22話 殺戮
ゲームの中のキャラクターの姿と能力のまま現実世界に出てきた他守ショウ。
サークルアンデッドとVRMMORPGファーストアドベンチャー18の正体を知ったショウ達は打倒サークルアンデッドを胸にイシュタラの国へとやってきた。
しかし、イシュタラの国の入国で女神の門の試練に失敗、近くにある人魚の里で修行をする事になった。
イシュタラの国の首都の街『イシュタリア』へやって来た剛本は情報通と噂のあるアスタルトの薬屋を訪る。
■登場人物の紹介
◇他守ショウ VRMMORPGファーストアドベンチャー18からログアウトしたらゲームのキャラクターのまま現実世界に出てきてしまう。ナノマシーン適合者としてはこの世界最強のSSS。緑色のオーラを持つ。
銀髪に角があり、光を帯びた赤い目、口元には牙が見え、少し尖っ耳に爬虫類系の尻尾がある魔族設定のキャラクターだが中身の本人は童顔を気にする黒髪の28歳。
◇アナト ショウと一緒にサークルアンデッドと戦ったイシュタルの娘。ナノマシーン適合者ランクはSS。赤いオーラを持つ。
◇バアル アナトの兄。ナノマシーン適合者ランクはSS。オレンジ色のオーラを持つ。
◇エアバニー 81区警備局イシュタラ対策部特殊捜索1課(通称イ特)課長。役職は警視正。81区の英雄。ナノマシーン適合者ランクはS
◇剛本剛 イ特特殊攻撃部隊『D』リーダー。ナノマシーン適合者ランクはA
◇エンキ博士 かつてイシュタルを覚醒させたナノマシーン開発者。200年以上の時を超えてコールドスリープより目覚める。サークルアンデッドを使って大量の人体実験を繰り返した。
◇イシュタル アナトとバアルの母であり、全てのイシュタラに尊敬、崇拝されるイシュタラ達の女神。イシュタラの国を作り、放射能汚染から低ランクのイシュタラと魚たちを守るために命を落とした。
◇ヤム 神殿議会長。外海の魔神と呼ばれる回遊族のイシュタラ出身。人間殲滅作戦を考案。一応バアル達を立ててはいるが実質支配している。
◇アスタルト アナトの幼馴染。体が弱く街で薬屋営み実家で暮している。この国一番の情報通でもある。
◇アルル アルルの街の守護者。イシュタラ軍を率いて魔神軍と共にセラフィールド戦を戦った。10議員の一人でもある。
アルルは剛本からいままでの経緯を細かく聞くと難しい顔で頷いた。
アルル「君の事は大体分かった。次は私の番だ。」
アルル「当時、イシュタラの国は悲しみで満ちていた。罪のない海の生き物たちや体の弱い同胞が次々と放射能に侵され、さらにそれを救わんとしたイシュタル様を失った。」
アルル「悲しみを怒りに変えた者達はヤムのプロパガンダに乗せられて軍を起こした。」
アルル「私もその一人だ。」
アルル「『セラフィールド』はイシュタラの国からは一番近い汚染源地域だ。立地的な事もあって最初の攻撃目標となった。」
アルル「そこは酷い放射能汚染で低位のイシュタラでは近づく事も出来ない有様だった。」
アルル「我々はまず44区付近から北極に別働隊を派遣してそこに穴を掘り汚染源のプラントを一つずつその穴の底へ量子テレポートさせた。」
アルル「汚染源の処理を終えるとそれから各カプセルに対して総攻撃を行った。」
アルル「そこで我々は見たのだ。」
アルル「魔神達のおぞましき光景を。」
剛本「おぞましき光景?」
アルル「君の亡くなられた父君の遺体は帰ってきたかね?」
剛本「いいえ。。危険ですし被害者の数が多すぎてどうにもならないと。。」
アルル「それは少し違う。」
アルル「彼等は人を喰らい始めたのだ。」
剛本「なっ!?」
アルル「イシュタラに『捕食』と言う能力があるのを知っているかね?」
剛本「いえ。。?」
剛本はサークルアンデッドの地下でエアバニー隊長が施設の男に噛まれそうになっていたのを少し思い出した。
アルル「別に食べて栄養にする訳ではない。血液や肉などを捕食し、そのDNAやナノマシーンを解析して優れた所を取り込む能力だ。」
アルル「本来なら相手は人間だ。自分に利のある能力を持たない者の捕食など意味がないと思われた。」
アルル「我々イシュタラ軍は人間自身がばら撒いた放射能によって放射能汚染の強い地域の人間が滅びればそれでいいと思っていた。」
アルル「しかし魔神達は対象外のカプセルに次々と侵入し、放射能汚染の強さに関わりなく全ての人間達を乱獲してむさぼり喰ったのだ。。」
アルル「それは地獄の様な光景だった。」
アルル「しかし魔神達は知っていたのだ。適合者でなくとも高位のナノマシーン適合可能な者を捕食すれば適合能力に対して捕食効果がある事を。」
アルル「そしてカプセルの外へ逃げ延びた人間も放射能で死に絶え、やがて44区北部全体が死の街となった。」
アルル「この戦いの後、イシュタラ軍は大きく士気を下げ、反対に魔神達はその能力を大きく向上させた。」
アルル「そしてその後もこんな戦闘が繰り返された。」
アルル「パワーバランスは崩れ、数において勝るイシュタラ軍よりも今や魔神達の方が強くなってしまった。」
アルル「開戦当初こそヤム議長に賛同した我々だがその思慮の浅さに後悔した。」
アルル「もはや我々に止める力はない。」
アルル「攻撃に反対されていたバアル様は世界最大の汚染源が海の向こうの大陸の雪解け水にある事を掴み1区NV地区『ユッカ』にその対処に向かった。」
アルル「そしてアナト様は更に向こうの地球の裏側、81区2地区『ロッカショ』にも大きな汚染源があると突き止めてそこに向かわれた。」
アルル「そしてそこで、アナト様は君たちの隊長エアバニーと出会い、我々以外のナノマシーン適合者の存在とエンキの復活を知った。」
アルル「ヤムと魔神達は来たるべきエンキとの決戦に備えてさらに攻撃と乱獲を強めているがこんなやり方を続けるのはイシュタル様の御心に反する。」
アルル「私は人間との戦いは停戦にして放射能除去とエンキ討伐に的を絞りたいのだ。」
アルル「頼みの綱はバアル様、アナト様だがヤムの政略によりイシュタラの国を離れっぱなしだ。。。」
アルル「。。。」
剛本「随分。。勝手な話ですね。。」
アルル「何?」
剛本「自分達で勝手に戦争を初めて自分達の立場が弱くなったから次はバアル様ですか?」
アルル「それは。。」
剛本「もし、今のままでは駄目だと思うなら一つ考えて欲しい。」
剛本「命を懸ける覚悟はありますか?」
アルル「勿論だ。我々はイシュタラの国の為ならば命は惜しまない。」
剛本「。。。分かりました。」
少しの間静寂がつづく。。
剛本「この国の者は他者を殺せない。仮にヤムを殺したとしたら魔神達と戦いになる。」
剛本「そうなればエンキは倒せない。」
剛本「イシュタルに直接指名されたヤムは議会から外せない。」
剛本「となれば取れる道はひとつ。」
アルル「それは。。?」
剛本はアルルの目を見る。
剛本「。。。」
剛本「私がヤムを殺しましょう。」




