36話 失踪
脳死した筈のナンナが目覚めた。
それは事故から一ヶ月後の事だった。
ナンナが目覚めるまでのこの一ヶ月の間には色々な事があった。
少し時間を遡る。
まず、イシュタルが入院してから程なくナズィが夜に孤児院を訪ねてきた。
病室へ行っても面会謝絶でイシュタルにもナンナにも付き添っている桃井にも会えなかったからだ。
ウルク孤児院にて
桃井は興奮気味に話す。
桃井「ナズィ、イシュタァルは光ったンだよ!」
ナズィ「は?」
桃井「光ったぁんだよ!キレイなグリーンさぁ!」
ナズィ「ちょっと待って何の話?」
桃井「イシュタァルさぁ!光がブアーッとこう!部屋中グリーンね!そしたら何が起こったぁと思う!?」
ナズィ「???」
桃井「ナンナの毛が生えたぁのさ!」
ナズィ「桃井さん。。な、何を言ってるの?」
桃井「あぁぁ!もう!誰も信ディないんだぁ」
桃井「そしたぁら病院の先生達が来てイシュタァルに何か薬をのませトゥんドゥ」
ナズィ「薬?」
桃井「そう!そしたらイシュタァルの光が小さくなっティ!そのままイシュタァルは連れてウィかれたのさぁ。。。」
ナズィ「どうゆう事?」
桃井「わたぁしニモさっぱりさぁ。。。?」
ナズィ:はぁ。。。ダメだこの人通訳がいるわ。。。
興奮して見たままを話した桃井だったが、突拍子すぎてナズィには全く響かなかった。
しかしそれからイシュタルが入院してから2週間後の事だった。
桃井が難病科にイシュタルの様子を訪ねに行った時に突然退院したと言われたのだ。
愕然とした桃井はイシュタルのアパートへ行くが留守だった。
それから桃井はナズィを訪ねて見ることにした。
すると、アパートからナズィの家の中間地点でナズィの自転車は放置されていた。
桃井にもその自転車は見覚えがあった。
桃井はすぐにナズィに腕時計に内蔵された電話で連絡を取る。
腕時計を見る様な仕草をすると空中ディスプレイが現れて後はスマホと同じだ。
それでイシュタルが消えたとナズィに伝えた。
それを聞いたナズィは慌てて言われた場所まで行くとナズィの自転車が道端に放置されており、その傍らに桃井が立っていた。
桃井「ナズィ!こっちんだ!」
ナズィは「こっちんだって何なの?」と思いつつも桃井の元へ急いだ。
桃井「こっちんだ!早く!」
ナズィ「私の自転車。。。!どうしてこんな所に?」
桃井「ん?こっちんだって誰?」
ナズィ「は?」
桃井「ナズィがこっちんだ?」
ナズィ「ふざけてるの!?」
桃井「わたぁしのバア様の名前、81区ではこっちんだと言うファミリーネームがあるらしいね。」
ナズィ「いや、私の自転車。。。」
桃井「何のハナシディスか。。。?」
ナズィ「聞きたいのはこっちです!」
桃井「。。。。。。!!」
桃井「そう!イシュタァルの病院!」
桃井「毎日面会にウィッたのに、ウィつの間にか退院してぃるスィ。。。」
桃井「いなくなるしぃ。。。」
ナズィ「いなくなったって?どこに?」
桃井「わからないよぉ!!」
ナズィ「会社か難病課は?私、電話してみる!」
そう言うと今度はナズィが電話をする。
すると、難病課では退院後に一度連絡があったらしく、その時イシュタルはコーガに連絡を取ろうとしたがコーガは既に退職していたらしい。
そして、それを最後に難病課の方からも消息が分からなくなっている。
とはいえ、まだいなくなってから一日しか経っていない。
普通ならそこまで騒がないが入院明けな上に消え方が余りに不自然だ。
すぐに警察に捜索願を出したが既にイシュタル自身が孤児院から自立していた為に届けを受理されるまでに時間がかかってしまった。
警察もやる気がなくあまり本格的には捜索している様子がない。
何かにつけて非協力であった。
そんな事をしている間に数日が過ぎてしまう。
しかし、イシュタルは一向に見つからない。
そこで、桃井は合唱部のバンドディレクターであるラフムにも相談した。
こちらは非常に協力的で大々的にイシュタルを探してくれた。
しかし、それがラフムの所属しているレーベルに伝わるとイシュタルのオーディション参加が危ぶまれるようになった。
これがメディアに露出する所となり一気に世間の知るところになる。
イシュタルの美声とチアリーディングの映像、そして何よりその美しい容姿と戦争孤児という悲運の人世にミステリアスな疾走。
全てが格好の報道ネタであった。
歌姫はオーディション前に奇しくもワイドショーによってその知名度と人気を得る事となった。
「消えた奇跡の歌姫」
そんな呼称が定着している事など本人は知る由もなく。
そして、ナズィはイシュタルを探す為に一人独自で奔走していた。
僅かの間にイシュタルを取り巻く世界は変わっていた。
そんな中でナンナは目覚めた。
メディアの流す映像はイシュタルの疾走で染まっていた。




