64話 激闘
イシュタルの奪還に成功したナズィはかつてエンキ達が眠っていた55区の研究施設へ逃れていた。
深夜
イシュタルをエンリルが使っていた寝室に寝かせてナズィはリビングで腕につけている端末から出した空中ディスプレイを見ながら起きていた。
決して寝苦しい訳でもなく、空調も程よく効いていたがナズィはなかなか寝付けなかったのだ。
その時だった。
エルヴィン:ナズィ!何か来る!
エルヴィンの声と共に突然目の前の空間がグニャリと歪み穴が空いたようになると中から紺藤色の光が溢れて来た。
そしてその漆黒の穴の中からゆっくりとくるみ割り人形が姿を表した。
エルヴィン:ちっ!またお前か!
ナズィ「エルヴィン?し、知り合い。。?。。。じゃないわよね。。?」
くるみ割り人形は表情もなく殺気に満ちた雰囲気で静かに現れるとリビングのテーブルを挟んで対になったソファーの上1メートル程の所で浮いたまま停止した。
ナズィ「な、なんなの。。。?」
エルヴィン:ごめん、また身体を借りるよ!
そう言うと再びエルヴィンはナズィの身体を操ってナズィの口から言葉を発した。
エルヴィン『やぁ!また会ったねぇ。今日はオイラ猫じゃないから分からないかい?』
くるみ割り人形は何も語らず、じっとナズィを見つめている。
エルヴィン『つれないなぁ。。。今日は何の用だい?まさかまたイシュタルに用があるとか言わないよね?』
くるみ割り人形はくるりとイシュタルのいる部屋の方を見ると、少しの間沈黙する。
エルヴィン『イシュタルに手を出すなよ?またぶっ飛ばされたいのかい?』
声をかけられるとまたくるみ割り人形はナズィの方に振り返り、周りは突然真っ暗な闇に包まれた。
次の瞬間イシュタルを施設に残したままそこから数キロ離れた場所にテレポートしていた。
ナズィ:ここは!?廃墟?
エルヴィン:表に出ただけだよ。
エルヴィン『イシュタルを傷つけたくは無いようだ。。。な?』
エルヴィンがそう言い終わるかどうかのところでくるみ割り人形はいきなり高速で飛んでエルヴィンに攻撃を仕掛けて来た。
風を切り裂いて唸るようなパンチがエルヴィンを襲う。
しかしエルヴィンも負けてはいない。
腕を硬化させてガードしながらすかさず反撃する。
ぶつかり合う音は雷鳴の如く響き渡り風を切る動きはかまいたちの如く周りの朽ち果てた街を切り裂いた。
しばらく殆ど肉眼では見えない様な速さでバチバチとぶつかり合った後、くるみ割り人形は空中で止まると紺藤色のオーラを直径10メートル程も膨らませる。
エルヴィン『このオーラ。。。半端ないなぁ。』
エルヴィンの宿るナズィの額に汗がにじむ。
エルヴィン『なぁ、お前ひょっとしてアヌじゃないのか?』
くるみ割り人形は相変わらず何も語らない。
突然、無言のまま膨らませたオーラからエネルギーの塊をエルヴィンに向けて放出するとレーザーの様に一瞬でエルヴィンに命中し、その光はそのまま真っすぐ遥か彼方のカプセルの外壁を貫いてさらに外の地平線の彼方へと突き進んでいった。
光が止むとそこには泡のようなものに包まれたナズィが苦笑いしながら特にダメージもなく浮いていた。
エルヴィン『アブネーよ!まったく、とんでもねぇな。』
エルヴィンはとっさに周りの空間にイシュタラの国の外壁の様な特殊な球体を作りすり抜けたので無傷だったのだ。
エルヴィン:直撃したら流石にヤバかったよ。。。
ナズィ:あ、あいつ強すぎない?
エルヴィン:やっぱりこんな事が出来るのは他にいない。
エルヴィン:恐らく、アヌがあの人形にティアマトのオーラを練り込んで遠隔で操ってるんだ。。。
それから続けてくるみ割り人形は攻撃を仕掛けて来たがナズィの周りの空間をすり抜けてしまい全くナズィに触れられない。
エルヴィン『無駄だよ!』
そう言うと、今度は逆にエルヴィンがその泡の中から白く輝く光の矢を放った。
くるみ割り人形はそれを右手で弾くと矢の起動は曲ってこれもそのまま遥か彼方のカプセルの外壁を貫いて空の彼方へと消えていった。
しかしこれでくるみ割り人形の右腕は消し飛んでいた。
エルヴィン『どうだ!?』
くるみ割り人形は少し攻めあぐねているかに見えたが今度は周りに黒い球体が3つ、くるみ割り人形の周りに現れてくるくるとその周りを回り始めた。
その黒い球はまるで重力レンズの様に周りの光を歪め、その中心は漆黒で何も見えない。
エルヴィン『なんだあれは?』




