8話 イ特
ゲームの中のキャラクターの姿のままログアウト後の世界に出てきてしまったショウ。
ゲーム運営を名乗る男達の言うまま施設へ。
そこは脳内携帯とも言える『インプル』も全く使えない閉ざされた空間だった。
ショウが施設へ入る頃、アナトとゲーム運営を名乗る男達、それらと時を同じくしてショウに迫ろうとするもう一つの勢力があった
氷河期により地球が全球凍結してから長い長い年月が流れ、その間に人類は幾度かの絶滅の危機を乗り越えてきた。
当初は世界中で10区程度の数で始まったカプセルはその後、増え続けて第1世代を経て今は第2世代。
第2世代が始まった時を境に暦もE.C.(アースセンチュリー)と改められ今はE.C.258年。
6年前、E.C.252年に大西洋にて初めて目撃されたイシュタラはその後、各地で頻繁に目撃されるようになる。
そして、E.C.255年に彼らは突然、人類に宣戦布告。
瞬く間に世界を圧倒した。
サークルアンデッドが倒産したのは、それから2年後の去年の事だ。
それと時を同じくして81区の警察にイシュタラ対策部が結成された。
名をイシュタラ対策部特殊捜索課。通称『イ特』である。
先のイシュタラ軍第一次地上進攻時に、81区軍の防衛任務に参加して、数々の武功を揚げた英雄、エアバニーが警視正として率いる第一捜査課は81区民にも非常に人気の高い存在だ。
故あって軍を除隊し、今は区の要請で警察組織のイ特にその身を置いている。
そしてエアバニーはその日、非番だった。
にも関わらず、今まさに仕事をしようとしていた。
たまたま休日にインプルで見ていた面白画像の中に、ある物を見つけてしまったのが原因である。
その動画のタイトルは『なんか凄いタクシーがいる。』
真っ黒でリムジンぐらいあろうかという大きな高級車の上に『tamori』という空中イルミネーションの様な文字が突き出して浮いている写真が上げられていたのだ。
ぱっと見は見たことない様な高級リムジンTAXIだ。
しかしtamoriタクシーなど聞いた事もない。
それにエアバニーからすればその『tamori』という文字が空中に映し出されていたと言う事案を前日に聞き知っていたのだ。
そう、ショウが試しに近くのニュースエージェントに買い物に出かけて騒ぎになったあの事件だ(4話)。
それで現場に駆けつけたイ特隊員からの報告にあったショウの頭の上のアレと一致するのだ。
エアバニー「。。。。これは、多分ドンピシャだな。」
エアバニー「ツイてるのかツイてないのか。。非番の日に限ってこれだ。。」
いかにも嫌そうな表情の中に、頼られて仕方がない時のしょうがねぇなぁと言う表情を醸し出しつつ、30代前半の細マッチョでいかにも軽そうなその男はいそいそと何かを調べ始めた。
エアバニー「えぇっと。。インプル!署に繋げ!」
インプル「81区警備局イシュタラ対策部特殊捜索1課に繋ぎます。」
エアバニー「違うわアホウ!本部に繋いでどうする?!27番地13地区のイシュタラ対策部の捜査課の毛田ちゃん(もうだちゃん)に繋げ!」
インプル「わかりました。27番地13地区イシュタラ対策部、捜査課の毛田巡査をお呼びします。」
インプルは、コールを待っている間メロディを流す。。
このメロディは任意で決める事ができる為、エアバニーの設定した某未来のネコ型ロボットアニメに登場する、小金持ちの意地悪な男の子がパパに買ってもらったラジコンを自慢するシーンのBGMを彷彿とさせるメロディがしばらく流れていた。。
毛田:『もしもし、こちらイシュタラ特別捜査隊第一捜査課です。』
エアバニー:「あ、もしもし毛田ちゃーん!?」
毛田:『あ、警視正。。おはようございます。今日は非番なのでは。。。?』
エアバニー:「毛田ちゃん、今日も可愛い声だねー!」
テンションの上がるエアバニー。
毛田:『あの。。ご用件は何でしょうか。。?』
困った様子の毛田。
それもその筈、エアバニーは今で言う国家の直属警察の英雄でありその第一捜査課の長。毛田は地域警察の新卒の巡査。いくらエアバニーがざっくばらんに接したとしても雲の上の存在であり機嫌をそこねられない存在だ。
そんなエアバニーに対して毛田が萎縮するのは至極当たり前であった。
そんな毛田の心情を気にする素振りもなく
エアバニー「ちょっとお願いがあるんだけどー。81区27番地にタモリって人がどのくらいいるか調べて欲しいんだよね。」
と言った。
すると毛田はまた困った様に答える。
毛田「えっ。。?それでしたら27番地の署の方にお願いされては。。?」
エアバニー「ちょっと一刻を争うんでーあっちは直轄じゃぁないんで色々面倒なのよね。」
エアバニー「じゃ、そういう訳で極秘理によろしくー」
毛田「えっ?あっ!」
毛田が返事をする間もなくエアバニーは言うだけ言ってインプルを切ってしまった。
がっくりと疲れた様子の毛田。
毛田:なんで私ばっかり。。。
とため息をついた。
エアバニー「インプル、次は本部に繋げ!」
インプル「81区警備局イシュタラ対策部特殊捜索1課に繋ぎます。」
電話先「こちらイシュタラ対策部特殊捜索1課。」
エアバニー「エアバニーだ。サークルアンデッドに踏み込むぞー。準備しとけ。手順を説明する。。」
エアバニーの目が見る見る真剣になっていった。
外は夕方になっていた。
と、言ってもカプセル内の照明を赤くそれっぽい色にしただけなので本物ではない。
カプセルの窓の部分から見える空が赤い日もあるがそれとは関係なく毎日決まってその時間にカプセル内はその色に染まる。
景色は夕方に似せてはいるが太陽が沈んだりはしないので影も伸びたりはしない。
プラネタリウムの夜が来るように人工的でそれでいてどこか幻想的にゆっくりと夜が近づく。
そんな中、施設では夕食の配布が始まっていた。
ドアの外では何やら食事を配る音がしている。
しかし待てども待てどもショウの元にそれが来ることはなかった。
同時にショウは朝からの違和感が確信に変わっていた。
昨日から口にしたのは車の中で飲んだスポーツドリンクのみ。
なのに全く空腹を感じない。
食べろと言われれば食べれなくもないがさして欲しくもならない。
食事の要らない身体になっていると言うことだ。
ではどこからエネルギーを得ているというのか?
時間が経てば経つほどショウの中の疑問は膨らんていた。
ショウは、直接会話が出来る存在のアナトも同じなのかもしれないと思い立って聞いてみる事にした。
ショウ→アナト:「アナト、昨日から俺全然お腹が空かないんだけど何故なんだろう?」
アナト→ショウ:「ナノマシーンが光合成をして得た炭素と酸素でピルビン酸を生成して直接ミトコンドリアに渡している。これにより水分補給と少量の炭素補給があれば生命活動を維持出来るだけでなくぶどう糖らのエネルギー抽出の30倍のエネルギーを得る事ができる。酸素と二酸化炭素の双方向変換が可能な為、長時間の無呼吸運動も可能だ。試しに息を止めてみろ。」
ショウ→アナト:「わかった。(意味は解らないけど。。)」
と息を止めた。
一分経ち二分経ち、ショウは全く苦しくならない事に驚いた。
ショウ「何だこれ。。?」
「見た目がどうとかいうレベルじゃないぞ。。?」
ショウ→アナト:「アナト、さっき言ってたけどナノマシーンってなんだ?俺の体は一体とうなっちまったんだ?!」
アナト→ショウ:「私達もお前もある実験の為に作られたモルモットだ。言わば境遇の似た存在と言える。その存在を知ったからこうして。。」
アナトがそう言いかけた瞬間
看護婦「他守さーん。検診でーす。」
ショウ→アナト:「アナト、ごめん。誰か来た。」
とショウは思わずアナトとの直接会話をやめた。
すると看護婦が大きな機器を持ってきて入ってきた。
先程からしていた物音は食事ではなくこの検診だった様だ。
ショウの病室は400号室。
一番奥にある為、最後になった様だ。
そして目の前にその看護婦は来た。
大人の美人という感じの人だった。
ショウが思わず見とれていると
看護婦「まず血液を採取しますね。」
と手慣れた感じで腕に巻くチューブを取り出した。
ここで問題が発生。
装備を外さないといけない。
看護婦「コントロールパネルを出せますか?」
ショウ「え?出せるんですか?ゲームと同じ様にはデフォルトで出てないんですが。。?」
看護婦「ARの頃はプレイされてなかったんですね。」
「ではご説明します。簡単です。出したいコントロールパネルをイメージして出したい場所をタップします。」
ショウがやってみると見慣れたコントロールパネルがいとも簡単に出た。
ショウ「あ。。。」
あまりの簡単さに思わず声が出た。
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魔法
マスク
持ち物
ステータス
装備
調べる
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ショウ:マスク(育てているNPC)とか呼びだしたらどうなるんだろ。。?
気になるけどここは素直に「装備」から装備解除。。と
ショウが装備を解除すると装備が外れて下着姿となった。。。が一部予想と違う箇所があった。
まるでオムツを履いているかの様な下半身のシルエットである。
ショウ「うわ!!」
美人看護婦の前で情けない姿を晒してしまった!