75話 実験室にて
T-SHOCKの被害者である実験体達を救う為に再びT-SHOCK本社ビルに戻ってきたイシュタル。
処理室を破壊した後に向かう先は。。
経過観察室の実験体達を救出したイシュタルは培養室を破壊し、実験室へ来た。
しかし、そのおぞましい光景に誰もが目を覆った。
イシュタル達の意識に直接聞こえてくる悲鳴が頭の中をかき乱し、ここに入った全員が不快な気持ちで一杯になるしかなかった。
しかしその中で一人イシュタルはそれでも冷静に周りを観察した。
部屋に所狭しとひしめく水槽を。
そこは強すぎるイシュタルの細胞移植の進行を抑える為に抑制剤に満たされて何もできないままただナノマシーンの侵食と拒否反応を受け入れるだけの人々の姿があった。
イシュタル「ダメだ。。。連れていけない。。。」
ヤム「?」
ヤム「どうして?」
イシュタル「連れて行っても私じゃこの子達に何もしてあげれない。。。見殺しにするしかないわ。。」
ヤムはこの時心がヒリヒリするのを感じた。
誰に向けていいかわからない怒りと葛藤がヤムを含めてその場にいるすべての者達に駆け巡っていた。
そんな中、イシュタルの落胆も周りから見ても分る程だった。
水槽の中の被験者達のうめき声だけがこだましていた。
その時
エルヴィン「イシュタル、オイラなら何とか出来るかもしれないよ?」
イシュタル「エルヴィン。。。何か方法があるの?エルヴィンのあの施設はもう戻れないよ?」
エルヴィン「オイラの研究施設はアレだけじゃぁないのさ!」
その言葉を聞くやいなやイシュタルはエルヴィンを抱きかかえた。
得意げなエルヴィンだったが不意に抱き上げられてタジタジになる。
エルヴィン「わ!ちょっとイシュタル!苦しいよ!」
イシュタル「ごめん。つい。。。」
イシュタルはうっすら涙を見せた。
イシュタル「あなたって本当に不思議な猫ね。」
その言葉にエルヴィンはまた得意げになって
エルヴィン「そりゃあそうさ!オイラは特別だからね!」
と言うとイシュタは少しほっとしたのかようやく笑顔を見せる。
イシュタル「もう、なにそれ?」
すると周りにいた者達からも自然に笑いがおこった。
ほんの一時のなごみであったがそれも束の間、すぐにイシュタルは何かがこの場所に現れるのを感じ取った。
そしてそれはすぐに来た。
部屋のすぐ外の廊下で空間が歪んで中からオレンジ色に光輝く少年が現れたのだ。
エンリルだ。
エンリル「何?この人だかり?て言うか。。。君たち本当に人間?」
実験室からめざめた被験者達が入りきれずに廊下に溢れかえっていた。
その見た目は純粋な人型の方が少ないぐらいであった。
ある者は鳥の頭を持ち、ある者は獣の身体を持つといった感じだ。
中にはキマイラのような合成生物や昆虫なのか人なのか分からないものもいる。
考え得るパターンの合成を片っ端から実行した様なそんな状態だ。
勿論、通常の自然の生物ならこんなデタラメな事は出来ない。
これを可能にしているのはナノマシーンの『捕食能力』だ。
それは遺伝子を解析して自身で制御可能な優れた能力や部位があればそれを自分に取り込んでしまう能力だ。
さらにそれは遺伝子を持つものなら他種族でも取り込むことができた。
そうやって合体を繰り返した結果、ただナノマシーンに適合した人間だけでなく種族として人間を逸脱した者がたくさん生まれたのだ。
その姿はまさにゲームに出てくる様な伝説のモンスターさながらであった。
そのモンスター達はエンリルの気配に気が付くとモーゼが海を割る様に真ん中から二手に別れて後ろにたじろいだ。
するとその先には緑色に輝くイシュタルが静かに立っていた。
エンリルはその姿に思わず見とれてしまう。
エンリル「凄い。。なんてキレイなチカラなんだ。。。」
エンリル「君は。。。一体?」
イシュタルのティアマトのチカラに魅入っていたエンリルだがそのイシュタルの手に抱かれたエルヴィンに気が付くと表情が一変する。
エンリル「まさか。。。そこにいるのはエルヴィン?」




