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74話 少年との出合い

T-SHOCKの被害者である実験体達を救う為に再びT-SHOCK本社ビルに戻ってきたイシュタル。


処理室を破壊した後に向かう先は。。

非常ベルが鳴り響く中、処理室を出るとそこにはエルヴィンが待っていた。


しかしエルヴィンと目があってもイシュタルの表情は硬いままだった。


特に何か言葉を交わす訳でもなくそのままイシュタルは『経過観察室』へ向かおうとする。


すると、慌ただしく銃を持った集団がエレベーターから勢い良く出てきて銃口をイシュタルに向けて静止した。


防毒マスクのような物で顔には覆われ、目はコンタクトレンズ型のARレンズが怪しく光る三浦が本社防衛に残しておいた特殊戦闘員達だ。


「止まれ!!反抗すれば撃つ!!」


「繰り返す!!反抗すれば撃つ!!」


隊長らしき男が叫ぶ。


しかしイシュタルはまるで意に介さない。


向けられた銃に込められた弾丸は特殊な物で通常の銃の弾丸の弾頭部分にはナノマシーンの抑制剤が入っている。


着弾時に皮膚が少しでも傷つくか蒸発した蒸気が目か呼吸器に入っても一定の効果がある。


更に後ろに控えている者たちの装備も対適合者用の物ばかりだ。


それでもイシュタルはゆっくりと『経過観察室』へ向けて歩き始めると集団はためらいもなく行動を開始する。


「撃て!!」


隊長らしき男のその掛け声と共に複数の銃声がその密閉された地下の空間に響き渡った。


しかし、放たれた弾丸は虚しくも空中で静止してパラパラと床の上に落下するのみであった。


するとすかさず前列と後列が入れ代わり、手榴弾のような物を転がすようにイシュタルの近くに投げるとそれからはシューッという音がした。


これもナノマシーン抑制剤を含んだ気体を散布する為の物だ。


エルヴィン「イシュタル!あの気体を吸わないで!」


その声に微かに頷いたかに見えたイシュタルはそっと息を吹きかける。


するとその風はマイナス200度近い凍てつく冷気で周りの水蒸気も二酸化炭素も窒素ですらも凍りつかせながら吐息はそのまま戦闘員達を吹き抜けて遥か奥の廊下の端まで吹き抜けて消えた。


そして一歩イシュタルが歩き始めると後に残った氷のトンネルは粉々に砕け散り、戦闘員達はまた音もなくすべて消え去った。


イシュタル「邪魔。」


イシュタルは一言そう言うとエレベーターの方を見る。


すると今度はエレベーターが牛乳パックでも潰したかの様にクシャリと潰れた。


これでこの建物の地下には入り口も出口も無くなった。


電気のない時の非常階段がないのは本来なら建物の構造としては問題がある。


しかしエンキ達にとっては人命のなど別にどうという問題ではない。


だから地下のこの研究施設にも人に対して当たり前の配慮がない。


このビルには人に配慮するという概念がそもそもないのだ。


そんなビルに再び訪れた静寂の中でイシュタルは『経過観察室』へ入っていった。


外の騒ぎでこの部屋の職員達は既にパニックとなっていた。


この部屋では安定に成功した実験体を保管していてその大半はカプセルに入れてコールドスリープさせてあった。


処理室との違いはこの部屋の職員は震えながらも必死でカプセルにしがみついて実験体を守ろうとしている点だ。


先程の『ゴミの様に処理される実験体』とはまるで扱いが違う。


職員「ま、待ってくれ!これは壊さないでくれ!た、頼む!」


職員「人類の未来がかかっとるんじゃ!」


職員「お願いします!沢山の犠牲の上でやっと安定した検体なんです!」


外界と隔絶されたこの場所で研究者の彼等は中ば隔離されていた。


情報漏えいを避けるためだ。


こんな所に閉じ込められていれば普通の人間ならすぐに閉塞感に襲われてパニックになる。


当然ここの職員達も当然それはあった。


彼等はそれを回避する為であろうかまるで宇宙ステーションの中で植物でも育てているかの様にこの『人体実験』にのめり込んだ。


目の前の命の作成に精神を依存していたのだ。


しかし、そんな彼らの言葉を聞く暇もなくイシュタルはすべての職員達をあっさりと消し去った。


そしてそこにあったすべてのカプセルを破壊すると中で眠る実験体達を眠りから解き放った。


そうして最初に目が覚めたのが他でもない後に外海の魔神に加わり、さらにはイシュタラの国で神殿議会長にまでなる『ヤム』であった。


ヤム「こ、ここは。。。?」


イシュタル「T-SHOCKの人体実験場よ。」


ヤム「T-SHOCK...?ここは病院じゃないの?」


イシュタル「あなた達は病気じゃないわ。悪い人達に騙されて連れて来られたのよ。」


ヤム「悪い人達?」


イシュタル「そうよ。」


ヤム「お姉さんは?お姉さんもそうなの?」


イシュタル「違うわ、私もここで捕らえられていたのよ。だから助けに来たの。もう誰も苦しまなくていいのよ。」


イシュタルはそっとヤムの頭をなでる。


ヤム「ホントに?ホントにここから出れるの?」


イシュタル「ええ、一緒に逃げましょ。他の子たちも皆一緒に。」


ヤム「やったぁ!!ねえ、家に帰れるの?母さんにも会える?僕の病気が感染ったりしないの?」


イシュタル「伝染らないわ。だってあなたは病気じゃないもの。」


ヤム「病気じゃない?そんなはずないよ?同じ部屋のみんな死んじゃったし。。」


ようやく頭が回り始めてコールドスリープ前の記憶がヤムによぎる。


イシュタル「その人たちも本当は病気じゃないわ。健康診断の時に危険な薬を入れられたのよ。」


ヤム「薬。。。?」


イシュタル「だから、感染ったりしないわ。」


そこに続々と他の人も起きてくる。


他の人「今の話、本当ですか!?」


イシュタル「ええ、本当です。」


別の人「か、帰れるんだ。。。」


一気に部屋がざわついた。


少し年配の人「ありがとう、是非わしらを連れて行って下さい。」


そう言うとその人は深々と頭を下げた。


するとすべての人達が涙ながらにイシュタルに頭を下げた。


そうして皆イシュタルに感謝しながらT-SHOCKからの脱出に同意した。


それでヤムもイシュタルに付いていく事になった。



T-SHOCK本社に収容されている者は一般の適合者の中でも特に適正の高い者達だ。


エンキ達はここ数ヶ月、その者たちに惜しげもなく片っ端からイシュタルの細胞を移植させた。


その実験の致死率は凄まじく低く生き残るのは僅か10%に満たなかったのにも拘らずだ。


大変な苦痛も伴い、勿論失敗すれば即処理室行きだ。


それで死ななかった者や、さらにその細胞を元に培養室で作ったクローン細胞や他の動物の先棒と継ぎ接ぎで造られた人造人間達の中で安定して且つナノマシーン研究に有用な実験体のみがここに保管されていた。


もはや人の姿をしていない者も多くいたがそれでも解放されるとあって皆一様に涙を流して喜んだ。


しかし、それは次の悲劇の始まりでもあった。

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