7話 放課後
■背景
2913年、マミイが消滅してから2年の歳月が流れていた。
ここは1区ゾーン5、旧アメリカのワシントンから東へ50キロ。メリーランド州ボルモチア跡のカプセル。
イシュタルの保護者面談の為に学校に忍び込んだ桃井はイシュタルのクラスで教師ラフムに見つかる。
■登場人物
イシュタル
17歳
ポールローレンス・ダンバー高校11学年(高2)
合唱部とチアリーディング部を兼務
8年前の1区西海岸独立戦争で家族を亡くし戦争孤児としてウルク孤児院に引き取られた。
ラフム
年齢不肖
音楽教師
神がかった音楽指導能力を持つ。
人気ロックバンド『Q-WIN』のシンガー
イシュタルの合唱部のバンドディレクター
桃井
年齢不肖
ウルク孤児院の院長
旧世界のロックシンガー、フレディ・マーキュリーを崇拝
ピンクが好き
ナンナ
12歳
戦争孤児としてイシュタルと一緒にウルク孤児院に引き取られた。
リリイ
年齢不肖
3歳まで犬に育てられた。
ウルク孤児院にて保護されている。
ナズィ
17歳
イシュタルの同級生
チアリーディング部のチームメイト
ボーイッシュな金髪ポニーテールの女の子
■その他
ポールローレンス・ダンバー高校
イシュタル達の通うハイスクール
ウルク孤児院
桃井からは想像がつかないがプロテスタント系の教会の流れをくむ孤児院。
ラフムの授業の後
職員室前に異質な二人の姿があった。
二人共オールバックで立派な口ひげを蓄えている。
そしてどちらも筋肉隆々だ。
かたやパンイチに剛毛、そしてかたやシースルーのガウンにピタピタのラメラメで全身ピンクだ。
これがロックバンドの楽屋ならいざしらずここはハイスクールの職員室前の廊下だ。
いや、ロックバンドでもなかなかこれだけ個性的な人間はそう居ないだろう。
二人は行き交う人々の中、注目の的だった。
ラフム「事情はよく分かりました。」
桃井「ありがとございまぁす!」
ラフム「ですがMr.桃井。イシュタルさんの気持ちも考えてあげて下さい。」
ラフム「彼女はこのハイスクールではスター的な存在です。容姿や才能だけじゃなくとても努力家です。」
ラフム「孤児院と言うこともありますが正直彼女は貴方を認めていない。」
桃井「。。。それは分かってまぁす。。」
桃井「やっぱり私の服装のせいでしょうか。。?」
ラフム「いえ、僕の美的センスではあなたは結構いいと思いますよ。」
桃井「ノー!先生!私は全く毛濃いくないんでぇす!」
ラフム「そうですか?僕は結構好きですよ。」
桃井「知ってますよぉ!先生が毛濃いすぎなのは!私は羨ましい!」
ラフム「。。。ん?」
桃井「。。。え?」
ラフム「。。。コホン。とにかく、彼女が努力している様にあなたも努力なさってください。」
ラフム「信用や信頼は一朝一夕には作れないものだと僕は思います。」
その時ハイスクールに、ジリジリジリ。。。と終業のベルが響いた。
ラフム「おっと、タイムを見てください。。」
桃井はハッとする。
桃井:体毛を見てください?
桃井はそれならばとじっとラフムの胸元にびっしりと敷き詰められたデンジャラスを見つめると思わずウットリとした。
ラフム「もうこんな時間です。いかなければ。」
桃井:毛根の時間?定期的なお手入れが必要なぁんですね。。
桃井「体毛を大切にぃ、されてうぃるんですね。。」
ラフム「ええ。タイムは大切です。」
ラフム「続きは後ほど面談の際に。」
桃井「分かりまぁした。ありがとございまぁす!」
立ち去るラフムの背中を見ながら桃井は心の中で思う。
桃井:感動しまぁした!ライブの時の様に。。体毛メンテナンス、頑張ってくぅださい!
桃井はこの時、有り難すぎて落涙していたがもうすぐ面談なのでその顔はやはり笑っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
放課後
イシュタルとナズィはこの日いつもより早く二人で下校していた。
イシュタルの体調を理由に部活も休んでナズィが付添でイシュタルの住むウルク孤児院まで送る事となったからだ。
しかし、イシュタルは酷く落ち込んでいた。
ラフムの気転で桃井の事が知れ渡る危機を逃れはしたがもう一つイシュタルの心を深く沈ませる事があっのだ。
それは桃井が窓から顔をのぞかせた時に投げてしまったマイクの事だ。
そのマイクは将来歌手になりたいと言うイシュタルが孤児の身でありながら苦心してお金を少しずつ貯めてやっと買ったものだった。
とっさとはいえそんな大切な物を桃井に投げつけて壊してしまったのだ。
下校中しばらくナズィがなぐさめても無言が続いていたいたイシュタルだったが突然沈黙を破って話始めた。
イシュタル「。。。ナズィ、私バイトする。」
ナズィ「え?」
イシュタル「。。。お金、必要だし。バイトする。」
ナズィ「え?あ!ホントに!?」
引きつった様に愛想笑いをするナズィ。
ナズィ「じゃ、時間あるしこのまま面接いく?」
イシュタル「今から?」
ナズィ「ちょっと急すぎ?」
少し驚いたイシュタルだったがすぐに覚悟は決まった。
イシュタル「ううん。いく。」




