4話 メタモルフォーゼ
ゲーム内での戦闘サポートNPCであるマスク。
現実世界で彼らを呼び出す時の心理状況がどう彼らに影響するのかを確認したショウは呼び出した忍者「影丸」の異変を認識しつつも偵察に出すことにした。
影丸「それでは御免!」
そう言うと影丸は煙と共にドロンと消え去った。
アナトはそれを見てまたテンションを上げる。
アナト「おい、見たか!?今ドロンって消えたぞ!なぁっ!ドロンだぞ!」
ショウ「あ、そ、そうだね。。。ハハ。。。」
アナト「私もああいう風にテレポーテーションしてみたいものだな。。。」
ショウ「ア、アナトは今のままが良いと思うよ。。。」
アナト「そうか。。。うーん。。。」
残念そうにするアナト。
ショウはそんなアナトをじっと見つめる。
アナト「ん?。。どうした?」
ショウ「いや、何でもない。じゃあ取り敢えずそのイシュタラの基地ってとこに行くのか?」
アナト「ああ、そうだな。しかし、お前のその容姿では外に出れないな。メタモルフォーゼはちゃんと出来る様になったのか?」
そう言われるとショウはニヤリとする。
自信に満ちた顔だ。
ショウ「フフフ。。。まあね!」
そう言い終わるや否やショウの外見が見る見る変わっていく。。。
少年の様な幼さの残る本来の顔に。
「ギョ!?」
アナト「ほお。。これが本当の。。」
そしてショウはとうとう本来の顔を取り戻した。
しかし、メタモルフォーゼは基本的に質量が変わらない。
顔は戻ったが体はムキムキのままのバランスの悪い状態ではあった。
しかしショウは自信に満ち溢れていた。
ショウ「どうだ!なかなかのものだろう?」
と、自慢げに仁王立ちしている。
「ボソボソ」
エルヴィン「バランス悪っ!なんかキモいよ。」
ショウ「おいー!そこ失礼だぞー!人の顔見てキモいとか言うなー」
エルヴィン「いや、顔じゃなくて体とのバランスがだよ。。。」
ショウ「前にそう言われて縮もうとしたら頭とお尻が伸びてエイリアンって言われたからね。もうそんな言葉は気にしないのさ!」
エルヴィン「いや気にしろよ。。。変だぞ?」
ショウ「仕方ないんだよ。質量は変えれないんだから!エイリアンに比べたらムキムキぐらい普通さ!フウオォー!」
エルヴィン「分かったからビルダーポーズやめろよ。」
ショウ「フフフ。」
ショウは鏡に自分を映してご満悦だ。
エルヴィン「それに。。。男前が台無しだぞ?」
ショウ「?」
エルヴィンの目からぽろりと涙が溢れる。
ショウ「何?何で急に泣いてるの?」
エルヴィン「泣いてない。」
ショウ「泣いてるじゃん?」
なぜかエルヴィンはぷいっと後ろを向いてしまう。
エルヴィン「うるさい。君がキモ過ぎて目から汗が出たんだいっ!」
ショウ「な、何だよそれ?」
ショウ「まぁ、とりあえず頭の上のハンドルネームを消せたしこれで装備を変えれば外に出ても大丈夫だろ?」
アナト「そうだな。これなら騒がれる事はないだろう。」
バアル「うん。少なくともイシュタラには見えないよ。」
ショウ「ね!?そうでしょう?メタモルフォーゼはなかなか上手く出来なくてホント苦労したんだよなぁ。。。」
ショウの脳裏に内蔵丸出しのグロテスクなスライムになってミネルバに殺されそうになったりエイリアンの様に頭が伸びたりしてしまった思い出が蘇る。
ショウ:ホントに苦労したよなぁ。。。
ショウ:メロウ。。。そして人魚のみんな。。。ありがとう。みんなのおかげでまた外に出れるよ。。。
そんな事を考えながらチェストの引き出しの中の着替えを見る。
しかし
ショウ:うん、サイズがダメだな。。。やっぱ装備の中から選ぶか。
諦めてコンソールを開くと装備をタップして独自に登録した装備セットを開く。
これは戦闘中に瞬時に様々な戦闘に特化した装備に着替えられる機能である。
例えば、火属性の敵に対して炎耐性の装備をしながらも魔法をかける時にはその魔法の効果が最大限に伸びる装備に着替えたりといった具合である。
「物理防御」「ヘイト軽減」「毒耐性」「麻痺耐性」「石化耐性」「混乱耐性」「盲目耐性」「即死耐性」「隠密」「炎」「水」「雷」「土」「闇」「光」「消音」「消臭」「攻撃」「夏休み」「海賊」「サンタ」「ハロウィン」。。。
保存枠は課金すればいくらでも増やせるのでショウはかなり沢山のコーディネートを保存していた。
ショウ:んー。。。そうだなぁ。あまり目立たない方がいいしなぁ。。。「ビジネスマン」これか、それとも「ジャージ」これもアリと言えばアリか。。。
グリグリと一覧を動かしてコーディネートを選ぶ。
しかしその姿は周りから見ればブツブツと何か独り言を言いながら空中を指先でコネコネしている滑稽なものだった。
エルヴィン「何やってるの?」
アナト「何かの呪文か?」
ショウはハッとすると
ショウ「あっゴメン!ちょっと装備を選んでたんだ。この魔法使い丸だしのローブじゃあ目立つからね。」
アナト「そうか、なら鎧とかもダメだぞ。」
ショウ「分かってるって、ちゃんと『見た目』用の装備もあるんだよ。みんなで遊びに行く時用にね。」
アナト「みんなって誰だ?他にも誰かいるのか?」
アナトにそう言われてふと昔の事を思い出す。
ショウ:そう言えばギルドリンクのみんなでイベント企画して遊んだなあ
。『裸でマラソン大会』とか『花火大会』とか。。。
因みに『裸でマラソン大会』とは装備なしのキャラメイク直後の初期状態でレベル1の職種で危険なジャングルを抜けて隣の国までマラソンして誰が死なずに一番でゴールするかという地形やモンスターのポップ位置や行動をすべて理解しいないとすぐに殺されてしまう生き残りゲームである。
と言ってもレベル1の職種で挑むので死亡によるレベルマイナスのペナルティはなく、肝試しでもするかの様な感覚でチャレンジできる自主イベントだ。
ショウ達は運営の用意するイベントだけではなくそういった自分達で企画してみんなで遊ぶイベントもファーストアドベンチャー18のゲーム内でかつてはよく開催していた。
ショウ:楽しかったなぁ。。。みんな今頃どうしてるんだろう?イシュタラに殺されていないか心配だな。。。なんてこのメンバーじゃ言えないけど。。。
アナト「他守、どうかしたのか?いい装備が見つからないのか?」
ショウ「へ?あ、ゴメン。すぐ着構えるよ。」
そしてショウは目立たないように『異世界の作業つなぎ』一式を選ぶ。
ここで言う異世界とはショウ達の住む世界の事だ。
ゲーム内から見ればログアウトした現実世界こそが異世界という設定だ。
要は現実世界の作業着だ。
選ぶと瞬時に服装が変わる。
オレンジ色の作業つなぎだ。
バアル「ほう、これも魔法なのかい?」
ショウ「いや、これはシステムって言うかゲームの装備変更です。外に行くには魔法使いのローブじゃ目立つんで。前みたいに騒ぎになるのはもう懲り懲りなんですよ。」
バアル「ふーん。。。なんか色々凄いね。興味深いよ。」
ショウ「いやぁ、そんな凄くもないっすよ!ハハハ。。。」
アナト「ふーん。。。」
ショウ「な、なんだよ?」
アナト「まあ、多少色が派手だがそれなら大丈夫だろう。」
ショウ「だろ?」
エルヴィン「なんなら老けて見えるようにオイラがヒゲを描いてあげようか?」
ショウ「るせーな、猫のヒゲなんかいらねーよ!」
エルヴィン「猫のヒゲを馬鹿にするなよ!」
ショウ「何だよホントにお前みたいな猫のヒゲ描く気だったのか?」
エルヴィン「オイラのヒゲは特別なんだぞっ!有り難く描かれろ!」
エルヴィンはショウに飛びかる。
ショウ「うわっ!だからいらないって!」
ショウ「うわぁーー」
ショウはエルヴィンに左右に3本ずつヒゲを描かれるとムクリと起き上がった。
ショウ「くそー、やりたい放題だな。。。」
エルヴィン「それで影丸と忍者ごっこでもしてな!べーッ!」
出来上がった姿は読者のお察しの通りであるので敢えて言うまい。
ショウ「なんなんだよ。。。」
アナト「いつの間にかすっかり仲良しだな。」
エルヴィンとショウ「仲良しじゃない!!」
声がリンクした事に赤面するショウとエルヴィン。
ショウ「エルヴィン、大体お前なんで俺にそんな絡んでくんだよ!」
エルヴィン「フン、絡んでないしね。」
エルヴィンは急にソッポを向いてしまう。
ショウ:ハァ。。。疲れるなぁ。。。
バアル「まあ、取り敢えずこれで外に出れそうだね。行こうか。」
アナト「はいっお兄様!」




