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廃核の海 〜ログアウトしたらゲームの魔族キャラのままでした〜  作者: 織雪ジッタ
こんな姿じゃ生きていけない
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9話 コチンダさん

ゲームの中のキャラクターの姿のままログアウト後の世界に出てきてしまったショウ。

ゲーム運営を名乗る男達の言うまま施設へ。



そこは脳内携帯とも言える『インプル』も全く使えない閉ざされた空間だった。



エアバニー警視正率いるイ特の調査も迫る中、美人看護婦の前で装備を解くとオムツ姿になってしまったショウだった。

真っ白な病棟の一室。



そこには、オムツの様に少し膨らんた下着にランニング姿をした筋肉隆々男が、赤い目を妖しく光らせながら心元なさそうに立っていた。



他でもないこの物語の主人公、他守ショウその人である。



目の前にいる看護婦は大きな瞳に少し人懐っこさを感じる年の頃20代前半の美しい人だった。



ショウ「か、看護婦様。。こ、これは一体??」



引きつった表情でショウは恐る恐る聞いた。



看護婦「AR機能の名残りです。大丈夫です。カッコイイですよっ!」



挿絵(By みてみん)



と、満面の笑顔で看護婦は言うが。。



ショウ:カッコイイわけないでしょう!!



と心で叫んでいた。



しかもこの下着、着ていると言うよりは皮膚の一部の様に一体化してしまっている。



言わばテクスチャーの様なものだ。



ショウ「そ、それでこれは着替えたり、その、外したり出来るのでしょうか。。。?」



看護婦「えっと下着をですか?」



ショウ「は、はい。。。」



気まずそうにそう言われると、看護婦はまた満面の笑顔で答える。



看護婦「それはちょっと。。。システムの仕様ですので今のところ不可能ですね(笑)」



と、ちょっと嬉しそうに言い放つのだ。



ショウ「じゃあ、トイレは?」



看護婦「行きたくなりません。」




ショウ:どういう事だよ!?



ショウ「いや、あの、出るものは出るでしょう?」



看護婦「出ません。」



ショウ「それ、大丈夫なんですか!?」



看護婦「全く問題ありません。」



ショウ:嘘だろ??



ショウ「それで。。いつ、元通りの体になって外せる様になりますか?」



看護婦「分かりません。大丈夫、カッコいいですよ!」



それを聞いたショウはショックで心の中で泣いた。



ショウ:チクショーーー!絶対に思ってないだろそれ!



看護婦「さぁ採血をしましょう!」



ショウの悲しみなど意にもかいしていない様子で、その看護婦は次にいそいそとゴムバンドをショウの右腕に巻き、そしてキラリと光る注射針を刺そうとする。。



しかし、針は一向に腕に刺さらない。



それどころか、下手に力を入れて刺そうとすると針は折れてしまう。



看護婦「うーん。内側も硬化しているんですね。。しかも弾力もある。。」



結局、いくら刺しても針を変えても刺さらないのを見て残念そうにしながら採血は諦めることになった。



看護婦「では、口の中の組織を採取しますね。」



と、今度は綿棒を取り出すとショウの口の中の唾液を取る。



そしてその綿棒を、何かの検査液に漬けたがそれも無反応。



看護婦「ダメですね。。。」



と、やはり少し悔しそうだ。



看護婦「では、検査機を使いますね。」



と、用意してきた下にキャスターのついた大きな装置に電極を差し込み、心電図を取るような粘着のパットを、ショウの『下着』のない、肌の部分にペタリとつけた。



そしてその大きな機械のモニターを見ながら何やら操作を始めた。



ウィィーーーン と言う音がして何かの検査が始まる。



すると、その機械のモニター見る看護婦の表情が変わった。



看護婦「こ、これは。。。まさか。。」



と、同時に看護婦のショウを見る目も明らかに変わった。



それは驚きと羨望せんぼうにも似た眼差しだ。



だが、ショウは訳が分からない。



ショウ「。。。あの、何かありました。。?」



看護婦「ごめんなさい。他守さん、私も初めて見ました。あなたは恐らく歴史上初のSSSトリプルエスランクの適合者です。」



看護婦「人類の救い主になるかも知れません。」



ショウ「え!?はぁ。。救い主? それは一体何のランクでしょうか? ゲームの話ですかね?」



看護婦「え?ゲーム。。。?いえ、違いますよ?」



ショウ「それじゃあ、一体。。。?」



看護婦はクスリと笑う。



看護婦「ナノマシーンの適合率です。」



ショウ:だからそれ何の話なんだよ!?



看護婦「詳しいことは先生から直接聞いて下さい。申し遅れましたが私、この施設の看護師の東風平コチンダと申します!」



そう言うと目を輝かせて東風平コチンダはショウの手を取ってショウの目を見つめた。



ショウ「こ、コチンダさん。。?」



ショウ:変わった名前よだなぁ。。外区の人だろうか?



東風平コチンダのさっきまでの業務的な対応とは明らかに違う情熱的な視線。



ショウは展開についていけずに、ただ困惑していた。



ショウ:いきなり何なんだよー!?



ショウ:それに。。か、顔が近い。。



ショウはそのシチュエーションに、頭の中が真っ白になり、まるで白いお花畑にいる様な錯覚を見た。



しばらく、いや一瞬だろうか?ショウは時間が止まった様な気がした。



しかし、自分の今の出で立ちを客観的に思い出してしまう。



ショウ:俺、そういえば今オムツ下着マンだった。。。



そしてハッとなって我に返った。



ショウ:カッコ悪ぅぅ!!!汗汗汗



するとどうだろう?



突然、白い病室に白い花が現れて、部屋一面に散りばめられたのだ。



東風平コチンダは突然現れたその光景を見て呆けたように



東風平コチンダ「。。。これが、現実を支配するとさえ言われるチカラ。。」



そしてハッとしたようにその瞳を潤ませて感嘆した。



東風平コチンダ「こんな事ができるなんて。。」



東風平コチンダ「他守さんは私の様な者たちの希望です。」



と感情を抑えられない様子で、ついには涙を浮かべながらショウに詰め寄ってきた。



ショウ「どうか、宜しくお願いします。」



ショウ「えっと、あ、はい。。。ありがとうございます。。」



何が何だか解らないショウはそう言うしかなかった。



すると次の一瞬、東風平コチンダは、さり気なく小声で



東風平コチンダ「金森先生には気を付けて下さい。。」



と、少し真顔でショウに伝えて、納得したかのように頷いてみせた。



そして、立ち上がると



東風平コチンダ「お花、勿体ないけどかたずけますね。」



と、少し部屋から出て行き、いかにも病院にありそうなシンプルなグレーのほうきと、ちり取りを持ってきて丁寧に掃除した。



ショウ「す、すいません。。散らかしてしままって。。」



と、申し訳なさそうにするショウに、東風平コチンダは笑顔で



東風平コチンダ「いえ、むしろ光栄です。」



と、さも機嫌良さそうにほうきで花を集め、30リットル程のゴミ袋に詰めた。



そして、東風平コチンダは「失礼しました」と深々と頭を下げて病室を出ていってしまった。



ショウは嬉しいような、ムズ痒いような、分けのわからないような、そんな気持ちでいっぱいのままその場に取り残された。



ショウ:ふ、不思議な人だったなぁ。。。



ショウ:コチンダさん。。どういうんだろ?何でもかんでも知っているみたいだけど。。?今度来たらもう少し話がしたいな。。



などと、ニヤけてボンヤリ物思いにふけっていると今度はアナトから連絡が来る。



アナト→ショウ:「応答出来るか?何かあったのか?」



東風平コチンダと違って、こちらは相変わらずの無愛想。。



少し驚いたが、ショウもすぐに返事を返す。



ショウ→アナト:「検診が来て何かの検査をされた。トリプルエスランクとか言われたけど。。何のことだろう。。?アナトはわかるのか?」



アナト→ショウ:「えっ!?。。。い、いや。。そうか。。いや、解らない。」



ショウ:ん?何か、今明らかに動揺したような。。?



ショウ→アナト:「あと、金森先生って人に気を付けてって言われた。。わかんないけど、その人アブナイ先生なのかも知れないな。。?」



アナト→ショウ:「金森?さあな?どうせ狂ったナノマシーン研究者共の一人だろう。私の知っている事を伝えておく。」



アナト→ショウ:「私の調査ではこの施設は83区の支援で運営されている。倒産したはずのサークルアンデッドがこっそり残っているのもその為だ。施設内では83区の思惑が渦巻いている。」



ショウ→アナト:「83区??何ですかいきなり?その国際テロ組織みたいな構図は?陰謀論?」



アナト→ショウ:「彼らは覚醒しなければ殆ど害のない程度のリミッター付きのナノマシーンをゲームにかこつけて、よその区であるこの81区で大量にばらまいていたのだ。そしてお前もばら撒かれたうちの一人だ。」



ショウ→アナト:「ちょっ。。。え?なんの話??」



ショウは苦笑いを浮かべながらどう答えて良いのか解らない様子。



アナト→ショウ:「いつの世も科学者や医者は己の探究欲の為に、権力者は己が集団の利益の為に平気で小さな命を踏みにじる。それは弱肉強食の調和を逸脱したものだ。」



ショウ→アナト:「アナト。。じゃあ、君もサークルアンデッドの被害者って事?」



アナト→ショウ:「さぁな。。ひとつ言える事はお前はもう人間ではないと言う事だ。」



ショウ→アナト:「に、人間じゃ。。。ない?」



アナト→ショウ:「そうだ。お前はナノマシーンに適合して進化した『人ならざるもの』と、言うことだ。」



ショウ→アナト:「じゃあ、アナトやコチンダさんもそのナノマシーンってやつに?」



アナト→ショウ「また後で連絡する。」



アナトがそう言うと、直接会話(SP)は途絶えた。



ショウ→アナト:え?いきなり?



シーンと静まりかえった病室。



時間は午後7時をまわっていた。



外の様子は全く解らないが恐らくもう暗いだろう。



何もない壁を見ながらショウは深くため息をつく。



その胸に『人間ではない』と言う言葉が深く突き刺さっていた。



すると、ガックリとするショウの耳元から



アナト「随分情けない格好だな。お前の趣味か?」



と、アナトの声。



ショウ「うわ!!い、いつの間に。。」



いつの間にか隣に座っていたアナト。



アナト「大きな声を出すな。この部屋には監視カメラは無いようなので少しお邪魔させて貰った。」



ショウ「お邪魔させてもらったって、い、一体どうやって?」



アナト「こうやって」



そう言うとアナトはヘビの姿にその身を変えた。



ショウ「。。。。」



ショウは唖然とする。



ショウ「君も十分人間じゃないと思うよ。。」



そしてアナトはまた再び少女の姿に戻る。



アナト「保健所の閉所時間が来たのでこっそり出てきたのだ。姿を変えれるといっても質量は変わらないのでここまで来るのはなかなか大変だったぞ。」



ショウ「それ、俺にも出来るのかな?嘘でも元の姿に戻りたいんだけど。。」



アナト「私を食らうか私が能力を移譲するかだな。正直移譲は勘弁してくれ。」



ショウ「く、食らうって。。え?」



ショウ:食われるより移譲が嫌なのか?



アナト「食らうと言っても一部でも血液でもいい。これ(メタモルフォーゼ)は基本能力なのでどの部位でも大丈夫だ。とは言え、食らう程度ではものにできるか分からないがな。」



ショウ:何言ってるのこの娘ー??



ショウ「すいません。食べるとかないです。。」



アナトは少し微笑んで



アナト「食わせる時は交換だぞ?」



と、ショウの目を覗き込んで言った。



ショウ:ヤバイ、やっぱアナトさんヤバイですー!



ショウ「あ、は、ハイ。。すいませんでした。」



あまりの常識の違いに東風平コチンダが恋しくなるショウであった。



そして丁度その頃、ショウの病室へ向かおうとする一人の男の姿があった。


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