68話 再会
くるみ割り人形との戦いに一応の決着がついたナズィとエルヴィンはイシュタルを休ませている旧55区の施設へ戻る事にした。
イシュタルは夢を見ていた。
男の子と女の子の双子の赤ちゃんの夢。
そしてT-SHOCKの本社に沢山いた実験体達の夢を。
そしてもう一人、誰かのクローンとして誕生しようとしている男の子の夢を。
イシュタルは夢の中で思う。
可愛そうな子達。。。
愛もなく実験で造られた命。。。
苦しめられるだけの使い捨ての命。。。
ただ依代となる為だけに作られた命。。。
どうか救われます様に。。。
どうか。。。
そして遠くからナズィの声が聞こえる。
自分を呼んでいるようなそんな気がした。
夢が真っ白に飲み込まれて、気がつくと目の前にナズィがいた。
ナズィ「イシュタル!よかった。。気が付いたのね!」
イシュタル「。。。。ナズィ?」
イシュタルはマジマジとナズィの顔を見た。
イシュタルは明らかに驚いる。
イシュタル「ナズィ、どうして。。。?」
ナズィ「どうしてもこうしてもないっ!大変だったんだぞっ!」
ナズィは涙ぐんで笑顔を見せた。
イシュタル「いや、そうじゃなくて。。。」
ナズィ「なに?」
イシュタル「どうして頭剃ってるの??」
ナズィ「あ。。。」
ナズィは我に返る。
さっきの戦闘で何かをなくした様な気がしていたのはエルヴィンにもらった帽子だったのだ。
ナズィ「ファ、ファッションよ。。。」
イシュタル「。。。いや、違うでしょ?」
脂汗をかくナズィ。
次の瞬間、突然ナズィはそのアンソニーによって無残に剃られた頭を抱えて絶叫する。
ナズィ「あああああああああーーーーー!!!!」
ムンクの絵の様に叫んだあと、ナズィは泣き崩れてイシュタルにしがみついた。
ナズィ「お願いいいいいー!!イシュタルゥゥゥ!!髪の毛を元に戻してぇぇぇうえーーえんん!!」
イシュタル「え?え?何?なんのこと?」
ナズィ「とぼけないでよおおお!あなた、頭の手術で剃られたナンナの髪の毛を一瞬で元に戻したんでしょ?」
イシュタル「えええ?ナンナの?」
ナズィ「孤児院に行った時に桃井さんが言ってたわ!イシュタルが光った後にナンナの毛が生えたって!」
イシュタル「待ってナズィ!ナンナはどうなったの!?生きているの!?」
ナズィ「生きてるわよおおおーん。目も覚めたわよおおおーーん!それより私の事なんとかしてよーおおおおお!!!」
泣きじゃくるナズィをよそにイシュタルはほっとした表情を浮かべた。
イシュタル「ナンナ。。。目覚めて。。。よかった。。。」
しかしその時、イシュタルは突然吐き気に襲われた。
あわてて立ち上がるとトイレを探してバタバタと扉を開けて回る。
そしてトイレを見つけると便座にうずくまって吐きそうで吐けないといった感じで苦しそうにしていた。
ナズィも驚いて追いかけてきてイシュタルの背中をさすった。
ナズィ「ちょっと大丈夫?」
ナズィもまだ泣いていたがイシュタルの様子が頼み事をできる状態じゃなかった。
しばらく背中をさすって介抱するが、この時ナズィはT-SHOCK本社で聞いたエンキ達の会話を思い出す。
ナズィ:これってもしかして。。。つわり?
ナズィ:あの女の人が言ってた母体に戻した『孫たち』ってまさか。。。?
ナズィ「イシュタル。。。?あなたまさか。。。?」
イシュタルは息を切らせながらうつむいたまましばらく無言だった。
それから少し吐き気がおさまると壁を背にして床に三角座りをして顔をふせた。
ナズィもどう声をかけていいか解らずそっと横に座った。
イシュタル「。。。。ナズィ、わたし多分お腹に赤ちゃんを入れられてる。」
ナズィ「入れられてって、そ、そんなまさかイシュタルの意思は!?」
イシュタル「あそこに捕まってからわたしは人間として扱われなかった。。。社長のエンキ、専務の三浦。この二人はわたしを実験道具として扱った。。。」
イシュタル「全部聞こえていたの。あの人達の会話。。。」
イシュタルの肩が震えている。
泣いているのがわかる。
そんなイシュタルの体から緑色に輝くオーラが溢れ出し始めるとその光は周りを包み込んでいく。
するとナズィの髪はみるみるもとに戻った。
それからナズィの胸の奥が白く輝き始めた。
その光の中からピョンッと何かが飛び出すとそれは猫の形をしていた。
ナズィ「あ。。。!」
やがて白い光がおさまると茶色いトラ猫となる。
エルヴィンだ。
エルヴィン「久しぶりだね、イシュタル!」
イシュタル「やっぱりキミだったのね。」
イシュタル「助けくれてありがとう。」
エルヴィン「ごめんね、遅くなっちゃって。。。」
イシュタル「死んじゃったのかと思ったよ。。。」
エルヴィン「うん。消えそうだったけど、たまたまナズィにリンク出来たんだ。」
エルヴィン「君がナズィに僕のことを話していてくれたからかも知れない。」
イシュタル「もう会えないかと思ってた。」
イシュタルはそう言うとエルヴィンを抱き上げてギュッと抱きしめた。




