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101/164

101.暴走、そしてサヨナラすら言えずに

 問題は、すぐ、のあいだに俺が生きていればいいんだけどな。


「加勢するぞ。ポコリナが康史を殺すのを邪魔すりゃいいんだろ」

「注意を引きつけるのでしたら、私にも出来ます」

「深沙央様が戻ってくるまで、耐えきりましょう」


 アラクネ、メグさん、シーカが俺の横に立ってくれた。よし、時間を稼ぐぞ。


「お前たち、全員邪魔だ。お姉さまは私のモノだ」


 電撃、魔法、剣撃。それでもポコリナは止まらなかった。

 何度も剣を向けられ、俺は必死に聖剣で受け止めた。

 だけど痛い一撃を喰らって倒れこむ。カブトムシの鎧には大きな亀裂が入ってしまう。


 気付けば王が顔色を変えずに見下ろしていた。


「王、協力してくれ。ポコリナを止めてくれ」

「拘束魔法は得意ではないのだが。殺してはいけないのだろう」

「攻撃魔法でも足止めが出来ればいいんだ。あれ? 魔法が使えるのか? 詠唱できないんじゃ」

「僕は詠唱をしたことがないだけだ。魔法なら使える。マジックブラッディブレイド」


 無詠唱か。血のような赤い刀身の魔法剣が王の右手から出現した。

 それと同時に、あたりに強く、濃い魔力が広がった。まるで生きながら壁に埋め込まれたような重圧が周囲を支配する。


 アラクネとメグさんはもちろん、暴走中のポコリナまでも王を凝視した。


「康史たちの動きまで止まってしまったか。やはり僕の魔法は爺やの言うとおり、周囲の者に迷惑をかけるようだな。やめておこう」


 王の手から魔法剣が消える。


「な、なんだ。お前は!」


 ポコリナは空中に浮かぶと聖剣を構えた。


「危険な存在だ。ここで消えてもらう!」


 聖剣から光が溢れる。たしかポコリナの必殺技だ。

 聖剣から長大な光が伸び、俺たちへ向かって横一閃。斬撃に襲われる。


「ヘルズゲート」


 王が手をかざすと、目の前に巨大な門が出現して光の剣から守ってくれた。

 俺たちは無事だったけれど、門で守りきれなかった地面や後方の木々は、必殺剣の犠牲になってしまう。一本の木が折れて、倒れた。


「きゃあああ」


 この声は。倒れた大木の横にはマギがいた。ケガをしている。

 俺は駆けつける。


「巫蔵さん!」

「その声は神山君なの?」


 そういや鎧兜の姿だったな。


「どうして屋敷に残らなかったんだ」

「だって、心配で。思い出したの。記憶の中の最後の神山君は泣いていた。それが、すごく印象に残っていて。一人にさせておけないって」


 記憶の中の俺? そのとき。


「康史君!」


 深沙央さんが魔封石を持って戻ってきた。それを受けとる。


「私が何とかして止める。康史君は隙をついてポコリナを元に戻して」


 あたりを見渡す深沙央さん。


「これは全力で止めないとマズイはね。康史君、聖剣を貸して」


 聖剣には聖剣だな。強化形態の鎧なら吸血魔鎧装に対抗できるはずだ。


「それと分身たちを強制的に私の身体に戻すわ。幸い、あの子たちは戦場にいるワケではないし」

「そんなことしたら、マギは?」


 深沙央さんは分身をしている状態では全力が出せない。分身を消して全力でポコリナに挑む気だ。

 でも、マギは何回かの確率でしか現れない分身。次に分身しても、会える保証はない。


「町の人たちを守るためよ。この惨状はポコリナの聖剣によるモノよね。そんな攻撃が家や商店街のほうへ放たれたら……」


 見回せば、先ほどのポコリナの攻撃で地面は抉れ、緑は無残な姿に成り果てていた。

 マギを見る。状況を理解していない様子だった。マギとは別れたくない。聞きたいことが沢山ある。

 分身を維持しつつ、吸血魔鎧装に打ち勝つ方法はないものだろうか。


 ポコリナの聖剣が再び光を帯びだした。第二波が来るのか。


「悩んでいる時間はないようね」


 深沙央さんは聖剣を手にして駆け出した。


「分身体強制収容開始。聖剣ソードダンサー・ウェディングフォーム!」


 銀色の鎧が、赤と金の皇帝色に変化していく。深沙央さんの最強形態だ。

 同時にマギの身体が光の粒子に分解していく。分身が深沙央さんの身体に吸収される前の前兆だ。


「え? なにこれ? 神山君!」

「巫蔵さん!」


 手を伸ばす。何も言えないまま、マギは消えていった。

 くそうっ。俺は王に詰め寄る。


「魔封石は、どう使えば良いんだ」

「魔力を放ちながら、吸血魔鎧装の胸元に押し付けるのだ」

「わかったよ!」


 空中では聖式魔鎧装の深沙央さんと吸血魔鎧装のポコリナが聖剣をぶつけあっていた。

 力は互角なのか。隙なんて作る余裕はないぞ。

 深沙央さんはポコリナに語りかけた。


「いつものポコリナに戻って!」

「お姉さまを返せ。ずっと会いたかったのに、せっかく会えたのに、会えない苦しさから解放されたと思ったのに、どうしてお姉さまは私を見てくれない。私のことは、もういいのか! 役目は終わったのか! なんで苦しまなくちゃいけないんだ!」


 深沙央さんは必死の説得をしているけれど、その声は届かない。


「お姉さまは私の幸せの象徴だった。会えただけで嬉しかったのに。振り向いてくれないだけで、どうしてこんなに辛いんだ!」


 ポコリナの一撃を喰らい、深沙央さんは地表に墜落した。

 トドメとばかりにポコリナの聖剣が光を放つ。


「ヤバいぞ。王、また魔法の力でポコリナの注意を引きつけてくれ」

「引きつける? 魅了魔法や精神操作か。あれらは少し苦手なのだ」

「違うんだ。魔法の剣みたいに出すだけでいいんだ。このままじゃポコリナは大好きな人を殺してしまう。そうなったら鎧から解放しても自分を責め続けるだけだ」

「剣では空に届かないが?」

「だから、出すだけでいいんだよ! ポコリナは王にとっても大事な人だろ。王の魔法があれば助けられるんだ」


 すると王はハッとした様子で、空中のポコリナを凝視した。


「わかったぞ。客人と吸血魔鎧装の装着者は同一人物なんだ。気付いている者がどれだけいるか見当もつかないが、僕は気付いた。よし。客人の注意を逸らす!」


 王は空へ手をかざす。


「この魔法は僕の得意分野だ。客人が興味を持ってくれればいいが。デモンズファイア!」


 巨大な火球が突如出現。凄まじい熱気に身体が押される。火球は高速で上昇し、空中のポコリナをかすめると、さらに上昇して大爆発を引き起こした。

 雲が吹きとび、空が爆炎で覆われ、震動が伝わってくる。遠くに見える家々も揺れている。まるで震源地が空である地震だ。続いて上昇気流が発生した。

 狂風の中でポコリナは硬直していた。唖然としているに違いない。


 王が確認するかのような視線を向けてくる。たしかに相手の注意はそれたけど、やりすぎだ!


「それでも感謝するぞ、王!」


 吹き荒れる上昇気流。好都合だ。カブトムシの鎧で強化された全力ジャンプなら。


「康史、来い!」


 アラクネが魔鉄槌を構えていた。そうか! 

 俺は魔鉄槌を踏み台にするとアラクネは振り切った。俺は空に押し出される形でポコリナに接近する。

 気付いたポコリナは聖剣から光を滾らせる。ここで攻撃されたら撃ち落とされる。


「間にあえぇぇぇ!」


 右手の魔封石に全魔力を送りこむ。思いきり、吸血魔鎧装の胸元に押しつけた。


 そのとき、目の前に広がる不思議な光景。これは記憶? 俺のモノなのか?


 次の瞬間には落下していくポコリナの姿があった。吸血魔鎧装は魔装束に戻り、ポコリナは気を失っている。生身のまま墜落したら命の保証はない。頼む。目を覚ましてくれ。


「起きろ! 落ちてるぞ。あ! 俺もだ!」


 魔力の枯渇なのか、鎧は解除されている。このまま墜落したら死ぬ。頼む。誰か助けて。


「ポコリナ! 康史君!」


 鎧姿の深沙央さんが空中で俺たちを受け止めてくれた。空を飛べる彼女を持って、俺は幸せ者だよ。


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