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25話 迫る時

陣痛のイシュタルをナズィとアステリアに介抱する様に指示したテミスはチアリーディング部の面々に自分の知り得た話を始めた。

「先生、私達が伝染病じゃなかったのならどうしてあんな所に隔離されていたんですか?」


「そうですよ!それに他のみんなが殺されたってどういう事ですか?軍が罪のない一般1区民を殺したんですか?」


「私達どうなっちゃうんですか?」


「先生、病気じゃないなら家に帰りたいです!」


急にどっと質問攻めにされたテミスはイライラした様子でまたチアリーディング部の子供達を一括する。


テミス「静かにしろ!!そんなに一度にゴチャゴチャ言うな!!」


あわてて仕方なく口をつぐむ生徒たち。


その傍らでイシュタルの事が気になってソワソワしているヤムとアルルがいる。


テミスはこの二人から先ずは情報を聞き出す事にした。


テミス「ヤム君、少しいいかな?」


ヤム「何?ちょっと今それどころじゃないんだけど。。。」


ヤムはかなり落ち着かない様子だ。


テミス「ここにお医者さんはいるの?」


ヤム「うーん。。。分からないけど多分いないと思う。。。医療関係者は適合があっても病院の方で療養するから。。。」


アルル「たまたま紛れ込んでしまったグレピオスという者がジョンズ・ホプキンス病院の薬剤師らしいがそれ以外は。。。」


ヤム「ウンマは知らない?」


ヤムは近くにいたウンマにも聞いた。


ウンマ「そうだニャア。。。分からないワン。。。」


相変わらず見た目に反して声はダンディだ。


しかし、それを見たテミスは驚いた。


テミス「わっ!?い、犬が喋った!?」


テミス「ヤ、ヤム君!こ、これも変身なの!?」


ウンマ「誰?この人?これって言うなよ!失礼だワン!」


ヤム「この人一応、イシュタル様の先生らしい。」


ウンマ「え!?まくと!?」


ウンマ「イシュタル様ぬしんしー、わんねーインやあらんやいびーん」


テミス「は。。?え、?な、何?」


ヤム「ウンマはたまに訳が分からないんだよ。でも先生、ウンマは犬じゃないし変身もしてないよ。ウンマはウンマはなんだ。」


テミス「???」


テミス「じゃあ、さっきの人魚は?あの人魚も本当の人魚なの?」


ヤム「うん。エリドゥも人魚の姿が本当の姿だよ。俺たちは元々普通の人間だったけどT-SHOCKの実験でこんな風に体を改造されたんだ。」


テミス「じ、実験って。。。?」


テミス「それじゃ難病って一体何なの。。。?」


ヤム「全部デタラメだよ。」


この後、テミスと生き残った人達はヤムとアルルから今起こっている事を全て聞いた。


そしてある者は絶望し、ある者はあきらめ、ある者は受け入れた。


ただ一人を除いては。


そう、一人未だに球体閉じ込められている桃井である。


彼だけは何が起きているのかさっぱり分からないでいた。



そんな桃井はさておき、一方イシュタル達の方と言えばこちらはさらに深刻な雰囲気に包まれていた。



病室


ここ81区のエルヴィンの地下施設には沢山の部屋がある。


第1層として深さ40メートル程の建造物があり、さらにそこから第2層として同等の建造物がある。


現在、イシュタル達がいるのはこの第2層だ。


ここの地下1階から地下5階までは病院機能と入院施設がある。


T-SHOCKとは違い人体実験の施設などはある筈もなく、あくまで軽微なアレルギー反応と稀に起こるショック状態を治療する為の病棟だ。


ナノマシーンをあくまで医療目的で安全に運用しようとした配慮がそこかしこに見て取れる行き届いた施設だった。


そしてエルヴィンの独自技術である『劣化しない素材』はここでもその性能を遺憾なく発揮しており、まるで新築のような清潔感のあるその病室には今朝方敷いたような真新しいベットが備えられていた。


エルヴィンがここを起動するまで真空状態だった為にホコリひとつない状態だ。


イシュタルはエリドゥに運ばれてそこにそっと寝かされるとまた陣痛の波が来たのか酷く苦しんでいた。


その様子にナズィは狼狽うろたえるばかりだ。


ナズィ「どうしよう。。。出産を任されても私達どうしようもないよ。。。エリドゥさんはこういうの経験ありますか?」


エリドゥ「残念だが私にも対応するだけの知識がない。。。」


ナズィ「アステリアも無理だよ。。。ね?」


アステリア「その事なんだけど。。。大事な話があるの。」


ナズィ「え?そう言えばさっきも何かいいかけてなかった?」


アステリアは少し辛そうにうなずく。


アステリア「私、さっきイシュタルに会ってからその人の健康状態とか病気とかが急に見える様になったの。」


ナズィ「?」


キョトンとするナズィ。


アステリア「イシュタルのオーラみたいな光が目に入ってきて、それから何か引っかかってたものが取れたみたいに急に視界が開けて。。。」


アステリア「そしたら、イシュタルのお腹に二人の赤ちゃんが見えたの。」


ナズィ「え!?双子なの!?」


アステリア「うん。。。でも二人とも逆子で。。。首にへその緒が絡まってしまってるの。。。」


エリドゥ「な、何!?」


ナズィ「え。。。それって。。。」


エリドゥ「そ、それは不味いな。。。」


アステリア「私もとうしていいか分からなくて。。。」


ナズィ「ど、とうしよう。。。ますますこのままじゃ。。。」


ナズィ「あ、そうだ!アマクサ、何かいいアイデアはない?」


アステリア「え?アマクサ?」


アマクサはエルヴィンが設計し、この施設に組込まれたAIシステムだ。


アマクサ『分析します。』


アマクサ『一つの解決方法が見つかりました。』


ナズィ「え!?マジ!?教えて!!」



何でも聞いてみるものだとナズィは思った。

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