37話 素晴らしいスウィング
イシュタルの失踪。
イシュタルの合唱部のバンドディレクターでもあり、人気ロックバンド『Q-WIN』のボーカルでもあるラフムの所属するミュージックレーベルの新人選抜オーディションの最終選考に残った彼女の行方を巡ってメディアはこぞってイシュタルを取り上げていた。
パターソンパーク
ここはイシュタルがナンナの事故の知らせを聞いたあの大きな公園だ。
日曜日の昼下り、ここでは事故や疾走なんてそんな事無かったかのように普段と変わらない穏やかでエネルギッシュな風景が広がっている。
そしてこの公園の奥の高台にあるオリエンタルな雰囲気の塔の上に一人、ナズィの姿があった。
その塔の最上階、まさにイシュタルと別れたその場所で物思いにふけっていた。
ナズィ:イシュタル。。。一体どこへいったゃったの。。。?
ナズィ:私になんにも言わないで自分から行くなんて絶対おかしい。。。
ナズィは不思議に思っていた。
報道も何か不自然だ。イシュタルがとうして倒れて入院したのか誰もちゃんと說明していない。
桃井の話もよくわからないが不思議なのは桃井の言っていたイシュタルが光ったと言う話をメディアでは全く報道していない事だ。
桃井の人柄と話の信憑性で誰も相手にしなかったのかも知れないがやはり不自然だ。
イシュタルは学校にこないしアパートにもいない。
病院の難病課にも来ていない。
記者を避けてこのところ孤児院には殆ど桃井もいない。
桃井もずっとナンナの病院だ。
そう言うナズィも今、記者から逃げてこ今まさにこにいるのだ。
イシュタルがいなくなって既に2週間、ナズィなりに探してみたがなんの手掛かりも掴めていなかった。
ナズィは深い溜め息をつく。
ナズィ「はぁぁぁぁ。。なんかモヤモヤする。。。」
ナズィ「とは言っても私にはどうする事も出来ないんだよね。。。」
と、途方に暮れるナズィの元に桃井から連絡があった。
空中ディスプレイで電話に出たナズィは画面を出したまま骨伝導で会話する。
ディスプレイには『桃井さん』と表示されている。
桃井「ハロォ、ナズィ?」
ナズィ「こんにちは、桃井さん。どうしたんですか?」
桃井「奇跡だ!奇跡がうぉこったんドゥ!」
ナズィ「まさか?イシュタルが見つかったんですか?」
桃井「すまなぁい。。。そうじゃぁない。」
ナズィ「そうですか。。。」
桃井「そおじゃぁないがナンナが、ナンナが目を覚ましたんだ!」
ナズィ「え。。。本当に!?」
ナズィ「イシュタルが知ったらどんなに喜ぶか。。。」
桃井「あぁ。。。そうなんだ!この事ウォ知ってウィたらきっとイシュタルは。。。どうやっティでも戻って来てくれるさ。」
ナズィ「そうですよね。。。きっと。」
ナンナの回復に一縷の希望を見たナズィは今は願うしかないと思っていた。
電話を切ったナズィはまた公園の風景をぼんやりと眺める。
スポーツ施設の多いこの公園は相変わらず活気にみちている。
野球場からの掛け声も心地よい。
ランニングしてい人々。
そしてテニスコートには太った男性と痩せた女性がテニスをしている。
ナズィ「あれは。。」
その女性をナズィは見たことがあった。
遠かったが視力のいいナズィはそれが誰だかわかった。
イシュタルがいなくなってからナズィは難病課にも幾度か訪ねている。
その時に見た女性だ。
そして、もう一人。
ナズィ:あの男の人は誰だろう?
テニスラケットを振るフォームは様になっているのだがまるでラケットにボールが当たっていない。
気になったナズィは塔を降りてこっそり隠れながらテニスコートのそばまで来た。
コートを囲むフェンスの周りには茂みが沢山ある。
ひとつ羨ましい事にこの時代に蚊は絶滅している。
カプセル内に夏はない。
昆虫はおろかペットや養殖の生き物以外の殆どが地上から姿を消していた。
植物の茂みにも害虫の類は一切いない。
ナズィはそんな無害な茂みの中にそっと隠れて二人の会話を盗み聞きした。
スコーン!
スコーン!
ラケットがテニスボールを弾く音が響く。
女性「辞めなくても良かったんじゃない?」
スカッ!
素晴らしいスウィングで空振りをする男。
男性「。。。。」
女性「。。。。」
そしてまた女性のサービスが続く。
タムタムと地面にボールを打ち付けて調子を見る女性。
そしてボールを高く上げると叩きつけるように打ち込んだ。
女性「イシュタルさんの件はあなたのせいじゃないわ!」
スコーン!と言う音とともに突き刺さる様に男性の側にボールは飛ぶ。
スカッ!
そして、また素晴らしいスウィングで空振りをする。
男性「。。。。」
女性「。。。。」
ナズィ:イシュタルの話をしている!?




