107.だから、もっと恥じらうんだ
謀ったなブリューツ!
「フハハハハ。ルールはオレ様が決めるのだ」
ブリューツはニタァっと、悪魔のほうがまだマシな笑みを浮かべた。
冷静になれ神山康史。こういうときは、これまで目撃したパンチラの回数を数えるんだ。
ピンク、ストライプ、純白、純白、ウサギさん、純白……
どうしてだ。興奮してきた!
さて、投票権を持っているのはメイド姿の女子たちだ。シーラ、スワロッテ、ポコリナ、そしてメイド女子が十名。計13名だ。
俺が執事兄弟に勝つには最低でも7票は必要。シーラ達3名は俺に投票してくれるだろう。そうなると残り4名か。どうやって、こちらに引き込むか。
ブリューツはニチャァっと、悪魔ですら嫌悪するような笑みを浮かべた。
「ちなみにシーラ、スワロッテ、ポコリナという娘たちには投票権を配っていない。オマエと仲が良さそうだったからな」
なんだと! ずるい! あとで、みんながいないところで殴ってやる!
そうなると有権者は10名。勝つには6票必要だ。ろくに話したことのない女子6人から、この場で支持を得なくちゃいけないなんて。
メイド女子たちは空気が読めずに硬直している。アイコンタクトで投票を呼び掛ける。あ、目を逸らされた。10人全員が執事兄弟を見つめだした。
どうしよう。女子でも読めそうなエッチな漫画を紹介するか。ダメだ。あの漫画は異世界に持ってきていない。
ブリューツが笑いを堪らえている。
「どうした康史。なんなら男の仲間を連れてきて、箱の前に立たせても良いんだぞ」
「俺を甘く見るな!」
さっそくツバーシャの瞬間移動で神山深沙央町に跳ぼう。あ、ダメだ。あの町にいる俺の男仲間はミイラとヤクザだけだ。
…………詰んだっ。
このままでは深沙央さんと深沙子が連れていかれてしまう。
これまでなのか。そう諦めかけたときだった。
「神山康史はいるか!」
やってきたのは王国軍のバラケッタ中尉だった。
「すまない。来客中だったか。失礼」
「別にいいよ。俺の敗北と孤独な将来に比べたら、マナーとか、どーでも」
そもそもブリューツは客じゃないし。
すると中尉は俺の横に来た。
「そうか。今日、私は休暇中なのだ」
「だから朝からガルナたちを待ち伏せしてたんだな。ふぅん」
興味が持てない。俺の未来は暗い。
「それでだな。見てほしいモノがあるのだ」
「なーにー」
「これだ」
中尉はアイテムバッグからワンピースを引っ張り出した。
白と茶色を基調としていて、フリルや茶色のリボンがそこかしこについている服だ。いかにも可愛い女の子のためのものだ。へぇ、リボンも二種類あるのか。
「これは私が作ったのだが」
「すごいな。洗濯が大変そうだ」
「それで、お願いがあるのだがな」
中尉はなぜか頬を赤らめて、俺から視線を逸らす。どうしたってんだ。
「実はな、この服は女体化した神山を想って作った物なのだ」
「はい?」
「ウチのメイドたちに着せてみたのだが、どうもしっくり来ない。やはりイメージした人物に来てもらわないと私は満足できないのだ」
「はぁ」
「そこで神山。女体化して、この服を着てくれ。きっと似合うと思うのだ!」
こんなときにナニ言っていやがる。こっちは彼女が取られる瀬戸際なのに。
さてはガルナたち問題児のせいでストレスが爆発したか。
俺は怒りで顔が真っ赤になりそうなのに、中尉ときたら乙女のように頬を紅潮させてモジモジしている。
「きっと似合うと思うのだ。私は女の姿の神山を忘れられない。なぜなら神山は逸材だから。一生懸命作った服だ。着てくれないだろうか」
こいつめ。目を潤ませるんじゃねぇ。今日は休暇だって? 一生仕事してろ。
するとメイド女子の一人が、ぽぅっとした虚ろな目でこちらにやってきた。
「恥じらっている中尉さんって、なんだか良い……」
そして、その子は俺と中尉の前にある投票箱に、投票権を入れたのだ。
「そうか! 中尉は王国軍の出世コースを行く金髪イケメンだったな。よし。女体化して服を着てやる。いくらでも。だから、もっと恥じらうんだ。中尉!」
「な、なにを言っているのだ神山。おかしなことを、その、言うなよ……」
「よく見たら可愛いじゃないか。服が。俺、こういうのを着たかった!」
「そうか。誉めてくれるか。可愛くなった神山も素晴らしかったぞ!」
他のメイド女子もフラフラとやってきた。
「照れてる中尉って可愛かったんだ。意外な発見かも」
「はしゃいじゃって。なんだか弱みを握った感じ」
「お裁縫が出来る男子って、好きかも」
投票箱に投票していく女子たち。この勝負、いけるか?
結果発表。
俺と中尉が五票。執事兄弟が五票だった。俺は肩を撫でおろす。
「どうにか同点に持ち込めたか」
「ふんっ。やはり執事が代理だと決着がつかなかったか。さて、次は何の勝負をしようか」
「いい加減、帰ってくれ。こんな勝負、いつまで続ける気だ」
「どちらかが勝つまでだ!」
どうすりゃいいんだ。誰もが呆れていた、そのとき。
「この勝負、まだついておりません!」
扉を開けて入って来たのは婆やだった。その手には投票権が握られている。
俺は思わずブリューツを見た。ブリューツは俺の視線を受けてエルダーを見た。
エルダーは言う。
「投票権はシーラさんたち三人を除いて、メイド全員に配るようお聞きしましたが?」
たしかに婆やもメイドだ。いや、正真正銘のメイドだ。
婆やは無言で俺の投票箱の前に立ち、投票権を箱に入れた。
「婆や……」
フッ、という表情を浮かべた婆やは、無言で部屋を去っていった。
カッコいいな、婆や!
そして婆やはすぐに戻って来て、ポコリナを掴んで部屋を去っていった。
「お茶の淹れかたなんて、どうでもいいです! 水を出せばいいじゃないですかぁぁ!」
ポコリナの泣きごとが廊下から響いてくる。よし、厄介者が一人減った。
投票箱の中を覗きこめば、六枚の投票権。すると
「6対5。勝った! 俺はブリューツに勝ったぞ!」
やっと勝てた。深沙央さんも嬉しそうだ。
「そんな! オレ様が負けただとぉ!」
ブリューツは悔しさのあまりか体を大きく仰け反らせ、上着のボタンとズボンのベルトを、激しく弾き飛ばすのだった。
勝負のあと、ブリューツは悪態をつきながら馬車に乗り込んでいった。
「これで勝ったと思うなよ。オレ様はいずれ、また、やってくる!」
「もう来ないでくれ、変態男」
ブリューツは下着姿だった。上着のボタンとズボンのベルトが弾けてしまったため、今は執事兄弟が、せっせとなおしている。
三人を乗せた馬車が敷地から出ていく。
「憶えていろよ。フハハハハ」
俺はすぐに忘れたいよ。うん、今すぐ忘れよう。
そのあとはドラゴンに頼んで女体化してもらい、中尉のお手製の服を着ることになった。
中尉のヤツ、アイテムバッグから何着も出しやがって。おかげで俺は着せ替え人形だ。
楽しそうな中尉。疲れ果てた俺。しばらくイケメンには会いたくない。
あっという間に夜になって、リエッカ嬢と婆やも御帰宅。
俺は男の体に戻り、我が屋敷に平穏が訪れたと思いきや。
「はい、康史。あ~ん、だぞ」
「うん。あ~ん」
夕食中のダイニング。俺はパティアにゴハンを食べさせてもらっている。
昼間、ブリューツを騙すためにパティアには子供役になってもらった。そのときパティアは、おままごとだと曲解していた。
おままごとは継続中らしく、今度は俺が子供役だ。
「美味しいか?」
「うん。ママ。おいちぃ」
視線を感じると、深沙央さんとメグさん、ツバーシャが羨ましそうに俺たちを見ていた。ああ、恥ずかちぃ。
「康史君。また康史郎になってくれないかしら。私、すごくお世話したい」
「私は今の康史さんでも、お食事の介助は出来ますよ」
「わ、私は興味ないし」
三者三様の反応。それを見ていたスワロッテはニンマリと笑った。
「幼児化して自分の彼女さんにお世話してもらおうなんて、お兄さんはエグいっスね」
せっかく厄介者に帰ってもらったのに、我が心、休まる暇ナシ。




