6話 出頭命令
クレピオスとの誤解が解けてようやく情報の交換が進み始めた矢先、T-SHOCKが感染者の情報を出したとの報を受けて被験者達は動揺を隠せなかった。
アルル「アマクサ、1区のニュースを見せてくれ。」
アマクサ「わかりました。1区の最新ニュースです。」
アマクサ「OBCからお伝えします。」
爽やかな音楽が流れて男性のアナウンサーが定形の挨拶をするとすぐにトップニュースとしてT-SHOCKの会見の内容となった。
記者会見場には白い長机が用意され、そこに5名のT-SHOCKの代表が現れる。
真ん中には専務取締役の三浦シュウの姿があった。
沢山の記者が取り囲む中、まず口火を切ったその三浦であった。
三浦「今回、イシュタル・カヤによる難病患者隔離棟襲撃事件でイシュタル・カヤ本人から病原体の伝染が疑われる地域に住む住人全体を対象に警戒レベルAからEまでを設定しました。」
三浦「また、区の命令により戒厳令下の特別法に基づいた出頭命令に応じていない方の内、当院で調査した特に感染の疑いが高い方のリストを公表した次第でございます。」
記者「区は何故T-SHOCKに調査を依頼したのですか?」
三浦「イシュタル・カヤは以前、我社で働いていました。彼女への感染経路や接触者の調査は当社で事前に行っていました。区の方もその前提で命令されていた様です。」
記者「イシュタル容疑者は現在、警察からも指名手配がかかっています。雇用前に彼女がこの様な事件を起こす言は予想できましたか?」
三浦「いえ、大変優秀な社員だったと聞いております。しかしながらこの難病は感染すると精神に影響を及ぼします。極端に荒々しく性格が変わってしまう症例が報告されています。」
三浦「彼女は自ら希望してこういったリスクのある難病課に配属されていました。そんな心の優しい人間でも凶悪化してしまうのです。」
記者「難病の原因は何ですか?狂犬病ウイルスの様なウイルスですか?」
三浦「ウイルスではありません。ウイルスの様に細胞に侵入して細胞を破壊するのではなく、ミトコンドリアの様に共生もしくは寄生してDNAを支配する新種の生命体といった位置づけです。感染するとDNA自体を書き換えて別の生き物に変えてしまいます。」
記者「それは人間では無くなるという意味に聞こえますがどうですか?」
三浦「DNAが人でなくなればそれは人間と呼べないかも知れません。」
会場はざわついた。
大変な事が起こっている。
それがリアルに記者達に伝わっているのが分かった。
そして
『人間とは呼べない』
これを聞いたアルル達被験者はどよめいた。
アルル「勝手にナノマシーンをばらまいて勝手に拉致して勝手に実験して勝手に改造して。。。人間じゃないだと。。。?」
ウンマ「こいつ何言ってるわん?心を持たないお前が人間じゃないわん!」
エリドゥ「殺す。。。こいつだけは殺す!」
ジレンマが全員を襲う中、クレピオスは冷静だった。
クレピオス:何だろう?何か違和感がかある。
クレピオスは漠然と三浦の言葉に違和感を感じていた。
三浦の仕えるエンキもエンリルも覚醒者だ。
この発言は主人を否定している様にもも聞こえる。
ダーウィンによると人は猿から進化した。
その理屈で言うと人から進化した適合者は勝ち組だ。
適合者からみれば人間は猿みたいなものなのかも知れない。
そうならば我々人類は淘汰されるべき存在なのか?
三浦の言葉は何かそういった事を言いたい様にも聞こえた。
それだけに人々に危機感を与えるには十分だった。
この三浦の言葉を堺に『難病』は庇護すべき弱者ではなく処分すべき厄災へと変わったのだ。
記者会見はそのまま続いた。
そして最後に改めて『出頭に応じない感染が疑われる者』十人の氏名を公表した。
その中にナズィの名前もあった。
しかし、それを見たナズィはある事に気がついた。
ナズィ「ちょ。。。ちょっと待ってこれどういうこと?」
その表情は青ざめていた。




