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10.村娘強奪阻止せよ

 日も昇らぬ早朝。俺たちはネクスティ要塞に向けて出発した。馬車には深沙央さんのほかに猫のアラクネ、メグさん、そして今回はシーカも同行している。

 駐在所に残ったマーヤ達の世話はエリットが引き受けてくれた。

 シーカはライオラについて説明してくれた。


「ライオラは吸血魔の王の次点とされる三大伯爵の一人で、交戦派の武人です。吸血魔の使い魔とされるネズミ兵三百体程度でネクスティ要塞が落とされたのも、ライオラの戦闘力があってこそだと思われます」


 今度の敵は大幹部クラスってことだな。

 俺たちの人数は少ないが、要塞攻略は無理でも村一つくらいなら守れるはずだ。深沙央さんは強く言った。


「その伯爵ってのを倒して吸血魔の王を引きずりだす。そして倒してやる!」


 深沙央さん、妙に意気込んでるな。なんだかイラついているように感じるのは気のせいかな。




 馬車に揺られて、夜になり、また朝になって、太陽が傾き始めた頃、ようやくプリンカ村が見え始めた。様子がおかしい。近づいてみると全身が黒いネズミ人間のようなヤツらが村を襲っているのがわかった。


「あれが吸血魔の使い魔、ネズミ兵です。ネズミ兵を使役している吸血魔が必ずいます。みなさん油断しないでください!」


 シーカが注意を促す。

 みんなが馬車から飛び出して村に突入していった。俺は完全に出遅れた。むしろ深沙央さんたち、こういう状況に慣れているのか、行動が素早い。


 俺は馬車の中で武器になるものはないかと探す。


「そうだ。深沙央さんが用意してたんだった」


 俺は棺桶のような大きな箱を開けた。たくさんの槍、剣、弓矢。駐在所や村から集めた武器が入っているのだ。その中から一振りの剣を手に取る。


「おや、すごいものが入ってるね」


 猫のアラクネが箱の中を覗き込んでいた。前足で器用に引き寄せたのは魔杖だ。ニセ魔王が使っていた物を深沙央さんが回収して、それを持ってきたんだ。


「チュチュチュ、チュケー!」


 聞き慣れない声に、馬車の外へ目を向けるとネズミ兵が迫って来ていた。

 俺は慌てて剣を構える。馬車に乗りこまれたら面倒だ。外へ飛び出して迎撃しようと思ったけど、足が止まる。

 元の世界にいたときの俺はケンカなんてしたことがなかった。クソ勇者にすらボコされるほど弱い。そんな俺が剣を手にしたところで勝てるのか? 化け物の使い魔に。


「この杖はいいものだね。触れただけで力がみなぎる。きっと使用者の魔力を吸収、増幅、還元する構造になってるんだろうね。こりゃ有難い」


 アラクネが魔杖を撫でていた。お宝鑑定してる場合じゃないっての。


「チュチュチュ、オトコ、コロしてイイってイッテタ。コロースっ」

「やってみろや! チュウチュウチュウ、一人キス野郎が!」


 迫りくるネズミ兵に、俺は覚悟を決めて走った。背後から声がした。


「ああ、力がみなぎってくる。まるで日だまりの中で丸くなっているみたい。気持ちいいなぁ」


 アラクネ、まだ魔杖に夢中なのか。こっちは初めての戦いが始まろうとしているのに。


 そんなとき一瞬光った。全裸の女が俺を追い越し、馬車の外のネズミ兵を魔杖で殴って即倒させたのだ。

 アラクネが、再び魔王の姿を取り戻したのだった。


「この杖って便利だな」


 魔杖は魔王13秘宝と言われていたし、アラクネと相性がいいのかもしれない。そんなことより


「服を着ろ」




 馬車の中にあったボロ布を纏ったアラクネは俺とともに村に突入した。すぐにシーカとメグさんの姿が見えた。


「使い魔なら、私だって!」


 シーカは華麗な剣さばきでネズミ兵たちを斬り伏せていく。


「光よ、邪悪なるものに裁きの矢を。フラッシュアロー!」


 メグさんが魔法を繰り出し、ネズミ兵たちを射抜いていく。

 二人ともこんなに強かったんだな。

 ネズミ兵は倒されると霧散していった。まるで灰化した紙が風に吹かれて消えていくような感じだった。


 村の中を少し移動しただけで、新たなネズミ兵に出くわす。家の扉を蹴り破り、食べ物を勝手に喰い散らかし、逃げ遅れた人たちに襲いかかっている。

 そのたびにシーカやメグさんはネズミ兵を倒した。それにしても深沙央さんの姿が見えない。


「すでに村の中央にいると思います。そこに使い魔を率いている吸血魔がいるはずです」


 シーカに言われて俺は村の中心へ走った。途中、ネズミ兵に襲われそうになったものの、なんとかやり過ごす。そうして村の中心部にやってくるとヒツジ人間のような吸血魔がいた。


「ネズミ兵ども、食糧を奪い取れ。娘は捕まえて荷馬車に放りこめ。血を絞り取ってライオラ様の嗜好品にするのだ。邪魔する男は殺しても構わん」


 村の中心部では一台の馬車が停まっていた。そこではネズミ兵が捕えた女の子を無理やり馬車に乗せている。

 許すまじ。なんで俺はネズミなんかにビビってたんだ。今なら怖くない。ネズミを叩きのめすことで頭がいっぱいだ。


 俺が飛び出そうとしたとき、再び足が止まった。深沙央さんだ。深沙央さんは黙って吸血魔に近づいていった。


「なんだこの女は。自ら血を捧げに来たのか。ふふん、殊勝な心がけだ。お前は殺さずに血液生産の道具として生かしてやろう。ほかの女にも告げる。殺されたくない者は、このシープンの前に膝まづけ。そうすれば生かしておいてやる」

「いい加減にしなさいよ」

「なんか言ったか女。名前はなんという。ライオラ様に献上する前に味見くらいしておくか。待てよ、このシープンの血液奉仕者として飼いならすのも悪くあるまい」


 ヨダレが牙をつたって深沙央さんの足下に落ちた。

 そこへボロボロのネズミ兵がやってきた。


「チュチュぅ、村のミナミ側ハ、ソノ女にヨッテ、ゼンメツ、シタ」


 ネズミ兵は倒れて霧散した。

 驚いたシープンは深沙央さんを凝視した。


「セミテュラー! 制裁の鎧よ、顕現せよ!」


 深沙央さんは聖式魔鎧装を召喚装着するとともにシープンを殴りとばした。シープンは奥にあった納屋の壁を貫き、納屋は崩壊する。

 這い出してきたシープンの牙は全て折れていた。あれでは血は吸えない。


「何なんだこの力は。ただの冒険者や騎士ではない。何者だ」

「そういえば私の名前を聞いていたわね。私は巫蔵深沙央。この村を救いにきた勇者よ! 女の子は全員返してもらうわ!」


 シープンは周囲のネズミ兵に指示を出した。ネズミ兵が馬車の中から巨大な剣を担ぎだしてシープンへ差し出した。


「この剣はライオラ様から賜ったもの。逃げる人間が乗った馬車ごと真っ二つにする逸品だ。この剣で幾度もなく逃亡する人間を、その仲間や家族ごと切り刻んできた。いくらお前が強くても、このシープンの太刀筋の前では生きてはおれまい」

「そんな剣、世の中にあってはいけないわ」


 シープンは剣を手にすると薙ぎ払った。深沙央さんは右手をかざす。


「右腕限定四百倍速×全力手刀=万物断裂斬!」


 シープンの巨大な剣は、深沙央さんに触れる前に砕かれてしまった。折れたのではない。バラバラに散っていった。

たぶん、深沙央さんの繰り出した高速の右腕と、薙ぎ払われたシープンの巨大剣が重なって、剣のほうが負けたんだ。早すぎて見えなかったけど。


 何が起きたのか理解できないシープンに深沙央さんが言い放った。


「オマエとはもう喋れない。だって、ここで朽ち果てるんだもの」


 遠くから見ている俺ですら鳥肌が立つほどの怒りのこもった声だった。




 それから……シープンは村中のネズミ兵を呼び戻したり、必死の抵抗を見せたりしていたけど、怒った深沙央さんの前では無力だった。


 気がつけば村人やシーカ、メグさんが集まり、深沙央さんの制裁を見つめていた。

シープンは観衆の中で、死へ一歩ずつ近づいていく。あと二回ほど攻撃を喰らえばシープンは死ぬだろう。そんなタイミングでアラクネは深沙央さんを止めた。


「深沙央、それくらいにしときな」


 みんな、アラクネって勇気あるよなって思っただろうな。


「どうして止めるのよ。こんなヤツ生きてても」

「こんなヤツでも少しは役に立つんだよ。相手がバカなほど、こっちが頭を使えばいいんだ。ところで深沙央、アレを使っていいか?」

「アレを使うですって?」

「ちょっといいこと考えたんだ」


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