45話 突然に唐突に
コーガから衝撃的な話を聞いたナズィは改めてイシュタルの行方を探すことを誓った。
ナズィの瞳からポタポタと無意識に涙がこぼれ落ちる。
ラフム「ナズィ。。。大丈夫かい?」
ナズィ「。。。」
ラフム「。。。」
ラフム「コーガさん。」
コーガ「はい。」
ラフム「これは警察に相談すべき内容ではないでしょうか?」
ラフムの額には汗が滲んでいた。
コーガ「はい。。。確かにそうなんですが、それは難しいと思います。」
ラフム「と、言いますと?何か問題でも?」
コーガ「まず、ここ1区1番地の警察は丸っきり当てにならないと思います。イシュタルさんの失踪の時もまるで動かなかったでしょう?」
コーガ「腐敗しきっているんですよ。賄賂も横行しているしそれに。。」
ラフム「?」
コーガ「なんて言えばいいのか。。。これは警察だけの話じゃないんですが。。。」
コーガ「ナノマシーンは制御できれば不老不死を実現します。」
コーガ「そして、社長は既に自身でそれを制御している。」
ラフム「どういう事ですか?」
コーガ「若返っているんですよ。2年前より明らかに。」
ラフム「若返る?」
コーガ「化粧やアンチエイジングじゃあないっすよ。本当に若返っているんです。」
コーガ「その光景を見せられた年配のセレブはどうなると思います?」
ラフム「それは。。。理性を失うやも知れませんね。。。」
コーガ「そうなんです。警察にも議会にもそれに魅せられて社長に近づいた人達が相当数いるんですよ。」
コーガ「そういった人達は花に誘われる虫たちの様に社長に群がります。」
コーガ「そして。。。ゔゔゔ。。!!」
話も半ばに突然苦しみ始めたコーガは喉元を抑えながら前のめりに倒れて気を失った。
飲みかけの紅茶は床に落ちてこぼれ、コーガはテーブルに頭をついて動かない。
ヨーコ「コーガ?」
見ると汗をびっしょりかいて細かく痙攣をはじめている。
ラフムとナズィが呆気にとられる中、ヨーコは叫ぶ。
ヨーコ「コーガ!!」
すぐに瞳孔と呼吸と脈を確認すると腕時計から空中ディスプレイを出して電話をかける。
ヨーコ「サトヤマです!お願い、すぐにポールローレンス・ダンバー高校に救急車を回して!コーガがCPA(心肺停止状態)なの!」
そして慌ただしく電話を切ると
ヨーコ「すいません、AED(自動体外式除細動器)を用意してもらえますか?」
ラフム「わ、分かりました!」
慌ただしくラフムは出ていく。
AEDとは心臓が止まった時に電気ショックを与えるあれだ。
待っている間もヨーコは躊躇なく心臓マッサージと人工呼吸を施す。
ナズィはなすすべもなくそれをただ見守った。
しばらくしてラフムがオレンジ色の手さげの様な形をした器具を持ってくると手慣れた手つきでそれを開け、すぐに中にあった2枚の袋を開けて中から粘着質の電極シートを取り出すとコーガの右胸と左脇腹にそれを貼り付けた。
それから器具の真ん中のボタンを押すと「体から離れて下さい」と言うガイダンスが機械から流れてしばらくするとコーガの体はビクッと脈打つ。
それを何回か繰り返してヨーコはまた脈を計った。
ヨーコの顔に焦りが見える。
そこへ救急車が到着した。
ストレッチャーというタイヤのついた担架に乗せられてコーガは救急車へ。
その間もヨーコは蘇生処置を続けた。
コーガは救急車に乗って人工呼吸器をつけられる。
ここまでは極めてスムーズだった。
これで一安心かと思った。
しかし、救急車は何分経っても一向に発車しない。
ずっと受入先の病院が決まらなかったのだ。
もちろんジョンズ・ホプキンス病院には真っ先に問い合わせた。
そもそも救急車の手配を頼んだのもジョンズ・ホプキンス病院だ。
しかし、ジョンズ・ホプキンス病院の救命救急センターは受け入れを頑なに断った。
ヨーコは何度も病院に抗議電話をかけたがどうにもならなかった。
途中ヨーコのいる難病科に運ぼうとしたがそれも今度は救急隊員に止められて出来なかった。
私服で身分証も所持していなかったからだ。
当然、救急隊員とも口論になった。
そして30分が過ぎた頃ようやくゾーン3に受け入れ先病院が見つかるとヨーコに付き添われてコーガは運ばれていった。
後には、ラフムとナズィが残された。
救急車を見送ったままナズィは言葉も出なかった。
ラフム「ナズィ。。。先生はもうこれ以上君がこの件に関わるのはやはり反対だ。」
不安そうにラフムを見上げるナズィ。
ナズィ「でも。。。」
ラフム「。。。」
しばらく無言になる二人。
ラフム「そうか。。。」
ラフム「それじゃぁナズィ。」
ナズィ「はい。。?」
ラフム「私と結婚しよう。」




