34話 拝謁
小町とエルヴィンが融合して誕生した猫耳にしっぽの生えた不思議な女の子コマチンとの出会い。
そして、ショウたちは残してきた竹田氏からの依頼を果たすために24番地にある御所へ参内した。
威厳はあるが決して必要以上の絢爛さはない、よく手入れされた光沢のあるうぐいす茶といった感じの深い色合いの板張りの大部屋。
その部屋の左右にはズラリと並ぶ公家達が座っている。
その表情は皆、涼やかでそれでいてどこか冷たい。
そして部屋の奥には一段上がった空間があり手前に集まった公家達のいる場所との境界を仕切る様に御簾が下げられている。
その中は内側の両脇に設置された行灯の灯りにぼんやりと照らされて御簾の外からもうっすらと透けて中の様子を伺う事がでる様になっていてなんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。
そこには一畳だけ分厚い畳が置かれていて奥には屏風が行灯の光を拡散させて黄金色に輝いている。
天子が座する為の場所だ。
だがそこに天子の姿はない。
そしてそこ空間に向かう一本道の様にガランと何もないその部屋の中央。
それはこれから来る『客』をただ厳かに待っていた。
やがて遠くからギシギシという木の床を踏みしめる音と、布の擦れる音が近づいて来るとどこを見るでもなかった公家達の目がその音の聞こえてくる方の廊下を遮る障子へと集まった。
「お越しにならしゃいました。」
障子の向こうからそう声が聞こえると公家の一人が
「入られよ。」
と声をかける。
そうしてようやくゆっくりと障子が開かれるとそこには侍女に先導されて後ろに控えるショウ達の姿があった。
公家達はチラリとそれを見るとそれぞれ集まっていた視線がどこを見るでもない虚ろな状態にもどっていった。
竹田氏は威風堂々としている。
アナトもミネルバもやはり王族の風格がある。
文化は違えどやはりどこか高貴な雰囲気だ。
そして他国の臣下の前でへりくだった様子もない。
ショウだけがこの場違いな雰囲気に飲まれてどうしていいかわからずに只々うろたえていた。
ショウ:うわぁ。。。場違い感ハンパないですけど。。。
ショウ:こういう部屋ってなんか座ってから入るんじゃなかったっけ?え?そのままでいいの?
ショウ:アナトやミネルバもやっぱり王族なんだよな。。。なんか場馴れしてるっていうか、気後れしてないっていうか。。。
竹田「他守さん、どうぞ私についてお入り下さい。」
竹田はそう言うとさっそうとその部屋の中央を進んで左右の公家達より前へ出て、より御簾に近い位置に座った。
すると左右の公家たちは無言でそっとその頭を垂れる。
その中をこれまたさっそうとアナトが
そして凛として落ち着いた様子のミネルバが
おどおどしてキョロキョロしながらショウが進んでいき、竹田の後ろに並んで座った。
竹田をはじめ、ここでは皆あぐらをかいている為にショウもそれにならってあぐらをかいて座るのを見届けると部屋はまた静寂に包まれる。
そして、そのまま数分が経った頃に突然、御簾の向こうに人影が現れた。
時の天皇、光仁天皇である。
その瞬間、申し合わせたかのよう竹田を筆頭に公家達は頭を垂れた。
アナトやミネルバもそれに習い礼をするとショウも慌ててひれ伏した。
竹田「天子様、只今戻りましてございます。」
天皇はゆっくりとうなずく。
光仁天皇「竹田、ようもどった。それからみなさん、遠路遥々よう来やった。朕はこの時を待ちわびておった。」
そして目線をアナトへ向けるとニッコリと微笑んだ。
光仁天皇「そなたがアナトであるな?本当に立派にならはった。なるほどイシュタルさんによう似てはりますなぁ。」
アナトはゆっくりと頭を上げる。
アナト「生前、母様から天子様の事は伺っておりました。お会いできて光栄です。」
光仁天皇は目にうっすらと涙を浮かべるとアナトを見つめながらうんうんと頷いた。
光仁天皇「イシュタルさんの事は、本当に残念であった。さぞ辛く、人の世界を憎んだ事であろうに。。。よう来てくれはったな。本当に嬉しく思うぞ。」
アナト「いえ、ありがとうございます。」
そして、ショウミネルバに視線を向ける。
光仁天皇「それから竹田、礼を申すぞ。。。よく連れてきてくれた。」
竹田「はっ」
光仁天皇「そなたが他守であるな。」
そう言うと光仁天皇の目は何と赤く光りを放ち始めた。
それを見たショウは驚きを隠せずに思わず声が漏れる。
ショウ「ま、まさか。。。?これは。。。」
ミネルバも思わずショウの後ろに隠れた。
アナト「いや、違うぞ。他守、これはティアマトのオーラではない。」
ショウ「それじゃあ、一体?」
竹田「そう、これが加護の力はと呼ばれるものです。」
ショウ「これが。。。?」
アナト「ティアマトのオーラではない。」
ミネルバ「でも、どこか。。。近い様な?感じがしますわ。」
ミネルバは少しショウの後ろへ隠れながらも恐る恐る様子を伺っている。
アナトはそんなミネルバに少し違和感を覚えたがそれどころではない。
さらに予想外の事がすぐに起こった。
光仁天皇「失礼。」
光仁天皇がその言葉を発すると同時にその赤い光は赤い稲妻となって御簾を突き破りショウ達の背後に落雷したのだ。
慌てて後ろを振り向くとそこには、黒焦げになって泡を吹く半魚人の姿があった。
ショウ「あ!!!お前は!!!何でこんなとこに!?」
光仁天皇「私の目は万物を見通す。どこの手の者か?致命傷は与えておらぬ、起きて名を名乗れ。」
半魚人は頭だけを上げて何か口をモゴモゴした。
半魚人「ボソボソ。。。」
しかし、公家達も突然の事にうろたえてヒソヒソと話をする中、半魚人の声は小さくて全く聞き取れない。
半魚人「ボソボソ。。。。」
そんな様子についに光仁天皇が業を煮やして
光仁天皇「名乗らぬのか?それでは致し方ない。」
と、今にも追撃を加えそうになったところで慌ててショウが口を挟んだ。
ショウ「あ、あの!俺、コイツ知ってます!ビビアンっていうイシュタラの国の住人です。」
それを聞いて光仁天皇は、ほっとしてようやく落ち着きを取り戻した。
光仁天皇「ふむ、そうであったか。して、如何なる理由があってこの御所に隠れ忍び込んだのじゃ?イシュタラの者なら言えば正式に招待したであろうに。アナトよそなたの配下の者でしたか?」
アナト「いえ、私も知りませんでした。」
そういうと殺気を漂わせながらアナトは半魚人に視線を向ける。
アナト「ビビアン、恥をかかせてくれたな。。。どういう事だ!?」
半魚人はゆっくりと起き上がるとうつむいたまま、かなり気落ちした様子でそのか細い声で答えた。
半魚人「姫様。。。申し訳ございません。。。」
アナト「先ずはその面妖な変身を解け!!無礼であろう!!」
アナトからオレンジ色のオーラが漏れ始める。
半魚人「ヒェェェ!!は、はい!!申し訳ございません!!」
アナトは完全にキレている様子だ。
これに心底恐怖した半魚人はついにその偽りの姿をやめて真の姿へと戻っていった。
本来の人魚の姿へだ。
そしてその姿に一番驚いたのは他でもないショウだった。
ショウ:うぇぇぇぇぇ!!!??




