22話 絶望
■前回までのあらすじ
突然コーガから患者を任されてしまったイシュタル。
途方に暮れていると。。
■登場人物
イシュタル
17歳、女性
ポールローレンス・ダンバー高校11学年(高2)
合唱部とチアリーディング部を兼務
8年前の1区西海岸独立戦争で家族を亡くし戦争孤児としてウルク孤児院に引き取られた。
ラフム
年齢不肖、男性
音楽教師
神がかった音楽指導能力を持つ。
人気ロックバンド『Q-WIN』のシンガー
イシュタルの合唱部のバンドディレクター
桃井
年齢不肖、男性
ウルク孤児院の院長
旧世界のロックシンガー、フレディ・マーキュリーを崇拝
ピンクが好き
ナンナ
12歳、女性
戦争孤児としてイシュタルと一緒にウルク孤児院に引き取られた。
リリイ
年齢不肖、女性
3歳まで犬に育てられた。
ウルク孤児院にて保護されている。
ナズィ
17歳、女性
イシュタルの同級生
チアリーディング部のチームメイト
ボーイッシュな金髪ポニーテールの女の子
ナンシェ
24歳、女性
『T-SHOCK』アッシュランドアベニュー店の店長
真面目で少し近寄り難い雰囲気のある
三浦シュウ
年齢不詳、男性
T-SHOCKコーポレーション専務取締役
ドラゴ・ヒーラー
40歳、男性、体重102キロ
難病対策課課長
かなり腰が低い。
メガネをかけている。
ドラゴ・コーガ
35歳、男性、体重110キロ
難病対策課
メガネをかけている。
ジェシカ・キム
30歳、女性
ヒーラーをいつも冷たく諌めている。
ヨーコ・サトヤマ博士
36歳、女性
ジョンズ・ホプキンス病院で教授をしながら難病科の研究と治療を請け負っている。
■その他
『T-SHOCK』アッシュランドアベニュー店
ナズィがアルバイトをしているレストラン
イシュタルもこれから働く事になった。
ポールローレンス・ダンバー高校
イシュタル達の通うハイスクール
ウルク孤児院
桃井からは想像がつかないがプロテスタント系の教会の流れをくむ孤児院。
ジョンズ・ホプキンス病院
イシュタル達の学校や孤児院からほど近い世界屈指の病院。
『T-SHOCK』から強力な資金と技術援助を受けており、この中にT-SHOCK慈善事業部難病対策課が設けられている。
イシュタル「この声。。」
困惑するイシュタルに謎の声は直接会話をしかけた。
謎の声→イシュタル:この声が聞こえるかい?
イシュタル「え?なに?」
謎の声→イシュタル:声はじゃなくてこっちで答えて!
イシュタル→謎の声:こっち?
謎の声→イシュタル:そう!やればできるじゃん!
イシュタル→謎の声:あの。。あなたは何者なんですか?
謎の声→イシュタル:目の前にいるよ。よく見てごらん。
イシュタル→謎の声:え?何も。。見えない。。けど?
辺りを見渡すイシュタル。
すると1メートルほどの距離に小さなモヤが見える。
それは次第に猫が寝そべっている様に見えてきた。
しかしその猫はピクリとも動かない。
イシュタル→謎の声:猫さん?生きてるよ。。ね?
じっと見つめるイシュタル。
やはり猫は動かない。
それでもしばらく見つめていると猫のヒゲがにわかに動いた気がした。
すると次の瞬間、猫はぴょんと飛び上がってクルリと周り挨拶をした。
謎の声→イシュタル:やあイシュタル!僕はエルヴィン。ようやく会えたね!
イシュタル「!!!」
驚いて言葉を失うイシュタル。
それを見てエルヴィンは首をかしげて優しくイシュタルに呼びかける。
エルヴィン→イシュタル:。。。イシュタル。
その声は張り詰めた空気を和らげる。
イシュタル→エルヴィン:ね、猫。。。ちゃん?
エルヴィン→イシュタル:そう!今は君にしか見えない特別な猫さ!
イシュタル→エルヴィン:私にしか。。?
エルヴィン→イシュタル:長かった。。。一度切れてしまった糸はなかなか繋がらないんだ。
イシュタル→エルヴィン:ど、どうして猫が人間の言葉を話せるの?
エルヴィン→イシュタル:じゃあ君はどうしてこうやって口を使わずに話してるの?
イシュタルはハッとした。
イシュタル→エルヴィン:わたし、どうしてこんな事ができるの?
エルヴィン→イシュタル:これは直接会話(SP)といってナノマシン適合者の能力の一つだよ。
イシュタル→エルヴィン:ナノ。。。マシン。。。?
エルヴィン→イシュタル:オイラもこの時代に何が起こってるか分からないけど君に確実に言える事がある。
イシュタルは困惑しながらも恐る恐るエルヴィンの話に耳を傾ける。
イシュタル→エルヴィン:な、なに?
エルヴィン→イシュタル:君もこの難病の患者もナノマシンの適合者だ。
イシュタル→エルヴィン:え。。。?
ポカンとするイシュタルにエルヴィンは
エルヴィン→イシュタル:つまり、君も遠からずその患者さんみたいになるかも知れないんだ。
イシュタル→エルヴィン:ど、どう言う意味?
エルヴィン→イシュタル:つまり、君がこの病院でいう難病を発症するってこと。
それを聞いてイシュタルは愕然とした。
イシュタル「そ、そんな。。」
エルヴィン「声がでちゃってるよ。」
エルヴィン「だから、そうならない様にする方法を探すんだ。」
イシュタル「わたし、どうなっちゃうの?」
エルヴィン「今のままじゃ一ヶ月以内にここの患者と同じになるかも知れない。」
イシュタルは目の前が真っ暗になる。
目の前にいる全身を拘束された苦しそうな患者。
自分もそうなると思うとその光景が胸に突き刺さった。
せっかくお金を得て自立し、ナンナを引き取ろうという望みが叶うところだったのに。
天国から地獄に引きずり降ろされた気持ちだった。
イシュタルの目から涙がぽたぽたと流れ落ちる。
そしてその場で泣き崩れてしまった。
エルヴィンは慌てて
エルヴィン「わっ!泣かないで!僕に考えがあるから!」
エルヴィンは慰めようとするがイシュタルは泣き続けた。
エルヴィン「幸いここはナノマシンを研究している様だし、まず情報を集めてみようよ!」
エルヴィン「元気だして!きっとオイラ達の出会いには意味があるんだ!」
イシュタル「わたし、死ぬの?」
エルヴィン「オイラがきっと何とかしてみせるよ!」
イシュタル「ホントに?」
エルヴィン「ホントさ!」
イシュタル「ホントにホントに?」
エルヴィン「ホントにホントさ!」
イシュタル「どうやって?」
エルヴィン「まずはこの病院が持っている情報を集めよう。それから55区に行こう。」
イシュタル「55区?そんな遠くへどうやって?」
エルヴィン「移動手段はまかせて!それよりそこには僕の残した研究施設があるはずだなんだ。」
イシュタル「研究施設?猫なのに?」
エルヴィン「オイラ、今は猫だけどこのナノマシンの暴走についてずっと昔に研究してたんだ。」
イシュタル「まさか。。?」
エルヴィン「信じられないかも知れないけど今は信じてもらうしかないよ!」
エルヴィン「だって今、こうしてオイラと話してる事自体が普通はありえないじゃないか!」
確かにあり得ない状況である。
あり得ない待遇。
あり得ない無茶振り。
そして目の前の不思議な猫。
イシュタルはこのあり得ない状況の連続にあってこの見知らぬ喋る猫をすんなり受け入れていた。
なぜならこのエルヴィンという猫からは邪悪な感じどころかとても優しく温かい波動を感じていたからだ。
イシュタル「わたし、助かるの?」
エルヴィン「オイラの研究施設に行けば、そこにこのナノマシンの暴走を抑えるリミッターがあるはずだ。」
イシュタル「リミッター?」
エルヴィン「この患者みたいなナノマシンの暴走を止める為のものだよ。」
イシュタル「さっきから言ってるナノマシンって何なの?これは病気じゃないの?」
エルヴィン「ある意味病気だけど違うね。これは人間を強くする為に意図的に作られた目に見えない位小さな人工ウイルスの様なものなんだ。」
イシュタル「人工的って。。。誰かがばら撒いているって事?」
エルヴィン「そこまでは分からないよ。でも、ナノマシンは勝手に他人へ感染したりしないから。。。」
イシュタル「伝染ったりしないんだ。。」
エルヴィン「うん。とりあえず情報を集めよう。君や例えばこの患者さんにも何か共通点があるはずだよ!」
イシュタル「うん。。。」
そしてイシュタルは、ようやく涙を拭いて立ち上がった。




