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100.アイツ 変なクスリを使っておかしくなる

 あぶないっ! 

 聖剣が降り下ろされる。

衝突した先は俺の聖剣だ。危ういところで駆けつけることができた。


「選手交代だ」

「お前はさっきの男か」


 アブラヘイムがうしろに跳ぶ。


「その目。戦う男の眼差し。先ほどは戦いと無縁と言ってしまい、悪かったな」

「無縁でいたいんだけど、無視は出来ないんだ。それに俺はここの町長。町民がやられるのを黙認できない」

「その若さで町長か。面白い」

「町長なら、ここにもいるわ」


 深沙央さんだ。それにアラクネもいる。騒ぎを聞きつけて、町の調査から駆けつけてくれたみたいだ。


「暗黒鮫のシャークマンを倒したのは私よ。相手にするには御不満かしら」

「シャークマン。暗黒鮫最強と言われた鉄砲玉はお前に倒されたのか。最強を目指すオレにとって不足なし。是非戦ってもらおう」


 深沙央さんは鎧を纏った。聖式魔鎧装ソードダンサーだ。


「ひとつ教えて。最強になったらどうする気? 世界征服? それとも人間の血を飲み尽くすのかしら」


「弱者の上に立つことなど、興味の欠片もない。人間の血なんぞ最強には不要。生まれてこのかた、啜ったこともない!」


「それを聞いて安心したわ。格闘家として戦いましょう。私は巫蔵深沙央。この夏、彼氏が出来た女子高生!」


 アブラヘイムは聖剣を捨てた。


「俺の武器はこの拳。神拳のアブラヘイム、行くぞぉ!」


 両者ともに、一切の無駄のない動きで接近。拳と拳が交わる。


「たいしたモノだな。奥義を使う。連続正拳突き!」

「なんの。950倍速×連続パンチ=連式・五臓六腑強制液状化拳!」


 拳と拳がぶつかり合い、拡散する打撃音が腹に響いてくる。

 俺はアラクネとともにポコリナを立たせようとした。


「大丈夫か?」


 ところがポコリナはアブラヘイムが捨てた聖剣へ、すがりつくように走りこんだ。


「お……お姉さまに必要なのは私なんです! 私が強いことを証明しなくちゃ、いけないんです。なのに、なんで……」


 泣いていた。歯を噛みしめ、自分への怒りのぶんだけ涙が溢れているようだった。

 弱い自分を呪うこと、俺だって気持ちは分かる。


 深沙央さんに目を向けると、拳を突き出し、払われ、相手の蹴りを寸分で避け、組み伏せられたと思えば組み返し……とても加勢できる次元ではなかった。


 コトンっ。


 何かが落ちる音に振り向けば、ポコリナの足下には瓶ボトルがあった。瓶の内側に残った毒々しい液体。尋常ではない顔色のポコリナ。

 すぐに分かった。朝、アラクネが作っていた怪しい液体だ。


「飲んだっていうのか。アラクネ、捨てていなかったのか?」


「試しにゴキブリに一滴垂らしたら即死したんだ。それを見ていたエリットが殺虫剤に丁度いいからって物置にしまっていたな。もしかして、それを持ちだしやがったのか」


 ポコリナの目は赤く、呼吸は荒い。前後にふらつき始める。吐きだせ。

そう言おうとした矢先。


 気配が変わったかと思うと、一瞬でアブラヘイムへ迫った。


「私は強いんです」

「ガハァ!」


 聖剣でアブラヘイムの脇腹に斬りこんだのだ。


「不意打ちとはいえ、見えなかっただと。このオレが」


 倒れるアブラヘイム。

 ポコリナは虚ろな目で、苦しむ相手を聖剣で刺し続けた。


「私は強いんです。ほら。ほら。お姉さまの敵はみんな私がやっつけてあげます」


急に強くなっている。あれがアラクネの薬の効果か。でも、言動が尋常ではない。


「やめなさいポコリナ!」


 深沙央さんは制止するがポコリナは止まらない。刺し続けていく。透明だった刀身が返り血で赤く染まっていった。

 わずかながらにも抵抗を続けていたアブラヘイムは、ついに動かなくなってしまった。


 ポコリナは深沙央さんに突き飛ばされた。


「お姉さま、どうして? 私はただ……」


「アブラヘイムは支配欲も吸血欲もない善良な吸血魔よ。純粋に強さを求めていただけ。こんなことしてはいけないわ。康史君、お願い」


「ああ。間にあってくれよ」


 波津壌気でアブラヘイムの回復を試みる。コイツは強いからなら、なんとか助けられるはずだ。


「なんで? どうして? ああ、そうか。あの少年がお姉さまを変えてしまったのですね。じゃあ一緒に私の世界に帰りましょう」


「いい加減にして。私は私よ。これ以上おかしなことを言うのなら、ポコリナ、聖剣を返して」


「そんな、これは私とお姉さまの愛の証。ダメです。そんな、そんなぁぁ!」


 絶叫。魔装束が生き物のように、うねる。跳躍。

 ポコリナは空中に留まると、魔装束は鎧に変化していった。


 そこへシーカ、メグさんが駆けつけてくる。


「アニキさんから事情は聞きましたが、え! どういう状況ですか」


 驚くのも無理はない。俺が吸血魔を回復させていて、仲間であるポコリナが邪悪なオーラを発しているのだから。


「むっ。あれは吸血魔鎧装か」


 王、避難していなかったのか。思わず質問する。


「なんだよ、それ」

「魔装束の真の姿だ。力が強すぎて、身につけた者の多くは自我を喪失して暴れ回るという」


 とんでもない衣装を女の子に着せたもんだ。


「お姉さまは私のモノ。お姉さまは私のモノ。お姉さまを返せぇぇっ!」


 暴走したポコリナは俺たちに向かって急降下してきた。

 深沙央さんが立ちふさがる。


「しっかりしてポコリナ!」

「邪魔だ! お姉さまを返してもらう」


 お姉さま本人である深沙央さんが殴り飛ばされた。もう声も届かないのか。

 次にポコリナが狙いを定めたのが俺だった。そりゃ目の敵にされていたもんな。


 ポコリナが聖剣で斬りかかってくる。俺はカブトムシの鎧を顕現。身体強化して応戦する。

 俺の聖剣で吸血魔鎧装を攻撃したけれど、硬すぎて破壊できない。


「アラクネ。あの薬の解毒剤は無いのか」

「作ってない。普通の魔法薬なら一日くらいで効果がきれるはずだ」


 普通の薬には思えなかったけどな。


「王。鎧を解除する手段は?」

「あることにはある。魔王13秘宝のひとつ、魔封石だ」

「それってマーヤの記憶を封じていた宝石だろ」

「マーヤは記憶を封じられていたのか。一体誰がそんなことを」


 王は考えごとにふけってしまった。このあいだにもポコリナの俺に対する当たりが強くなっている。


「帰ってこい、王。魔封石がなんだって?」

「ああ。あれは記憶や力などを『封じる』事が出来るが『解放』も可能なのだ。両方が出来なければ、道具としての意味をなさないからな。暴走した鎧だろうと、装着者を『解放』することができる」

「魔封石があれば助けられるのね」


 深沙央さんがポコリナに体当たりを仕掛けた。ポコリナは何度も転げ回ったけれど、まったく意に介していない感じだ。


「屋敷まで取りに行ってくるわ」

「棚の上の箱の中だ」

「ありがとう。1000倍速×全力疾走=乙女弾丸超特急!」


 屋敷へ駆けていく深沙央さん。あの速さならすぐに戻って来てくれるだろう。

 問題は、すぐ、のあいだに俺が生きていればいいんだけどな!


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