14話 天子様
イシュタラの秘密基地に着いてから暇を持て余し読書をしていたショウはバアルに呼ばれてミネルバと会議室へ向かった。
そこで待っていたのは人間である西部カプセル群の長達であった。
そこで対面する人々は右を見れば平安時代、左を見れば人系のイシュタラ。
イシュタラ側が獣人系などではないのが救いだが、両者は全くの異世界の者同士の対面だ。
しかも今、両者は戦争中。
ショウはその面子を前に緊張せずにはいられなかった。
そんな会議室の中でまるで平安時代さながらの朝服を纏った老人、竹田氏はゆっくりと話を始めた。
竹田「何からお話してよいか。。。そうですね。。。まず天子様のお話からしなくてはなりません。」
ショウ「て、天子様の。。。?」
天子様とはこの時代の天皇の事だ。
と言っても81区を政治的に統治している訳ではない。
むしろ宗教的な象徴として意味合いが強く、政治的にはただ各長の任命だけを行っている。
ここ西部地域での皇室の権威はかつての江戸幕末の頃の如く大きなものであった。
竹田「まず、最初にこれだけは言えます。」
ショウ:?
竹田「天子様は現人神でいらっしゃいます。」
ショウ「それは。。。?どういう。。。?」
竹田「イシュタラの国の方々が出現するまでは俄には信じ難い事でしたが確かにそうなのです。」
ショウ「イシュタラの様な超人的な力のがあると言うことですか?」
竹田は頷く。
竹田「というのも天子様は老いることも朽ちることも無くもう200年以上もの年月の間休むことなく24区にて日乃本の安寧を願い祈りを捧げておられるのです。」
ショウ:200年。。。
ショウ「不老不死なんですか?」
竹田「はい、まさしくそうです。」
竹田「私も当時は生まれてはおりませんから、記録を読んだり天子様からお伺いした事しか分かりませんが間違いなく天子様は齢200歳をゆうに超えておられます。」
ショウ「まさか。。。天子様は適合者なんですか?」
竹田「いえ、そう言う訳ではないのですが。。。加護をお持ちなのです。」
ショウ「加護。。。?」
竹田「はい、ですがその話はいずれしましょう。今は取り急ぎお願いしたい儀がございます。」
ショウ「あ、はい。すいません、どうぞ続けて下さい。」
竹田は優しそうに頷くと話を続けた。
竹田「あれは27年前の正月、元旦の早朝の事でございました。」
竹田「その年の四方拝を行う為に天子様におかれましては黄櫨染御袍にお召し替え頂いている最中、それは起ったのです。」
ショウ:しほうはい?何だそれ?何かの儀式かな?
ショウ「それ。。。とは?」
竹田「はい、お召し替えの最中に事もあろうか天子様が突然意識を失われたのです。そのお姿に宮中は騒然となりました。」
竹田「常駐の医師たちもいましたが全くどうすることも出来ず、天子様はそのまま目を開ける事なく三賀日を過ごされました。」
竹田「四方拝は日乃本の安寧を願い人々厄災を祓う大切な年始の儀式ですのでこれまでどんな事があろうと中止する事は無かったのですが、そんな事もあってその年だけは執り行う事はできませんでした。」
ショウ「。。。大丈夫だったんですか?」
竹田「。。。天子様は昏睡状態の中、夢を見たそうです。」
竹田「その夢の中で空から紫色に輝く雷が龍の如く舞い降りてある赤ん坊の中へ消えると天は晴れ渡り温かい光に包まれたそうです。」
竹田「そしてその年、実際に世界の気温はいきなり20度も上がりました。」
竹田「南方では氷が溶け始めると氷の中に閉じ込められていた二酸化炭素や火山から出たメタンが大気に放出されて気温はさらに上がり、またたく間に氷河期が終わりを告げました。」
竹田「しかし、天子様はその夢不思議な夢をご覧になってから病に臥せってしまったのです。」
竹田「その病は言えることなく少しずつ今も天使様を蝕んでおります。」
ショウ「そうですか。。。」
竹田「それでもこれまで病を押しながら祭祀とご公務をこなしてこられましたがここ数年はそれもなかなかかなわない程になっております。」
竹田「しかし此度は人とイシュタラの大切な和議調印式。そこには政治的に天子様のご臨席がどうしても必要です。」
竹田「そんな折にバアル殿から貴方様のチカラの話を伺いました。なんでも病気や怪我を一瞬で治したり死者の蘇りまでやってのけたと。」
ショウ「いや、でもあれは。。。適合者以外には効果が分かりません。。。」
竹田「でしたら私が実験台になりましょう。私は適合者ではありません。」
ショウ「いや、そんな。。。もし何かあったら。。。」
竹田「無理は承知でお願い致します。どうか貴方様とそちらのお嬢さんのチカラで天子様の回復を試みては頂けないでしょうか?」
ショウ「。。。お気持ちは分りますがいくらなんでもあなたを実験台にする訳には。。。」
戸惑うショウを見て竹田は、無言で立ち上がるとショウの前まで歩いて来た。
そして、ショウの手を取るとこう言った。
竹田「私の体に触れてみて下さい。」
ショウ「な、何を?」
竹田は朝服の上からショウの手を自分の胸元に持っていく。
その時、触れた感覚にショウは驚いた。
ショウ:!!!これは。。。!?
ショウ「まさか、あなたは。。。?」




