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106.今すぐ子供を作りましょう!

 三時間後、ブリューツは目覚めた。


「待たせたな皆の者。おん? さてはオマエたち、食事をしたな。オレ様の分はないのか」


 ないよ。ブリューツが気絶しているあいだ、お昼になったので、みんなで食べた。婆やと執事兄弟が作る料理はとても美味しかった。ごちそうさま。


「まぁいい。康史、決着をつけるぞ」

「さっき俺が勝っただろう。お前は気絶してたし」

「戦ってすらいないだろう。ゆえに戦いは無効だ。それにメイドから聞いたぞ。先ほどの二人の娘は、康史たちの子供ではないようだな。よくも騙しやがって」

「なに? お前なんかと口を聞くメイド女子がいたと言うのか」

「いや。メイドが執事にした話を、執事から聞いたのだ」


 話しちゃったの? 俺はメイド女子たちに抗議の視線を向ける。


「だってエルダーさんたち、カッコいいから。世間話していたら、つい」

「あの声が聞きたくて、話しちゃいました。ヤングくんとなら永遠にお喋りできます」

「お兄さんの話は面白いし、弟くんは誉めると照れるところが可愛いし」


 顔を赤らめるメイド女子たち。俺は怒っているんですが!


「そういうことだ、康史。二人の愛を証明するモノは無い。さぁ、深沙央を寄こせぇ!」


 くそっ。深沙央さんがブリューツの前に立つ。


「待って。愛の証ならあるわ。子供。子供よね。いるの。人見知りだから出てきてないだけで、私たちは子供がいるの」

「ほぅ。では会わせてもらおうか。証たる二人の子供に」

「……ちょっと、時間をくれるかしら。小一時間くらい」


 深沙央さんは俺の手を握ると廊下に出た。


「康史君。今すぐ子供を作りましょう!」

「ま、待ってくれ深沙央さん」


 小一時間じゃ子供は出来ないし。子供を作るとなると、えっとぉ、そのぉ、心の準備が。


「康史君。魔力をちょうだい」

「あう~。俺、がんばるよ。え? 魔力?」

「そうよ。康史君の魔力を借りて、速攻で子供サイズの分身を作るわ」


 ああ。そういうことですか。

 そこへ。


「康史。そろそろ私を大人にしてくれないかしら」

「いい所に来てくれたわツバーシャ。これで男の子も作れるわよ」


 キョトンとするツバーシャと俺。深沙央さんは勝ち誇った顔をしていた。



「お待たせしたわね。娘の深沙子と息子の康史郎よ」


 二人の子供を前にして、魂が抜けたように魂消るブリューツ。

 深沙央さんそっくりの女の子の深沙子。康史郎こと小さな俺。からくりは、こうだ。


 短時間で分身を作るため、俺は波津壌気で深沙央さんに魔力を送った。そして子供の身体をした、短時間で作られた深沙央さんの分身体が出来上がったのだ。それが深沙子。

 額には本物の強さに対する分身の強さ『1/300』と書いてある。深沙子は深沙央さんの300分に1の強さってことだ。


 そして俺。肉体年齢9歳のツバーシャの体内から、波津壌気・逆バージョンを使って若返り物質を吸収した。ツバーシャは19歳の肉体に戻り、俺は若返って6歳児になってしまった。


「深沙子は二人の愛の結晶よ」


 俺の魔力と深沙央さんの分身能力の結晶だな。


「ねぇブリューツ。二人とも私たち夫婦にそっくりでしょう」


 娘は深沙央さんの分身。息子は俺自身。そりゃ、そっくりでしょう。


「ぐなぁぁぁぁぁ!」


 ブリューツは錯乱し、ついにカバのような尻はズボンのベルトを引きちぎり、ズボンはあえなく自由落下したのだった。



 ブリューツは憔悴しきった様子だった。そんなに深沙央さんが気に入ったのかよ。


「ま、良い子だもんなぁ」


 そんな俺は6歳児のまま。

 以前、ツバーシャから若返り成分を吸収したときも子供になってしまった。そのときはルエリアさんに俺の体内の若返り物質を放出して、若返らせていたっけ。俺はすぐに16歳に戻れていた。

 でも今は若返らせる対象がいない。俺は10年分幼いまま。不便だ。ブリューツを黙らせるために、後先考えずに行動してしまった。


 高校生用の大きすぎる服を引きずりながら、宛てもなく屋敷を彷徨う。ブリューツはじきに帰るだろうし、町に出て、高齢の犬や猫を探してみるかな。そんなときだった。


「誰か来てください!」


 ポコリナの声が台所から聞こえてくる。

 行ってみると婆やが倒れていた。呼吸が荒い。ポコリナ達が心配そうに見守る。そこへリエッカ嬢が駆けつけてきた。


「しっかりして。お医者様を呼ぶわ」

「お嬢様、それには及びません。これは老衰によるもの。自然の摂理なのでございます」

「そんな。婆やには私の花嫁姿を見てほしかった。私の子供を抱いてほしかった。ともに子供を育ててほしかった。なのに……」

「それは贅沢でございますよ、お嬢様。お嬢様が赤子の頃から今に至るまで、御側にいる事が出来た。婆やは幸せでした。申し訳ない事といったら、使用人が余所様の屋敷で最期を迎える事。お嬢様の顔に泥を塗る事になってしまいました……」


 婆やの目が閉じていく。


「サヨナラでございます」

「いやぁぁ!」


 大変だ。俺はアイテムバッグから聖剣を取り出して走った。


「どいてくれ」

「あの、康史郎さん?」


 リエッカ嬢が不思議そうに見てくる。聖剣の力があれば子供の俺だって相応の魔力が放てるんだ。


「波津壌気! 若返りバージョン!」


 俺は16歳に戻り、婆やはお婆さんから、少し若いお婆さんに変化していった。しわの深さも少しは浅くなる。


「はて。私は一体。あら身体が軽い。腰の痛みも引いている?」

「婆や!」


 目を覚ましてくれた。リエッカ嬢は喜びのあまりか、婆やを抱きしめた。


「まさか康史様だったなんて」

「緊急事態だったから、本人の確認なしに10歳若返らせちゃったよ」

「私が若返った? たしかに力が漲ります。これなら、あと10年はお嬢様のお側にいられます」

「10年もあれば私は結婚して子供を産めるわ。ありがとうございます康史様」


 良かった良かった。みんなには康史郎の正体を口外しないよう約束してもらった。

 これでハッピーエンドだ。



「勝負だ。康史」


 深沙央さんやリエッカ嬢たちとお茶をしようと、リビングへやってきた。そしたら、まだ居た。ハッピーエンドよ、どこ行った。


「居座るつもりかブリューツ。お前はスーパーのイートインスペースから動かない近所の爺さんか」

「ワケがわからん。オレ様はまだ二人の仲を認めていないだけだ」


 お前は深沙央さんのお父さんか。俺は深沙央さんが認めた男なんだぞ。


「勝負はついたはずだ。帰れ帰れ」

「康史、お前は確かに彼女を愛し、強い男だという事は分かった。だが、周囲の信頼はどうかな?」

「なに?」

「仲間から信頼されていなければ、いずれ孤独になり、男は真価も出せなくなる。やがて仕事や栄誉も失うだろう。そんな人生に女を巻き込んでいいはずがない」

「当然だ。でも信頼なんて、どうやって測るんだ?」

「そう焦るな。エルダー!」


 執事のエルダーは俺とブリューツの前に細い台を置いた。台の上にはフタのない箱。中身もない。


「みなさんをお連れしました」


 ヤングがシーラ、スワロッテ、ポコリナ、メイド女子たちを連れてくる。

 ポコリナはやつれていた。婆やにしごかれたみたいだ。

 そういう婆やの姿が見えない。今ごろお茶の用意でもしているのかな? 


 リビングには婆やを除く全員が集合した事になる。


「何をするつもりだ?」

「説明してやろう。執事に命じ、メイドたちに投票権を配らせた。一人一票だ。メイドには、『もしも仕えるとしたら?』という趣旨の企画と説明してある」


 女子には勝負の本筋を隠しているのか。もしブリューツが勝ったら、深沙央さんは連れていかれてしまう。

 ここの女子は全員、深沙央さんのファンだ。深沙央さんが屋敷から離れてしまうような勝負に乗っかるはずがない。純粋に俺とブリューツの勝負事として投票させる気だ。


「つまり人気投票?」

「そう取ってもらっても構わん。もしオレ様の得票率が高ければ、お前を部下や仲間から信頼されていない男とみなし、女と子供はもらっていく」


 この勝負、受けなくちゃいけないのか? でもブリューツに仕えたい女子なんて、いるはずないか。


「いいぜ。受けてやるよ。そのかわり、俺が勝ったら出ていけよ」

「いいだろう。それでは始めようではないか」


 ブリューツは素早く後ろに下がった。そして箱の前には執事兄弟が立つ。


「さぁ、メイド衆よ。好みの男のほうへ投票しろ」

「待て。好みの男って? そもそも俺とお前の勝負だろ!」

「執事の実力は主人であるオレ様の実力だ。さぁさぁ、投票したヤツは箱の前の男と握手しても構わんぞ」


 投票権が握手権に変貌した。信頼度対決がイケメンコンテストにすり替わった。

 相手は美男な青年執事。頼れる兄と可愛い弟。

 片や俺は女子からの変態疑惑が晴れていない憐れな男子高校生。こんなの勝負は見えている。


 謀ったなブリューツ!


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