11話 『T-SHOCK』本社
レストラン『T-SHOCK』のアルバイトをする事になったイシュタル。
しかしその初出勤の日、いきなりイシュタルのアルバイト用の口座には5万ドルもの大金が振り込まれ、イシュタルは本社に招かれる。
『T-SHOCK』はイシュタルが想像もしない事態になっていたのだ。
程なく来た迎えのヘリコプターに乗り込んでナンシェとイシュタルは『T-SHOCK』本社のあるワシントンへ向かっていた。
しかし、機内ではそのあまりのことにイシュタルはすっかり萎縮していた。
ナンシェ「大丈夫よ。ちょっとお話するだけだから。」
イシュタル「は、はい。。」
ナンシェが落ち着かせようと声をかけてもイシュタルの目は不安と慣れないヘリコプターですっかり涙目だ。
そんなイシュタルを他所に30分ほど飛ぶとワシントンにあるとあるビルの屋上のヘリポートへとヘリはゆっくりと着陸した。
ナンシェ「さ、着いたわ。行きましょう。」
イシュタル「は、はい!」
先にヘリコプターを降りたナンシェに続きイシュタルも降りようとする。
しかし、緊張のあまり、足を滑らせて転げ落ちてしまった。
イシュタル「キャッ。。」
ナンシェ「危ない!」
とっさのことで誰も反応できない。
イシュタルは落ちる瞬間、痛みを覚悟した。
が、その覚悟は徒労に終わる。
イシュタル「あれ?痛くない。。。」
体はフワリと持ち上がり、何事もなかったかのように地面に着地すると
「危ないよ。」
と耳元で誰かに耳元で囁かれた様な気がした。
イシュタルは慌てて辺りを見渡すが誰もいない。
不思議そうにイシュタルが呆けているとナンシェが駆け寄ってきた。
ナンシェ「大丈夫ですか?イシュタルさん?」
イシュタル「え?あ、はい!何とも。。ない?です。」
ナンシェはイシュタルの無事を見てほっと胸をなでおろした。
ナンシェ「良かった。では行きましょうか。」
イシュタル「はい!」
二人はそれからビルの屋上に設置された小さな建物のホールからエレベーターに乗り込み、30階建てのビルの丁度真ん中の15階へ向かう。
エレベーターはガラス張りで外の様子が一望出来た。
イシュタルはその絶景に思わず目を奪われる。
しかしそれも束の間、あっという間にエレベーターは15階に到着するとチーンという音と共にエレベーターの扉が開く。
すると柔らかそうな青い絨毯の広々とした廊下に出た。
目の前には木製の重厚感のあるドア。
ドアの数からこの広いフロアに部屋は3つ程しかなさそうだ。
ナンシェが緊張した面持ちでそのドアをノックする。
ナンシェ「イシュタルさんをお連れしました。」
すると中からの男性の声で
「どうぞ。」
と聞こえる。
ナンシェ「失礼します。」
とドアを開けてから
ナンシェ「イシュタルさん、とうぞ入って下さい。」
と自らはまず脇に控えてイシュタルが部屋に入るのを見届けてから自分も入って少し後ろで立ち止まった。
大きな部屋に大きなデスクがたったひとつ。
その背後には壁一面の窓が外の景色を見下ろしていた。
そのデスクには品のある中年男性が一人、革製のしっかりとしたチェアーにゆったりと腰を掛けている。
そしてその男性は、イシュタルを見るとニコリと笑顔を見せてから話し始めた。
「どうも初めまして、T-SHOCKコーポレーションの専務取締役の三浦シュウです。」
慌ててイシュタルも挨拶をする。
「は、初めまして。イシュタル・フセイン・カヤと申します。」
三浦シュウ「失礼ですがあなたは賀陽家のご息女だったそうですね。」
イシュタル「は、はい。。。」
三浦シュウ「先の西海岸独立戦争ではさぞ辛い想いをなさったでしょう。」
イシュタル「い、いえ。。。」
唐突に家の話が出て死んでしまった家族を思い出し、イシュタルの表情は陰った。
三浦シュウ「すまない。辛い事を思い出させてしまったね。実は私は若い頃に賀陽家にお世話になってね。。賀陽家の方々の事は非常に残念に思っています。」
イシュタル「。。。。」
しばらくイシュタルはうつむいて沈黙がつづく。
三浦シュウ「まあ、硬くならないでください。それにあなたに来てもらったのはそんな個人的な用件ではありません。」
イシュタル「では、私はどうしてここに連れてこられたのでしょうか?」
三浦シュウ「先日の健康診断であることがわかったのです。」
イシュタル「あること?」
T-SHOCKコーポレーション専務取締役の三浦シュウという男の真の用件とは何なのか。
一体、イシュタルには何があると言うのだろうか?
この時、イシュタルは全く想像もつかなかった。




