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9話 車窓

ショウ達はニュースエージェントの店主にトキメキパラダイスという本を貰い店を後にした。

ニュースエージェントを出てから、ショウ達は近くの駅からリニア鉄道に乗って同じ81区27番地の少し北にあるMNOと名付けられたカプセルへ移動する。


そこは山の手で、かと言って27番地ゾーン1(環状線の中)とさほど距離もない静かなカプセルで高級住宅街といったイメージのある場所だ。


リニアに乗ると程なくショウの自宅のあるJSOのカプセルを抜けてトンネルに入る。そして特急なら途中のカプセルには寄らずに直接MNOのカプセルまで行く。


リニアと言っても街中という事もあってスピードは出さない。


ゆっくりと運行するその行程は時間にして20分程度の短い距離だ。


それでもカプセル間を繋ぐトンネルをぬけてMNOに入った瞬間、景色は一変する。


そのカプセル内の照明は他の地区のそれとは違い非常に明るくさらに四季まで再現されており、車窓にゆったりとした景色を楽しむことが出来る。


高額納税者が多いこの街は公共物や区画整理も行き届いていて道幅も広く高い建物もない。


街のあちこちに公園が設けられていて、ここがカプセルの中などとは思えない程に光と緑に満ち溢れていた。


同時にショウにとってはこれまで全く縁のない地域でもあった。


窓の外の風景にひと時、目を奪われるショウ。


ショウ「わぁ。。。すげぇ。。。へぇー。。。」


エルヴィン「おい、アホ丸出しだぞ。」


ショウ「うるせーな、そこは純粋って言ってくれ。」


バアル「MNOは初めてかい?」


ショウ「はい、ここは俺らの来る様な所じゃないんで。。。アハハ。。」


アナト「所詮ここの自然も景色もニセモノだ。どうという事はない。」


ショウ「そうかも知れないけどずっとあの薄暗いカプセルにいた俺からしたらここは別世界だよ。氷河期以前の旧世界みたいだ。」


エルヴィン「へん、見たこともないくせによく言うよ!」


ショウ「歴史資料で写真は見たことがあるんだよ!」


エルヴィン「どうだか?フェイク記事じゃないの?どうせ君じゃ見分けがつかないんだから。」


ショウ「何だよ!そう言う自分は見たことあるのかよ?」


エルヴィン「。。。あるよ。」


エルヴィンは少し考えて自信満々にそう答えた。


ショウ「は?バッカじゃねえの?氷河期以前ってスッゲー昔なんだぞ?知ったかぶりはよくないんだぞっ!」


エルヴィン「ふふん。バカは君だよ。オイラは特別なんだよ!」


ショウ「何が特別なんだよ?特別な妖怪か化け猫ってことか?」


エルヴィン「オイラに向かって化け猫とはなんだ!」


エルヴィンはショウの頭に登ってショウの頭を叩くとショウも反撃した。


ショウ「やったなコイツ!」


バアル「おいおい、ケンカはよくないよ!」


ショウ「いや、だってコイツが!」


エルヴィン「コイツって言うな!この脳留守!」


ショウ「な?のうるす?何だそれ!?」


エルヴィン「頭の中が空っぽってことだよ!」


ショウ「ナニー!?」


アナト「落ち着け、何でそんなにケンカばかりするんだ?」


ショウ「俺は何も。。。アイツが絡んでくるんだよ。」


バアルもアナトもやれやれといった感じだがどうにも見てられなくなってようやく仲裁に入った。


バアル「エルヴィン、ひょっとして何か他守君と問題でもあるのかい?」


エルヴィンは一瞬、何か物思いにふける仕草を見せたがすぐにハッとして否定した。


エルヴィン「。。。ないよ!何もない。」


バアル「エルヴィン、君は母様の代からずっと僕達を守ってくれたイシュタラの恩人だ。それは君のことを見える者はみんな知っている。」


バアル「でも、今まで一度だってそんな風に君が誰かに絡んだり噛み付いたりしたなんて話を聞いたことがない。一体どうしたんだい?何か理由があるんじゃないのかい?」


エルヴィン「。。。うーん。今は言えない。そのうち分かるさ。」


そう言うとエルヴィンはふて寝をしてしまった。


バアル:?


アナト「寝た。。。?」


バアル:やはりエルヴィンは何か隠している。。。これから調べようとしている事となにか関係があるのか。。。?


アナトはそっとエルヴィンの頭を撫でると少し微笑むが


ショウ「まぁ、静かでいいんじゃない?」


と、ショウは疲れた様子。


アナト「。。。そうだな。」


そう言って優しそうな顔を見せるアナトにショウはようやく安堵した。





アナト達は長く生きている。


その長い時の中でエルヴィンや他のみんなとどんな繋がりを持って生きてきたんだろう?


眠ってしまったエルヴィンを見ながらショウはそんな事を考えながら到着までの数分間、少しだけウトウトした。

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