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109.俺 彼女のことを改めて怖いと思った

 詳しい話を聞いた。数ヶ月前から吸血魔を頭目とした盗賊が、鉱山や山奥の工場の近辺に出没。吸血魔をさらうようになった。


 ブリューツの父である領主が私兵を投入して奪還を試みたものの、頭目である吸血魔はとても強く、返り討ちにあってしまったのだという。


 吸血魔が人間を使って吸血魔を誘拐するなんて、奇妙な話だ。

 吸血魔の誘拐はなおも続いていて、被害者は増えるばかり。

 送りこんだスパイの調べだと、頭目の吸血魔の名はソルンというらしい。


「その名前は、吸血魔純血党の党首の名です!」


 マーヤは緊張の声をあげる。

 吸血魔純血党。それは人間と吸血魔の恋人同士を、あらゆる手で引き裂くカルト集団。

 友人の女の子も、吸血魔との恋仲を最悪な形で引き裂かれてしまった。


 ロジテクス領で働く吸血魔たちも、人間と仲が良かったはずだ。それが理由で純血党から狙われたんだろうか。


「ほかにスパイからの情報はあるのか?」

「いえ、その情報を最後に連絡が途絶えました。おそらくは、もう……」


 エルダーは悔しそうに顔を歪ませた。


「だったら乗り込んで、さらわれた人たちを助けだしましょう」


 深沙央さんが言う。冷静な口調の中に、明らかな怒りを感じた。


「まずは私に行かせてください」


 マーヤだった。


「吸血魔純血党。許せはしませんから」

「一人で? 大丈夫か」

「こう見えても、普通の吸血魔より強いつもりです」


 一人茂みを抜けて、建物の前まで歩くマーヤ。あっという間に見張りの男たちに囲まれてしまう。


「なんだ? この女は」

「ここに多くの吸血魔が捕らわれていると聞き及びました。返していただきたいのです」

「ああん?」


 すると別の男が計器のようなモノを持って近づいていった。


「この女は吸血魔だぞ」


 それを見たマーヤは頷いた。


「なるほど。感知系のマジックアイテムですか。それで人間の姿をした吸血魔を選別し、誘拐に至ったのですね。もう一度警告します。さらった吸血魔を返しなさい」


「そうか。仲間を取り返しに来たってワケかよ。吸血魔をいたぶれるのは、中の連中ばかり。オレも吸血魔と遊びたいと思ってたんだ。よく来たな嬢ちゃん。相手してくれよ」


 男たちの手がマーヤに伸びる。


「私は貴族の女。遊ぶとあれば、高くつきます」


 マーヤの目が鋭い殺意を帯びたかと思うと、その身体は無数の真珠貝に覆われた化け物へと変貌した。吸血魔であるマーヤは人間体と獣人態、ふたつの姿を持っている。


「真珠よ。我が眼前に紅の海をもたらせ。パールボム!」


 マーヤの体表の真珠貝が一斉に真珠爆弾を放出。あたりは赤い爆炎と男たちの悲鳴に包まれた。騒ぎを聞きつけて、裏からも男たちが押し寄せてきた。


「これで少しは怒りが収まりました。ここは私に任せて、みなさんは突入を」


 さすが吸血魔三大伯爵の一人だ。


「私もここで戦うわ。行って、康史」


 ツバーシャがマーヤの援護に向かった。俺たちは建物の入口へ走る。

 丁度良く、中から扉が開いた。男が顔をのぞかせる。


「うるせぇな。なにが起きていやがる。あ?」


 男からは、先頭に立つ深沙央さんしか見えていないようだ。


「女ぁ? 誰だ、娼婦なんて呼んだのは。まぁ、いいか。ちょうど吸血魔の女の悲鳴は聞き飽きていたところだ。誰の注文か分からねえが、まずはオレを楽しませろよ」


「なるほど。ずいぶん吸血魔の子に悪い事をしてきたみたいね。じゃあ、もう、この手はいらないわね」


 深沙央さんは右手で男の手首を掴むと、左手と右手で交互に捻りかえ、男の手首を三回転させた。


「うぎゃあああ。イテぇェェぇ!」


 男は涙と脂汗を撒き散らして、床に倒れこむ。


「あら、この人ったらお仕事中に寝ちゃったわ。案内してもらおうかと思ったのに、失礼ね。私たちで勝手に入っちゃいましょう」


 深沙央さんは床で転げ回る男を踏みつけて、侵入していく。

 シーカ、メグさんも同様だ。ポコリナは股間を踏みつけて男にトドメを与えていた。

 ブリューツがポツリと言う。


「康史のところの女たち、怖いな」

「ああ。改めて怖いと思った」

「ブリューツ様」


 執事兄弟が揃ってブリューツの前にひざまずく。エルダーは言った。


「ここから先、我ら兄弟、しばし主の前を離れることをお許しください」

「許可する。存分に真価を発揮せよ。我が領民を取り返せ!」

「ははっ!」


 兄弟は深沙央さんたちを追っていく。俺もアジトに突入だ。



「侵入者だ。ポラーベさんのネズミ兵を呼んで来い。早く!」

「なんだコイツら。ロジテクスのところの私兵なのか」

「もっと人を集めろ。私兵や冒険者の強さじゃない。特に鎧の女は、バケモ……ぎゅへぁ!」


 深沙央さんが群がる男たちを殴りとばす。深沙央さんは既に聖式魔鎧装ソードダンサーを纏っていた。


「こうしてお姉さまと戦うのは久しぶりですね。興奮します」


 ポコリナは聖剣を振り回し、押し寄せる男たちを切り払っていく。


「腕は鈍っていないようね、ポコリナ」

「当然です。お姉さまと離れてからというもの、世直しの旅を続けていましたから。さぁ悪者ども。お姉さまと戦いたくば、このラグナちゃんを倒してから行ってください!」


 ポコリナが通過したあとは重症者による血の道が出来上がっていた。


「お姉さまとの共闘で上機嫌な私に感謝するのですよ。今日は峰打ちにしておいてあげますから」


 男たちは明らかに出血している。峰打ちとはなんぞや。

 そうこうしているうちに、ネズミ兵が現れた。吸血魔がボスというのは本当のようだ。


「ポコリナ、行くわよ」

「承知承認承諾です!」


 深沙央さんとポコリナの師弟コンビはネズミ兵を物ともせず、道を切り開いていく。

 物影から襲いかかる男たちは、シーカとエルダーの剣術コンビに成敗され、メグさんとヤングの先輩後輩コンビは、遠方から魔法攻撃で敵を迎え撃った。


「すごいな。俺もやってやるか。波津壌気・感知バージョン、アンド地形認識エディション!」


 魔力を放って、捕らわれた吸血魔の居場所、建物の構造を把握する。


「下に長い建物だな。分かったぞ。地下二階に大勢の吸血魔が固まってる。地下一階には強い吸血魔がいるぞ。多分、ここのボスだ」

「わかったわ」


 さてと、俺の出番はなさそうだ。転がった男たちは誰もが重傷。あとで死なない程度に治してやって、裁判にかけてやろう。それはそうと。


 振り向くと、ブリューツが息切れしながら走ってくる。その速度はお散歩中の幼稚園児に匹敵。


「ハァハァ、ゼェゼェ。康史、置いていくな」

「そんな体力で、よくアジトに乗り込む勇気が持てたな」

「領民がオレ様を待っているのだ。何もせずにいられるか!」


 こころざしは素晴らしいけど。来るなら早く来い。ブリューツは辛そうに、待ち構えていた俺の横を通り過ぎた。


「康史、うしろのヤツらは任せたぞ」


 へ? あ、新手がこっちにやって来てる。この野郎。敵を引き連れてきたな。

 俺はカブトムシの鎧を顕現して立ち向かった。


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