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60話 4つの部屋

警備員がナズィの事を幽霊だと騒いでいるスキに更に下の階へテレポートしたナズィ。


気持ちを切り替えていよいよ探索開始する。

トイレを出ると上の階とは対照的に薄暗く人の気配もない廊下。


そして、この建物自体に何か違和感があった。


特にこの地下には何かが足りない。


理由はすぐに分かった。


普通なら当然どこの建物の中でもあるはずの「非常口」の灯りがどこにも見当たらないのだ。


地下なので壁には窓もないのは当然だが、フロア案内図や階の表示はおろか自動販売機のたぐいもない。


まるで


廊下には扉が4つ。


培養室


実験室


経過観察室


処理室


と銘打ったプレートが貼ってある。


ただそれだけなのである。


エルヴィン:これは。。どういう事?


ナズィ:どうしたの?


エルヴィン:うん。。。そこら中からイシュタルに似た波動を感じる。。。?


エルヴィン:特に。。。あそこ!培養室に入って!


ナズィ:う、うん。。。


エルヴィンに言われて恐る恐るナズィは培養室と書かれた部屋に入る。


部屋は明るくいくつものインキュベータ(培養の為の保温器)が立ち並んでいる。


ナズィが入ると中の職員達が一斉に不審そうにこちらを見る。


当然ナズィの姿は見えていないが扉を開いたのがまずかった。


誰もいないのにドアノブが回って勝手に扉が開いたのだ。誰でも不審に思って当然だ。


ナズィはそそくさと中に入ると部屋の隅でじっとした。


それと入れ替わりで職員の一人が入り口まで来て部屋の外を確認するがもちろん外には誰もいない。


上の階でアラート音が鳴っているのもあって上を見ながら納得のいかない表情を見せるも、またドアを閉じて席に戻っていく。


それを見てナズィはホッと一息ついた。


エルヴィン:ごめん、イシュタルの気配に浮足だっちゃった。


ナズィ:イシュタル、ここにいるようにはみえないけど。。。?


エルヴィン:そこら中からイシュタルの波動を感じるんだ。


エルヴィン:培養しているのは恐らくイシュタルの細胞だよ。


ナズィ:細胞を?なんの為に?


エルヴィン:うーん。暴走を止める為のリミッターの検証かな。。?


イシュタル:じゃあイシュタルは細胞を取られる為にさらわれたの?


エルヴィン:うーん。。。どうかな。。。?でも、ここにはすでに二人分くらいのイシュタルの細胞が培養されてるみたいだけど。。。


ナズィ:イシュタルはここにはいないの?


エルヴィン:みたいだね。


ナズィ:そっか。。。


エルヴィン:隣の部屋からかなり違和感のある気配がする。。。


エルヴィン:とりあえず、このまま壁をすり抜けて隣の部屋へ行こう。


ナズィ:すり抜けて?また光るんじゃないの?光るのはまずいよ?


エルヴィン:確かにそれもそうだね。。


その時、天井の通気孔がエルヴィンの目に止まる。


と言っても今のエルヴィンはナズィと一体化しているのでナズィの視界の中で見つけたのだ。


エルヴィン:ナズィ、あの天井の通気孔から行こうか!


ナズィも通気孔をチラリと見たが金属製のアミの蓋がついていて通れそうもない。


ナズィ:いや、無理でしょ?


しかしエルヴィンは自信たっぷりだ。


エルヴィン:大丈夫!オイラにまかせて!


そう言うとメタモルフォーゼでナズィを細いヒモ状に変形させる。


ナズィ:わわわわ!何これ??


エルヴィン:自分で動けるでしょ?


ナズィ:うん?ほ、ほんどだ!ウソみたい!


ヒモはナズィの意思でしばらくグルグルと動き回り、そしてヘビの様にスルスルと通気孔へ入って行った。


通気孔の中はほこりっぽくあまりメンテナンスが行き届いていない様子だった。


ナズィ:うわぁ。。。ばっちい。。。


しかし、通気孔に入るとあっという間に隣の部屋の通気孔の所まで来た。


ナズィが上から中の様子を見るとそこにはかなり衝撃的な光景が広がっていた。


まず、片方の壁には一面ペットショップの様な透明のショーケースになっいて、そこには得体の知れない生き物がいた。


人なのか、動物なのか判別がつかない中間的な生き物の赤ちゃんたち。


動物の様なのに顔が人の様であったりその逆であったり両方であったりした。


他にも


見た目は動物なのに会話をしているもの。


目と口だけがついている肉の塊。


思わず見を背けたくなる様なものも多い。


そして反対側の壁には水槽が並ぶ。


水槽には人魚の様な赤ん坊。


こちらも人と魚が入り混じった様な何かが沢山いた。


そして部屋の真ん中には円筒状態の大型の水槽が並ぶ。


中身は。。。人間だ。


どの水槽の中の人間ももがき苦しんでいるのが分かる。


エルヴィン:な、何だこれ。。。?


ナズィ:気持ち悪い。。。


エルヴィン:まさか生き物を合成して作っているのか?


エルヴィン:確かにナノマシーンに適合した細胞どうしなら拒否反応など修復してしまうだろう。。。 


ナズィ:でも、こんな事して何になるの?


エルヴィン:。。。合体。。。か!


エルヴィン:これまで合体と共生は原生生物の進化において大きな果たしてきた。


ナズィ:合体?生き物が?


エルヴィン:ミトコンドリアが細胞で共生している話は有名だけど、例えば動物の目。これは元々植物の光に反応する能力を動物が合体により取り込んだものだ。


ナズィ:え?目が?そうなの?


エルヴィン:うん。植物の細胞がくっついて進化した物だよ。


ナズィ:へー。


エルヴィン:本来、生命はその位の柔軟性をもっているんだ。


ナズィ:そうなんだ。でも、なのん為にそんなことするんだろ?イシュタルの言っていた難病治療の為?


エルヴィン:この施設が目指しているものは。。。人間の進化?


エルヴィン:この氷河期時代の大量死に対して進化を目指しているのか?


エルヴィン:オリジナルの適合者が人間から直接突然変異で分岐した茎進化くきしんかだとすると、これはまるで冠進化かんむりしんか。爆発的に種類を増やしている。。。


ナズィ:かんむり?何それ?


エルヴィン:まぁ突然変異がくきで異種配合がかんむりぐらいに思ってよ。イブがイシュタルでそこから色んな人種が生まれました。みたいな。


ナズィ:ふーん?で、それじゃここで新しい人類を作ってるってこと?


エルヴィン:それはありえるね。生命は大量絶滅があるたびに進化と世代交代を繰り返してるんだ。


エルヴィン:氷河期という絶滅の時代に適合したナノマシーン適合者。それが次の生命の主役になるために。


エルヴィン:それにしてもこれはあまりにも残酷だよ。。。

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