 死ぬぞ。脂肪を燃やせ。お前の領民はどうなるんだ! 深沙央さんを助けてくれ!」
「うう。そうだ。領民だ。このような冷たい扱いを受けて、死ぬオレ様じゃない!」
ブリューツは立ち上がると火炎魔法を放った。
「我が領民と友を傷つける敵を焼き尽くせ! ファイヤーボール!」
吹雪の中、複数の火の玉がポラーベに向かっていく。でも、やっぱり小さな金魚みたいな炎が、チョロチョロと浮かぶように進んでいくだけだった。
ポラーベが高笑う。
「なんだ、その魔法は。オマエたちなんぞ、さっさと凍死させて、さらってきた者どもを研究所へ配達せねばぞ」
「あの娘を、我が領民を、物のように扱うな!」
消え行きそうだった火の玉は一気に燃え上がり、大きな火炎球となってポラーベに襲いかかった。今だ! 俺は駆ける。
「なんぞ。こんなもの!」
ポラーベは氷剣で火炎球を切り払う。切断された火炎は火の粉となって舞いあがり、俺の聖剣に接触。大きな炎の剣となった。
「くらえ!」
「こしゃくなぁ!」
袈裟斬り。炎の聖剣がポラーベを焼き切る。さらに勢いつけて、深沙央さんを閉じ込めている氷柱を斬る!
氷は崩れ落ち、深沙央さんが復活した。
「ようやく解放されたわ。春を待っていたカエルって、こんな気分なのかしら」
「お、おのれぇ」
ダメージを負ったポラーベは、もはや氷の魔法を維持できず、部屋からは吹雪が消えていた。意気消沈したポコリナがやって来る。
「お姉さま。申し訳ありません。私の勇み足のせいで……」
「いいわ。お礼をすべきはアイツだもの」
ポラーベを睨みつける深沙央さんに、ポコリナは聖剣を差しだした。
「では、これをお使い下さい」
「その聖剣を持つのも久しぶりね。そうさせてもらうわ」
深沙央さんが聖剣を手にすると、聖式魔鎧装は真の姿を見せつける。
いつもは銀と紫の鎧が、真っ白な鎧へと変化。各所の装飾が施され、白のスカート、マントが追加される。まるで穢れなき純白のウェディングドレスだ。
「あれ? この前は金色だったよね」
俺が問いかけると
「この姿は本来の聖剣で変身した場合の、いわば元祖・真の姿よ。康史君の聖剣で変身すると強化された真の姿になるみたい」
なるほど。プラモデルでよくある色違いバージョンみたいなものかな。今の姿は花嫁衣装みたいでキレイだ。
深沙央さんはポラーベに向き直った。
「さてと、名乗らなきゃ。天と海を貫く満開の愛の剣! 聖剣ソードダンサー・元祖! それ、すなわちバージンフォーム! みんなの想い、受理!」
ポコリナの聖剣、太陽の剣を構えた深沙央さんはポラーベに迫った。
「な、なんなんぞ。オマエは!」
「私は人間と吸血魔が手を取りあえる世界を作りに来た勇者。それを邪魔する者は、何人たりとも容赦はしないわ」
慌てたポラーベは氷の床に足を取られて転倒。自分で作った氷で転ぶようでは、勝敗は決まったも同然だ。
「両腕限定1500倍速×聖と陽の二刀流=招来悪人断末魔!」
「シんロぁクンマァァァ!」
ポラーベは細切れにされ、きめ細かな灰塵と化して散っていった。
地下二階に続く階段なんて物はなく、床の一部をひっぺ返すと、下階へと続くハシゴが現れた。
はしごを下りれば、八畳ほどの部屋に多くの吸血魔が捕らわれていた。
俺が助けに来たことを告げると、みんな安堵の表情を見せてくれた。
「ぐあっ、痛あっ」
なんの肉が落ちてきたかと思えば、ブリューツだった。
「これだからハシゴは嫌いなんだ!」
「腹が出すぎて、うまく降りられなかったか。上で待っていればいいのに」
「その声はブリューツ様?」
捕らわれていた吸血魔の中から、一人の女性が現れた。
「ブリューツ様。助けに来てくださったのですね」
「当然だ。ウローナ。無事でよかった。遅くなって、すまないな」
「いいえ。ブリューツ様は他国で迫害されていた私を助けてくれました。そして今日も、また。再びお会いできて嬉しいです!」
女性はブリューツに飛び付き、涙を流して喜んでいた。
なんだ。お見合いなんて必要ないじゃんかよ。




