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10話 護送車

自分を坊主頭にしたのがラフムだと気が付き怒りに震えるナズィ。


そしてジョンズ・ホプキンス病院の薬剤師クレピオスを含む残りの被験者達は情報収集に専念する中、イシュタルはヤムと共に軍の収容施設に潜入しようとしていた。

スノーボールアース


辺りは見渡す限り白銀の世界。


海は凍りついてその体積を増しながら陸へ陸へと押し寄せてくる。


北極からの氷河、それは巨大化した北極そのものだ。


その高さは数千メートルにもなった。


ゆっくりと迫りくるその巨大な氷壁が肉感で視認出来るその場所は小高い山の上。


そこでイシュタル達の目指す軍の収容施設の建物は極寒の冷気に曝されながらひっそりと佇んでいた。


門も建物もこじんまりしたもので見張りもなくそれが軍の施設だと言うことなど知らなければ分からない程だ。


窓もなくただ四角いだけの建物の入り口は、分厚いシャッターになっており大型のトラックがそのまま入れる位大きい。


風雪に晒されている為に常に雪かきをするロボットが外を巡回していて1キロ程離れた場所に除雪された雪や氷が山になっている。


とは言えこの辺りは乾燥地帯であまり雪が降ることはなく山が雪で埋もれてしまうということも無かった。


そんな様子を離れた場所から眺める二人がいた。


姿を消し、足跡の残らない様に宙に浮かんだイシュタルとヤム。


もちろんそれはイシュタルの能力だ。


ヤム「イシュタル様ぁ、早く乗り込んでみんなやっつけちゃいましょうよぉ!」


駄々っ子のようにせがむヤムにイシュタルは冷静だ。


イシュタル「そんな乱暴なやり方をしてはダメよ。なるべく騒ぎを大きくしたくないの。」


ヤム「ちぇーっ、ガツーンといってバーンってやれば何が何だか分からない内に終わりますよぉ。」


イシュタル「それにT-SHOCKと繋がっているならナノマシーンの波動を感知するセンサーがあるかも知れないわ。」


ヤム「そんなのT-SHOCKの本社にだって付けられてなかったですよ?」


イシュタル「今まではね、でも今は当然向こうも私達の襲撃を警戒しているはずよ。」


ヤム「じゃぁどうやって中に入るんですか?地面掘っていくとか?」


イシュタル「そうね。。。それにしても建物の構造が分かればいいんだけど。。。」


とその時、ヤムの視界に一台の車が入ってきた。


後ろに大きな貨物の付いたトラックの様だが前は分離していない。


そしてすべてのタイヤが駆動している車だ。


下が氷になるとタイヤが滑ってもバラバラに回っている。


そしてその後部には観音開きの扉があり、貨物の部分には鉄格子のついた窓もある。


護送車だ。


それはイシュタル達の住むゾーン5方面から北へぬける長い長いトンネルから分岐して小さく一本枝になったトンネルを抜けて出て来た所だった。


トンネルの外は路面の状態が悪く凍結もしている。


当然そのままではまともに走れない。


ゆっくりと停車するとその車のタイヤはスパイクのついた戦車のキャタピラの様な形状に切り替わり軍の収容施設の方へ、またゆっくりと走り始めた。


それを見てヤムはひらめいた。


ヤム「イシュタル様!僕があれに乗って潜入しましょうか?僕ぐらいの適応レベルなら捉えられた人に混ざっていても多分気づかれないと思うんです。」


確かに、ナノマシーンの波動を検知されてもティアマトのオーラに覚醒していないヤムなら収容者の中にもいるであろう他の適合者に紛れていてもそう違和感がないかも知れない。


上手く行けばウルク孤児院の桃井と合流できる可能性もある。


そう思ったイシュタルはヤムを単身偵察に行かせることにした。


イシュタル「分かったわ。でもヤム、無茶だけはしないでね。何かあったらすぐ連絡して。」


ヤム「やった!ありがとうございます!任せておいて下さい!」


ヤムは嬉しそうにそう言うと得意げに氷の塊に擬態して滑るように去って行った。


ヤム「ひゃっほー!」


それを見送りながらイシュタルは少し不安で少し呆れ顔でそれでもヤムと来て良かったと思ったのだった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇


護送車の車内


薄暗くガタガタと揺れて乗り心地も悪い。


舗装されたトンネル内と違い、外に出た途端に酷く揺れるようになった。


代わりにトンネル内では暗かった窓からは眩しい程の明かりが入る。


太陽光が弱くなったと言っても肉眼ではそうは分からない。


ましてや一面白銀の世界では太陽の光は地面に吸収されずに反射して光り輝き、その熱量の殆ども拡散してしまう。


それだけにここでは晴れた日の明るさが眩かった。


カプセルの保全の為と飲料水を得るために周りの氷を溶かして大地が露出している1区のカプセル付近とは様相がかなり違っていた。


しかし、それだけにこの地域の気温はカプセル付近よりもさらに低く、それがまた巨大氷河の南下にも拍車をかけている。


そんな外の光を頬に受けて目を細めながら数人の少年少女がこの護送車には乗せられている。


そう、イシュタルと同じポールローレンス・ダンバー高校に通う合唱部の同級生達だ。


ヤムは初め氷に擬態して護送車に近づくと車の下に回り込み、それから車の底へ底からボディへボディから内装へと姿を次々に変えて入り込み、最後には中に積んであった荷物へと擬態した


特に車内に入ってからは見ていてもわからない様なゆっくりとしたスピードで変身していったのだ。


例えば、赤いりんごの写真の色をゆっりと青りんごに変えても気が付かないのと同じでゆっくりと擬態を変えることでヤムは誰にも気付かれずに護送車に潜入した。


筈だった。


それはヤムがとうとう荷物から人へと姿を変えた時の事だった。

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