88話 女神
高校生にして身ごもってしまったイシュタルが軍の収容施設へ単身潜入するという話を聞いて皆が猛反対する中、ヤムはブリッジをしたまま同行を志願した。
ヤムは無表情でブリッジをしたままトコトコとアルルとイシュタルの方へ歩いてきた。
アルル「ヤム、ふざけてるのか?」
ヤム「。。。」
次にヤムはブリッジをした状態のままにゅるにゅると首を伸ばし始める。
そして顔をアルルの前まで伸ばすとくるりと顔を180度回転させて上下を入れ替えた。
アルル「な、なんだ?」
アルルは驚いて思わず後退りした。
見る間に肌には黄色い毛が生えて手足も長くなっていく。
そして気がつけばアルルの前にはヤムの擬態した小さなキリンが立っていた。
ヤム「擬態なら僕にも出来ます。それに僕は戦闘用の能力も持っています。」
そう言うと今度は顔だけ人に戻してアルルの方を見た。
その顔には電気がバチバチとほとばしっている。
ヤム「あなたにも負ける気はありませんよ?」
アルル「なんだと!?」
キリンの体に人の顔のヤムとアルルは睨み合う。
ヤム「外に出て試してみますか?」
アルル「こいつ。。。」
不穏な空気を感じたイシュタルは慌てて間に入った。
イシュタル「ストップー!ふたりともケンカはダメです!」
すると二人は素直に引き下がり頭を下げる。
ヤムは顔を中心に螺旋状にぐるぐると体を変形させてまた人の姿に戻った。
そして今度は子供のようにイシュタルにせがんだ。
ヤム「イシュタル様!僕をお供に連れて行ってください!」
ヤム「ぜーーったいお役に立ちます!お願いしますー!」
アルル「おい、やめんか!イシュタル様に失礼だぞ!」
イシュタル:うーん。。この子をこのまま置いていったらアルルさんとまた揉めるかも知れないわね。。
イシュタル「いいわ。ヤム、一緒に行きましょう。」
その言葉を聞いたヤムの表情はさっきまでが嘘の様にパァッと明るくなった。
ヤム「本当ですか!?ありがとうございます!」
はしゃぐヤムを不満げに見るアルル。
アルル「イシュタル様。。。まさか二人で行くと言うのではないでしょうね?」
イシュタル「そうよ。」
アルル「それは危険すぎます!」
アルルを皮切りに周りの者たちも口々に二人で行くことに反対の意見を述べた。
ヤム「なんだよ!?イシュタル様の決めたことに口出しするなよ!」
アルル「イシュタル様の警護をお前だけに任せられるか!」
ヤム「はあ?」
そしてまた険悪な雰囲気になり始める。
するとイシュタルは深くため息をつき、黙ってオーラを輝かせ始めた。
その優しく緑色に輝くオーラはまばゆく周りを包み込みその場の全員に畏怖と安心を同時に与えた。
アルル:こ、これは。。。何というチカラの波動だ。。。とてつもなく大きく、強く、そして、暖かい。。。
そしてその姿は神々しく神秘的に見えた。
「め、女神様。。。」
何処からともなくそんな声が上がり始める。
イシュタル「分かりますか?みなさんはナノマシーンの共生によってわたしのティアマトのチカラの波動と繋がっています。」
イシュタル「私達はティアマトのリンクで繋がった家族だとわたしは思っています。」
その天使のような声を聞くと誰からともなくひざまずいてイシュタルを崇めた。
あたかももうずっと前からそうだったかの様に全員がイシュタルに心を奪われていた。
イシュタル「みなさんはここにいて下さい。わたしは大丈夫ですから。」
その言葉に逆らう者はなく、全員が疑う余地もなく臣下の如くひれ伏した。
ただ一人、ナズィはその光景を見て違和感を覚えていた。




