22話 爆走
イ特内部に近隣の83区の工作員が入り込んでいる可能性を疑ったエアバニーは特殊工作部隊『H』のリーダー城戸サスケにその調査を頼んでいた。
帰還したサスケはイ特内でも盗聴の恐れがある為に口寄せした忍者犬トントンマルを使ってエアバニーを幻術にかけ、その中で調査報告をした。
その内容は、エアバニーの盟友でありイ特副長のナムがスパイであると言う事を示唆するものだった。
そして、敵は既に剛本を特に警戒している事を知る。
エアバニーは突然席を立ち、慌てて部屋を飛び出して走り始めた。
それにサスケとトントンマルも追従する。
エアバニー「まさかとは思うがな。。。しかし、そう考えると全て辻褄が合ってしまう。。。クソッ!」
エアバニーの脳裏にはかつて何度も共に死線を超えてきたナムとの記憶の数々が蘇っていた。
エアバニー:ナム。。。何かの間違いであってくれよ。。。お前はそんな奴じゃねぇ。。。
エアバニー達が超人的なスピードで廊下を駆け抜けると行き交う人々は驚き戸惑う。
「え?何?」
「わっ!」
「キャア!」
二人と一匹はまるで風がすり抜けるように廊下を行き交う人混みを猛スピードですり抜けていく。
それが通り過ぎていったその後には遠ざかっていくサスケの「ニンニン。。」と言う声とトントンマルの「トントン。。。」と言う声が混じり合って「ニントンニントン。。。」という謎の言葉だけが響いていた。
「な、何あれ。。。?」
「さあ。。。?」
「一瞬、隊長が見えた様な。。。?」
エアバニー:何にしても間に合ってくれ。。。
そしてイ特本部内のその騒ぎは先に部屋を出ていった剛本の目にも止まる。
剛本:あれは隊長?あんなに慌てて一体どこへいくんだ?
エアバニー達を目で追っているとやがてイ特本部の建物から出た二人と一匹は小町のいる隔離病棟の方へ向かって走り去っていくのが見える。
剛本「あっちは。。。まさか隔離病棟へ?」
剛本「何かあったのか??」
ただならぬ様子で隔離病棟の方へ走り去った彼らが気になった剛本は歩いていた5階の窓を開けると、ヒョイッと飛び降りてエアバニー達の後を追った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間は少し前に戻る。
小町の入院している隔離病棟はイ特本部からほど近い場所にある。
適合者専用の隔離病棟なのでその外観はかなり物々しく厳重だ。
個人的なお見舞いや面会原則は認められず、建物に入るには許可証と厳重なチェックが必要となる。
勿論、建物を出る時も感染確認が必要な為に一度入れば数日は出てこれない。
そんな訳で必要があって患者に面会する場合は殆どの場合、遠隔でやる。
しかし、これも実施に多数の人員を要するために予め予約して限られた時間でのみ許される。
小町に至っては殆ど意識のない状態で、カメラからの映像を視認するしか本人の様子を確認する方法がないのだがこれについても本人の許可の取りようがないので法的に不可能だ。
脳に直接埋め込んで映像を送る「インプル」の利用もここでは禁止されているしネットワークへの接続も遮断されている。
まさに隔離病棟というその名の通り陸の孤島として厳重に「隔離」されているのだ。
そんな訳で帰還してからこれまでナノマシーンウィルスに対しての抗体を持つ剛本であっても小町には直接会えていない。
小町はそんな厳格に管理された隔離病棟の一室で静かに眠っていた。
いや、むしろ昏睡状態で意識を失っていたと言ったほうがいいだろう。
彼女は一人、死の淵をさまよっているのだ。
部屋には心電図モニターの音だけが響いていた。
病室といっても見舞いの花や果物なんかはなく、窓すらもない殺風景な部屋だ。
元々ナノマシーンが暴走した際に暴れ狂う者を収容する為に造られたその病室は分厚い鋼鉄の壁に囲まれて防音も施された適合者の牢獄とも言える場所なのだ。
小町はナノマシーンウィルスに負けて重症化してしまう様な比較的ランクの低い適合者だ。
とはいってもひとたび暴走すればとても常人の手には負えない。
それを恐れて収容者を覆い隠すようにその部屋は執拗に堅牢に守られていた。
そしてそんな厳戒体制の部屋の小町のベッドの傍らに佇む一人の男の影があった。
その男は防毒マスクもせずに無表情に小町の様子を見ていた。
そして男は何も言わずに持っていた小さなケースを開く。
するととそのケースの中には注射器と小さな小瓶が入っていた。
男はゆっくりと小瓶のフタを開けて、その中の液体を注射器に吸い込むとその液体は怪しく光を放っている。
そして次にその男は小町の口をこじ開けて舌にその注射針を押し当てる。
しかし簡単には針は通らない。
男はさらに力を込めて小町の舌に針を指す。
するとゆっくりだが次第に針は舌に突き刺さり始めた。
そして数センチほど針が入った所で男はようやく力を抜いてほっとしたように一息つくと中の液体を小町の体内へと注入した。
小町はそんなことをされていても気がつく様子もなく眠ったままだったがしばらくすると徐々に呼吸は荒くなり、その安らかだった表情は苦痛へと変化していった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇




