27話 別室
■前回までのあらすじ
ナズィに会って気力を取り戻したイシュタルは一刻も早く情報を集める為にあえて平日に学校を休んで難病対策課に出社した。
しかし、そこで待っていたのは先日直接会話をした患者の死であった。
■登場人物
イシュタル
17歳、女性
ポールローレンス・ダンバー高校11学年(高2)
合唱部とチアリーディング部を兼務
8年前の1区西海岸独立戦争で家族を亡くし戦争孤児としてウルク孤児院に引き取られた。
三浦シュウ
年齢不詳、男性
T-SHOCKコーポレーション専務取締役
ドラゴ・ヒーラー
40歳、男性、体重102キロ
難病対策課課長
かなり腰が低い。
メガネをかけている。
ドラゴ・コーガ
35歳、男性、体重110キロ
難病対策課
メガネをかけている。
ジェシカ・キム
30歳、女性
ヒーラーをいつも冷たく諌めている。
エルヴィン
ナノマシンを知るというイシュタルにしか見えない不思議な猫
■その他
ジョンズ・ホプキンス病院
イシュタル達の学校や孤児院からほど近い世界屈指の病院。
『T-SHOCK』から強力な資金と技術援助を受けており、この中にT-SHOCK慈善事業部難病対策課が設けられている。
イシュタルは激しく動揺していた。
自分の選択が直接人の死に繋がるかも知れないという事をどこか遠い世界だと思っていた。
人助けのつもりでここに来た自分がいる。
それと目の前の現実とのギャップはあまりに大きかった。
目の前が真っ暗になって頭の中であの患者の声がぐるぐると回った。
□ □ □ □ □
た、頼む!拘束具を外してくれ!気が狂いそうだ!
俺はまだ呑まれてはいないんだ!頼む!
□ □ □ □ □
私は何もできなかった。。。
エルヴィン→イシュタル:イシュタル!イシュタル!
エルヴィン→イシュタル:イシュタル!!
イシュタルはハッとした。
イシュタル→エルヴィン:ごめん。ぼーっとしてた。。
エルヴィン→イシュタル:今日ここに来た目的を忘れないで!
イシュタル→エルヴィン:わかってる。。
エルヴィン→イシュタル:今度はイシュタルの方からコーガに仕事をもらおうよ!この『難病』を裏で操作している人間が必ずいる!
イシュタル→エルヴィン:ジェシカさんに色々教えてもらうのはダメ?わたし、あのコーガって人苦手だし。。
チラリとコーガを見る。
コーガは相変わらず顔をしかめながらその大きな体に不釣り合いな小さな端末をパチパチやっている。
イシュタル:やっぱちょっと苦手だな。。。
話しかけるきっかけもなく、そんな事を考えていたら時間だけが過ぎていく。
そうしてなんの進展もないまま小一時間も経った時、今度はジェシカからイシュタルに話しかけてきた。
ジェシカ「イシュタルさん。ちょっと別室へ来てもらえますか?」
唐突だったが手詰まりだったイシュタルにとっては渡りに船だった。
イシュタル「え?あ、はい!何でしょうか?」
ジェシカ「ちょっとしたテストと検査をします。」
イシュタル「わ、わかりました。」
ジェシカ「じゃ、こちらへ。」
ジェシカは席にあった自分のバッグを持って同じ階にある、6人がけのテーブルがあるだけの小さな会議室へイシュタルを案内した。
そこに向きあって二人は座る。
すると、唐突にジェシカはイシュタルに直接会話で話しかけてきた。
ジェシカ→イシュタル:聴こえますか?
イシュタル「え!?」
イシュタルは驚いてジェシカの顔を見る。
イシュタル→ジェシカ:ジェシカさんも難病なんですか。。?
ジェシカ→イシュタル:どういう事ですか?
イシュタル:あ、思わず言っちゃった。。
イシュタルはこの能力のある者は難病患者と同じだと聞かされていた。
ジェシカの突然の直接会話に思わず仲間がいた様な気がして思わず口を滑らせてしまったのだ。
しかし、ナノマシンをばら撒いている者がどこかにいるとしたらまだイシュタルがそういった事に気が付き始めている事を誰にも知られる訳にはいかなかった。
慌ててエルヴィンはイシュタルに
エルヴィン→イシュタル:イシュタル!ややこしくなるからオイラの事は秘密で!
とイシュタルを制した。
ジェシカは表情を曇らせている。
ジェシカ→イシュタル:どうしてそう思ったんですか?
イシュタル→ジェシカ:え?あ、いえ、患者さんしかこれできる人いなさそうなんで。。
するとジェシカは少しキョトンとしてイシュタルを見ている。
イシュタル→エルヴィン:あ、怪しまれたかな。。?
エルヴィン→イシュタル:うーん。。どうだろ?この人もどこまで知ってるのかわからないし。。
ジェシカ→イシュタル:患者さんと何か話しました?
イシュタル→ジェシカ:い、いえ。。拘束具を外してほしいと言ってました。
イシュタル→ジェシカ:それから、自分は呑まれてないとか。。?
ジェシカ→イシュタル:他には?
イシュタル→ジェシカ:えっと。。引っ張られそうになって気がついたら周りの人が倒れてたとか?
ジェシカ→イシュタル:それだけですか?
イシュタル→ジェシカ:それぐらいだったと思います。
ジェシカ→イシュタル:そうですか。。
ジェシカは少し沈黙した。
イシュタル→エルヴィン:どうしよ?怪しまれてる。。?
エルヴィン→イシュタル:落ち着いて、普通にしてて!
ジェシカ→イシュタル:あなたはこの能力と難病の関係についてどう考えていますか?
イシュタル:何て答えればいいんだろ。。
少し悩んでからイシュタルは答える。
イシュタル→ジェシカ:この難病ってこの特殊能力と何か関係してるんじゃないかと。。。
イシュタル→ジェシカ:だから。。わたしもいつか。。。患者さんみたいになるんじゃ。。ないかって。。
イシュタル「。。。。」
ジェシカ「イシュタルさん。。。心配性な様ね。」
ジェシカ「心配しないで。『あなたは』大丈夫よ。」
イシュタル「え。。?どうしてですか?」
ジェシカは隣の椅子に置いていた自分のバッグから何か機械を取り出すとイシュタルの顔の前にそれをかざした。
するとその機械はピッという音がして何かを計測した様だった。
ジェシカ「。。。予想以上の数値ね。」
イシュタルには意味が分からない。
体温計でもなさそうだ。
イシュタル「あの。。何を?」
ジェシカ「来週精密検査をしましょうか。」
イシュタル「精密検査?やっぱりどこか悪いんですか?」
ジェシカ「悪くないです。むしろその逆。素晴らしい数値よ。」
イシュタル「???」
イシュタル「あなたのお陰でこの難病の未来がひらけるかも知れない。」
ジェシカはそう言うとイシュタルの手を取って羨望の眼差しを向けた。
イシュタルは訳もわからずただ困惑していた。




