42話 T-SHOCK
ひょんな事からラフムとナズィ、そしてコーガとヨーコ・サトヤマ博士の三人は話し合いの場を持った。
そこでコーガはナズィにT-SHOCKの社長親子の事を明かす。
『T-SHOCK』それは2年前に突如現れた巨大企業である。
エルヴィンの残した研究施設を出たエンキが1区へ戻って作ったのがこの『T-SHOCK』だ。
最初は一軒の小さなレストランだった。
店の看板メニューの『ハンバーグT-SHOCK』や『エビフリャアT-SHOCK』などのセットメニュー、そして『ウナデューン』や『カツデューン』といったライスボウルは食に美味しさを諦めていた当時の人々を熱狂させた。
そう、『T-SHOCK』とはお手頃な価格で食べられるメインディッシュとパンやライス、そしてスープとサラダ等のセットメニューと言う意味の古の言葉から付けたものだ。
エンキは、研究施設にあったテクノロジーを最大限に利用した。
既に絶滅してしまっていた食材を再現した料理も多く、その登場のインパクトは計り知れないものがあった。
当然、他社に真似の出来るようなものではなく、独占的にそのシェアを勝ち取った。
『T-SHOCK』は、またたく間にチェーン店になり、世界に展開し、飲食店のみならずアパレルからハイテク機器、さらには医療分野まで幅広い商品を取り扱う巨大企業へと成長していた。
ここでT-SHOCK コーポレーションの専務取締役である三浦シュウについても少し触れておく。
イシュタルをT-SHOCK本社へ呼び、難病課へ配属したあの人物だ。
彼はエンキと出会う前から失われたナノマシーン技術の研究をしていた。
いや、探求と言った方がいいかも知れない。
古い文献や戦後に放棄されたカプセルの焼け跡からエルヴィンの弟子たちの痕跡を探しているうちにエンキに出会ったのだ。
彼はエンキが1区へ移るときに色々な手助けをした。
エンキ親子にとっては恩人であり、彼にとってエンキ親子はまさに人生をかけて探し求めいた古のテクノロジーその物だった。
そして、三浦はエンキの持つ情報と技術に傾倒していく。
『ナノマシーンリミッターの完成』
『アヌの復活』
そのどちらもが三浦にとっては打ち震えるほどに心踊らせるものだった。
そしてその目的に向けて三浦とエンキの歯車が噛み合うとそれは堰を切ったように進み始めた。
三浦は何者も恐れる事無く、ただそのチカラを畏れた。
虜であり、信者となっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナズィ「社長の息子ってイシュタルが言ってた難病の?」
コーガ「そうです。彼は定期検査の日以外はコールドスリープで眠っています。ナノマシーンの制御が完全になるまではと社長がそうさせてるみたいです。」
コーガ「現状でオレンジのオーラを纏えるのは彼しかいないっすね。」
ナズィ「そのオーラの色って何なんですか?イシュタルは緑色に光ったってナンナの病室にいた桃井って人も言ってましたけど。。?」
コーガ「その辺の説明はヨーコお願い。」
ヨーコ「分かったわ。」
ヨーコ「ナノマシーンが身体に共生している状態でさっき言った『きっかけ』が起るとティアマトと言う未知のエネルギーがナノマシーンを媒体としてどこからか流入してくるの。」
ヨーコ「ティアマトのチカラはその力の波長が短く強くなるほどその波動に応じた可視光線を発する様になるわ。赤から黄色、そして緑と。」
ナズィ「虹みたいな?」
ヨーコ「そうね。虹と同じで波長の強さがそのまま色になって表れているのね。」
ヨーコ「目に見える赤以上で安定するケースを『覚醒』暴走して自滅するケースを『難病』と呼んているだけで両者は同じものなの。」
ヨーコ「オーラのはなつ光が赤外線で目に見えない弱い適合者でも暴走は起こるけど私の知る限りナノマシーンの暴走確率は2割程度かな。ナノマシーンの暴走を制御する仕組みがあるみたいで。。それもよく解っていないの。」
ヨーコ「実際の所、病院側の私達よりT-SHOCKの方が沢山このナノマシーンについての情報を持っているの。まるでずっと以前から研究していたみたいに。」
コーガ「慈善事業部の人間でもわからない事だらけっすよ。その辺りの情報はロックされててなかなか閲覧できないですしね。」
コーガ「俺はコツコツハッキングして調べてましたけど。」
自慢げなコーガだがヨーコは少し呆れた顔で補足を入れる。
ヨーコ「あなたのハッキングはヒーラーさんの端末を勝手に使う事でしょう?」
コーガ「あ、バレた?あの人、パスワードを打つときたまに声に出てるんで。」
コーガ「最近はもう俺の個人端末からヒーラーさんの端末にリモートで入りまくってるんすよ!」
ヨーコ「自慢すること?それ犯罪よ。」
コーガ「でも、そのおかげで色々な事が解ってきたんだろ?感謝してくれよっ!」
ヨーコ「ハイハイ。そうでした!」
ヤレヤレと言った感じのヨーコに不満げなコーガ。
それを見て苦笑いするナズィだったが内心は不安で仕方なかった。
話が進むほどにイシュタルは相当危ない事に巻き込まれている事が予想できたからだ。
そして思い切って訪ねた。
ナズィ「あの、お二人はイシュタルの失踪について何かご存知なんですか?」
コーガ「。。。」
ヨーコ「。。。」
急に険しい顔になる二人。
ヨーコ「ひとつ、言えることは彼女の存在はこの1区にとってもT-SHOCKにとっても非常に重要であると言うことよ。」
ナズィ「どういう事ですか?」
ヨーコ「彼女の放ったあの緑色のオーラはこの世界を変えることも滅ぼすこともできる。それ程強いチカラを持っているの。」
コーガ「ナンナと言う脳死になった女の子がそのオーラにあたっただけで治ったらしいですね。」
コーガ「緑色の様に高い周波の光を放つティアマトのチカラは現実を支配するとさえ言われてるんです。」
ナズィ「現実を支配?何ですか?。。。それ?」
ナズィ「イシュタルは一体?」
コーガ「俺も会社の情報を『ハッキング』してるだけなんで詳しくは分かりませんが、そんな物を議会や軍が放っておくと思いますか?」
ナズィ「軍ってそんなに危ない事になってるんですか?」
コーガ「ちょっとこの記事を見てください。」
そしてコーガはあるニュースをナズィに見せた。
イシュタルの消えた翌日のニュースだ。




