17話 汗
今にも処刑されそうだった数名を救ったヤムだったがすぐに体の変調に見舞われた。
ナノマシーンがどんどん弱くなっていたのだ。
イシュタルと連絡が取れない。
ヤムは急に自分が無人島に取り残された様なそんな感覚に襲われた。
そして適合者としてのチカラが出せない今、どうやってここを脱出すればいいのか必死で考えた。
しかし、焦れば焦るほど何も浮かばずに額に汗がにじみ出てきた。
その汗が頬を伝ってポタリと一滴床に落ちるのを見て改めてヤムは気がつく。
ヤム:汗?
そういえば適合者となってから汗などかいたこともなかった。
ナノマシーンが細胞を強力に保護させ、体の周りにも防護層を張って熾烈な環境下でさえも体温を常に調整してくれているからだ。
だからこそマイナス50度にもなるカプセルの外でも、はたまた自然発火する様な摂氏200度以上の灼熱の中でも平気でいられるのだ。
ヤム:な、何なんだ一体??
ヤムは体の異常に気が付いて狼狽えていた。
生き物として生きている事の不快感がどんどん蘇ってきた。
息をしなければ苦しくなるし体に疲れも感じる。皮膚のかゆみも喉の乾きも適合者となってからは全く無縁のものだったからだ。
普段は冷静で物怖じしないヤムもこれには怖気付いてしまった。
ナノマシーンのチカラがなければ自分は無力だった頃の只の子供だ。
こんな軍の処刑場のような場所で不安にならない訳がない。
そんなヤムに今度はテミスから質問を投げかけて来た。
テミス「ねえ、君はどこから来たの?どうやってここへ?それにさっきの変身。。。一体何者なの?」
ヤムはハッとするとゆっくりとテミスの方を見た。
ヤム:そう言えばこの人学校の先生だったな。。。
見ればまだ若いが凛として賢そうな顔立ちだ。
他の人達は恐怖で立ち上がることもままならないというのにこの人はこんな状況でも自分を失ってはいない。
話が出来るならここの情報を集めてこの状況を打破する糸口を探せるかも知れない。
ヤム:何か手がかりを見つけないと。。。
何かにすがりたい気持ちでヤムは話し始めた。
ヤム「テミス先生。。。でしたっけ?あなたはナノマシーンについて何か知っていますか?」
テミス「いえ?それは私の質問と関係があるの?」
ヤム「俺はヤム。ナノマシーンの適合者です。そしてそれはイシュタル様もそしてあなたもそうです。」
テミス「ナノマシーンの適合者。。?私が?ナノマシーンって何?何かの機械を体に入れられているの?」
ヤム「うまく言えないけどそれは人がナノマシーンと混ざって進化したって事だと俺は思ってます。」
テミス「ちょっと待って、話についていけないわ。私達は伝染病の疑いでここに連れてこられたのよね?」
ヤム「いや、それは捏造されたデマです。俺たちは伝染病になったんじゃなくてある実験の為に危険なナノマシーンを投与されたんです。」
テミス「どういう事?わからないわ。一体何のために誰がそんな事を?」
ヤム「そるは。。。T-SHOCKです。」
テミス「T-SHOCKって。。。バカにしてるの?それを信じろっていうの?」
疑われたヤムは少しムッとして
ヤム「信じないならいい。俺はT-SHOCKの実験室で動物以下の扱いを受けてきたんだ。沢山仲間も殺された。」
とそっぽを向いてしまった。
テミス「あ。。。ごめんなさい。何もかもが急すぎて頭が混ているの。」
テミス「それじゃ、私にもあなたみたいな能力があるってこと?」
慌てて取り繕うテミスにヤムは少し振り向いて
ヤム「そこまで強くないと思うけどたぶん。」
テミス「そう。。。なの。。。」
しばらく沈黙が続く。
テミスはかなり困惑していたがこの状況やヤムの擬態を目の当たりにした事もあって信じるしかなかった。
そしてテミスはおもむろに壁に手をかざした。
ヤム「?。何してるの?」
テミス「。。。」
テミス「何も起こらないわよ?」
ヤム「何が?」
テミス「さっき君がやってたやつ。」
ヤム「電撃?」
テミスは頷いた。
ヤムは首を振った。
ヤム「教えてもいいけど今はムリだよ。」
テミス「どうして?私も戦えるなら戦いたいわ。それから何としてもここを出て奴らの非道を訴えたいの!」
ヤム「そうじゃなくて。。」
テミス「何が違うの?」
ヤム「それが。。。この部屋に来てから変なんだ。チカラがどんどん弱くなって。。。」
テミスはハッとして辺りを見渡すとテーブルの上にあった瓶に蓋をした。
テミス「ここへ来てからずっとこの臭いを嗅がされてきたわ。その度に脱力感に襲われたの。ひょっとしたらこれが何か関係あるのかも。。。?」
ヤム「この臭い。。。そう言えばこの部屋に入った時に変な臭いだと思ったけど。。。それだったの?」
テミス「よく分からないけど私達を弱らせる為のものな事は確かよ。」
ヤム「じゃあ外の空気を吸えば治る?」
テミス「そこまでは分からないわ。」
ヤムはそれはそうかと思いつつドアから外の様子を確認しようとした。
音がならないようにそっとドアノブを回すがドアは押しても引いても開かない。
どうやら鍵がかかっている様だ。
ヤム「鍵がかかってるみたい。」
テミス「閉じ込められたってこと?」
ヤム「うん。窓はないし通気口は人の姿のままじゃ通れそうもないから。」
ヤムは少し考えてから自分の指を見つめた。
テミス「どうしたの?」
ヤムは少し微笑んで
ヤム「よし、一か八かだ。」
とテミスに笑顔を見せた。




